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運命の悪魔に見初められたんだが、あまりに純で可愛すぎる件について  作者: しるどら(47AgDragon)
第一章

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020:ゴルガッシュ


 やれやれ、ドラゴン様の気のきいた歓迎のおかげでえらい目にあったぜ……。


「ご苦労さま、エイヤ。大丈夫だったかい? さすがだったね!」


「まあ、なんとかな」


 ヴィーデがお疲れ様って感じで近づいてきて声をかけてくれるのがありがたいが、時計塔の魔神ってのは絶対こいつのことだろうなあ……。


 その様子を見て、ドラゴンが割って入ってくる。


「ふむ、人間よ……あえてそう呼ぼうか。そなた、運命に愛されておるな? 魔神に、その花の香りを存分にまとう栄誉を授かるとは、心底気に入られていると見える」


「さっきから人間人間うるせえよ……ってか、俺にはエイヤって名前があるんだよ。あとこいつはヴィーデ。挨拶が終わったってなら、いい加減、人を種族名で呼ぶなっての」


 あいかわらず、ドラゴンがなんか話すたびに地響きが起こる。

 サイズ的に上から目線なのは仕方ねえが、名乗りもなしに失礼かましといて延々と人間呼ばわりされると流石にムカついてくる。

 しかも、知られたくもない余計なところまでしっかりバレてやがる。くそったれ。


「はっ、許せエイヤとやら。久々の来客だ、こうして話すのも久しくてな」


「気安いのはありがたいんですけども、せめて死なない程度によろしくしてもらいたいぜ」


 アンタは久しいかもしれねえが、こっちはいちいちおっそろしいんで。


「む、道理だな、では名乗ろう。我は古竜にして大地の震竜ゴルガッシュドーン。エイヤ、その方の胆力を認め、我が盟友になることを許そう。そして時計塔の魔神、名を得たか」


「エイヤの使い魔ヴィーデだ。もう時計塔の魔神じゃない。ボクも、こんな古い呼び名で呼ばれたのは久しぶりだねえ、ゴルガッシュ」


「そうだな、ヴィーデよ。いい出会いがあったようでなによりだ」


 ヴィーデが笑いながら古竜の名を愛称で言うし、ゴルガッシュもそれに気安く返す。

 あれ、まさか知り合い? そして盟友ってなにそれ。


「ちょっと待て、ヴィーデ。お前さん、もしかしなくてもお知り合い?」


「……ああ、うん。実はそうなんだ、ゴルガッシュは数少ない知り合いでね。昔、何度か会ったんだ。でも、知り合いってわかっちゃうと、エイヤはボクを使おうとするだろう?」


 すごくつらそうに、ヴィーデが申し訳なさそうな面持ちで言う。


 あー。

 いろいろと考え直してみれば、まあそうだな、そうだよなあ……たしかにそうだ。

 俺の性分からして、使えるもんはなんでも使おうとするに決まってる。で、ヘタに仲介を頼んだら最後、ゴルガッシュは俺を対等になんか認めねえってことだな。


 それでなんかこう、道中が微妙な感じだったってのか。


「なるほどね、合点がいった。ヴィーデが応援って言ってたのは花のことか。理由は知らんが、あの花の香りをつけた俺はヴィーデに認められてるってことになるわけだな」


「すまない。ボクは……エイヤを騙すような形になってしまったと思う」


 あああ、そこでしょげるなよ、頼むから。

 そもそも先が見えすぎるんだし、わかってりゃつい手が出るなんて普通だろうがよ。

 おまえさんが悪気なんて無いのは十二分に承知してるし、計画的だったとしても純粋な厚意からに決まってるのわかってるって! おまえさん、嘘もまともに付けねえじゃねえか。


「気にすんな気にすんな。ヴィーデがホントに俺のこと思ってくれやったのはわかるから。言ったろ、現場は俺の担当だから好きにやれって。その通りにしたんだ、褒められるとこではあっても、そんな顔するところじゃねえぞ?」


「ああ、エイヤ……キミってやつは。ボクを喜ばせすぎておかしくさせる気か?」


 うお、ヴィーデが感極まって抱きついてきやがった!?


 くそ、こう言うの苦手なんだっての……そもそも俺は特に感謝されるようなことしてねえし、ヴィーデは初めて思うようにやったんだから、そこ褒められるとこだろ……。

 だいたい、こんな美少女にあけすけに抱きつかれるとか慣れてねえんですよ……俺、アウトドア系引きこもりですよ?


 でもその……こんなに喜ばれちゃ、不慣れでも、流石に優しくなでてやるしかねえじゃねえかよ。

 ええとその、これ、どうやったら安心するとかなんかあるの……わかんねえなもう!


「はっは、我の前でなかなか見せつけてくれるな、エイヤ。古竜を目の前にして、のろけられたのは初めてだぞ。なかなかやってくれる」


 うおお、無茶言うなよ! そのドラゴンツッコミすげえいろいろ怖いんだけど!?

 楽しそうに言いやがってくれますけど、こっちはこっ恥ずかしいんだよ!


 だいたい、どこの誰が好きで古竜の前でいちゃつかなきゃいけねえんだっての! そういうのはヴィーデに言ってやってくださいよ、恥ずかしすぎて死ぬぞ俺。

 なんでこんな、とんでもなくすげえドラゴンと魔神に羞恥プレイさせられてんだ……。 


「あー。なんつうかそのあのええと……ほら! コイツがこんなに喜んでんだから、相手してやんなきゃ悪いだろ!? 人としての礼儀ですよ礼儀!」


「ほほう、竜の眼前でいちゃつく礼儀か。また言霊で縛ってくれようか」


「ちょ、冗談になってないから、それ!?」


 古竜が容赦なくて泣きそう。ただでさえアンタの声は震えるほどデカイんだから!


「ああ、すまないゴルガッシュ、すっかりないがしろにしてしまったな。エイヤもありがとう、もう大丈夫だ」


 そして当のヴィーデさんは、すてきな笑顔でご満悦ですよ。

 まあ、調子戻ったようだし、それでいいか。


「うむ。旧知の友や、めずらしく気持ちのよい人間に出会えたと思えば……やれやれ」


 古竜もぼっちで拗ねるってのは、世紀の新発見かもしれねえな……。


「あー、それでゴルガッシュさんよ。すまんが話を戻すけども。盟友に認めるとかって大層な言い回しだったが、いいのか? ちっぽけな人間なんかと友人になっちまって」


「構わぬ。そも、迷宮を単独で突破し魔神にまで愛された者を、我が盟友と認めてなんの問題がある。己を過小評価するものでないぞ」


「ああ、ゴルガッシュはこれでもお硬いやつで、豪怪ぶってるけど根がマジメなんだ。手順を踏まないと、知り合いの紹介ですらなかなか認めてくれないんだよ」


「ヴィーデよ……それはさすがに我が威厳と矜持というものがだな……」


 人外の超越存在って、意外とおちゃめだって知った。

 ……まあ初対面でドラゴンジョーク(オヤジギャグ)かますようなやつだし、自業自得とも言える。


「まあ、光栄だと思っておくよ。ただ、人間はどうしたって、すぐ見た目に左右されっから、そこは勘弁してくれ。そんで、そもそも俺の目的は探索調査だけだったんで、これで終わりなんだが」


 とりあえず依頼はクリアと言える。

 こっからはちゃっちゃと帰って報告なんだが、なんかこう、色々マズイ気もする。

 迷宮であんなクソ攻略させるヤツなんてろくなもんじゃない。


「ほう、では盟約のことは本当に知らぬか。ならば伝えよ、迷宮の宝はなくなったと」


「……宝?」


「うむ。此処は、我が突破者の願いを聞き届ける迷宮だ。もっとも、地上ではその情報が失われて久しいようだが」


 最近は情報もなくて誰も来なかったってのに、嗅ぎつけた変なやつが来たってわけか。

 まあ願いって言っても、ゴルガッシュが気に入らないと蹴るんだろうけど。


「でも、それならアンタの判断次第だろ。なんで俺が?」


 ゴルガッシュが嬉しそうに目を細めながら言う。


「願いのない突破者が現れた。故に、我は盟約のくびきから解き放たれたということだ」


「うん、おめでとうゴルガッシュ。言ったとおりだったろう?」


「……さすがに古竜でも1000年は長いぞ、魔神の」


 なるほどなあ。

 なんか、とくに願うこともない俺が突破したせいで自由になったとかヴィーデの予言とかなんとか、人外同士の積もる話がいろいろあるらしい。

 あ、もしかして、そういうところも含めて俺が盟友って扱いなのかね?

 それよりもこの件、思った通り面倒な話になりそうだな。


「まあ、俺の方はモノのついでだから、なんだって構わねえよ。ただ、人にお使いを頼むってことは、なんか面白い話とかあるって考えていいか?」


 ギルドの依頼が踏み倒されるってことは無いだろうが、とにかく依頼人はクソ野郎だ。なにがあるかわからない。

 もともとヴィーデから聞いて知ってるから、俺もイライラしすぎないで済んでるが、冒険者稼業の使い捨てみたいな依頼なんてのは、どんな理由だろうと下の下だ。


 ただ、そういうクソとやり合うってことは、こっちもクソを踏む覚悟は必要だ。


「ふ、決まっておる……エイヤよ、そちらにメリットがなければ、この話、旨味がなさすぎるであろう? 特にヒトなぞ、身近な損得で動くもの。人間の流儀にのっとり、我が一肌脱ぐというものよ」


「え、いやその」


 高らかに笑いながら言ってくれるのはありがたいんですけど、悪い予感しかない。

 一般的に言って、こんな素敵サイズのエンシェントドラゴンさんがなんか動くって話になると、どんなコトでもスケールが大きくなると思うんですよ、ええ。


く伝えるがよい……我が軽く灸をすえてくれようぞ」


「ぶっ!?」


 だめえええ、それダメなヤツ! 綺麗さっぱり街が地図から消えちゃうヤツ!!

 気軽に言っちゃいけないやつだから、それ!


 やっぱり、俺をストレスで殺す気まんまんじゃねえか、このドラゴン!!

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