015:調べもの
まあ、なにはともあれ、知らないものはまず調べるしかない。
ドラゴンなんていうものは、まず対処の仕方が存在するのかもわかんねえし、なにより、どうでもいい情報まで拾っておいて損はないはずだ。
自分より格上のものは、まず攻略情報からに決まってるしな。
とりあえずヴィーデに聞いてみるのと、ギルドの文献やらなんやら片っ端から調べまくるところからだ。
「ヴィーデさんや。まずドラゴンについて知ってることをとりあえず教えてもらえると助かる」
「んー、案外気のいい連中だと思うけど怒ると怖いかな。でも人間相手だと、話もまともに聞いてくれないかも」
悲しい答えがさっくり明るく返ってきた。
ヴィーデからはこれ以上の答えはあまり期待できないと思う。ナチュラルすぎるし対等だからな……。
「気がいいって言っても、人間相手じゃなあ」
人外の強い連中ってこう、人間をコケにしてくるんだよな。
まあ俺がドラゴンだったら、もちろん人間なんて面倒くさいヤツは下に見ると思うからわからなくもないんだが。
だって、俺ら虫とかペットとかに対して無意識に上から目線だからな。たぶんあんなもんなんだろう。
それでも、礼儀わきまえるのは大事なのかね、やっぱ。
逆に、挨拶もそこそこにある程度テキトーなほうが大目に見てくれたりすんのかな。
でも、そのへんはなんとも言えないか、相手次第だし。
一応、話は通じる可能性はある、と。
あとはギルドの文献だが、これは歴史書や報告書とかそういう方面の話になる。
盗賊ギルドってより冒険者ギルドとか傭兵ギルドとか、そっちのほうが深い。
ただ、盗賊ギルドは文字読めねえ連中も多いし、傭兵ギルドはまず契約書以外に文献をあまり残さない。
冒険者ギルドくらいしか、まともな文献はなさそうだ。
まあ冒険者って言えば聞こえはいいがなんでも屋だからな。珍しいものに対する資料はいろいろありそうな気はする。
「さて、じゃあちょっくら調べ物してきますか」
「うむ、ボクは留守番をしていればいいのだな」
「そういうことだ、おとなしくしてろよ?」
ヴィーデは、宿で一人ってことで寂しげかと思いきや、案外けろっとしている。
なにせこの外見の良さだ、下手にどっかのギルドとかでバレると説明するのもいろいろめんどくさそうだからおいていくことにしたのだが。
……こりゃ完全に留守中に勝手に行動するやつだな。
それはもう、わくわくが止まらないって顔をしている。
とりあえず、自分で危険はないと判断したなら「本当に危険はない」んだろうから放っておこう。そういう意味では最強の存在だし。
こういうときは運命ってのも便利だな。
そんなわけで、一人で冒険者ギルドに来た。
「ミルトアーデン冒険者ギルドにどんな御用件でしょうか?」
美人というより可愛い系の受付嬢が、気持ちのいい挨拶をしてくれる。
正直羨ましい。
盗賊ギルドなんか、基本的に一見さんをお断りにするのが仕事なので、受付にはいかめしい顔のおっさんしかいない。切ない。
「あー、ちょっといろいろ調べたいことがあってね? 文献とか古文書周りの資料閲覧をお願いしたいんだ」
ギルドカードを出しながら、資料閲覧願いを申請する。
俺は冒険者ってよりかは盗掘、斥候寄りなので、一応登録はしてるものの、冒険者としての活動実績はそんなにない。
別のギルドがメイン活動なのと、いまいち人と合わないことが多いってのが原因なんだが、マイペースでやってるとだいたいそうなりやすい。
俺に言わせれば他人は必要なことをしないように思うし、他人に言わせると俺は凝りすぎとかえげつないらしい。戦闘とか、効率的で便利で楽ならそれでいいと思うんだけどな。
なので、依頼でもなければパーティとか入らなくなって久しいし、何事も自分でやるのが性に合ってるようにも思う。
孤独に生きてきたせいか、世間の流れとか空気ってやつとはどうも上手く付き合えない。
だからって、ギルドにも所属してないってなると、世の中さすがに生きるのも難しい。
自分らしくしたいってだけなのに、組織に寄り添わないと生きていけない。
難儀な世の中だ。
「かしこまりました。ではこちらにチェックをお願いします」
こうやって、本一つ閲覧するのに盗難防止チェックってのも世知辛い世の中だが、仕方ない。
稀覯本とか持っていったり売り飛ばすバカも居るからなあ。
情報ってのは知ってナンボなんだけど、モノを知らないほど必要がないと思う厄介なもんだからな。
まあ俺みたいな独り者にはありがたい、おかげでこうやって資料を集められる。
「どれどれ……」
さすがにそこそこの街のギルドなんで、ドラゴンぐらい有名な存在になるとそれなりに資料がある。そのへんを片っ端から読んでいく。
こういうとき、文字を読めるだけでも便利だな。
思えばヴィーデの遺跡だって、誰も読まないような埃のかぶった文献から知ったんだし、情報ってやつはだいたい完璧ではないものの、本当に馬鹿にできない。
どこまで正確かはわからんが、とにかくドラゴンの習性やクセ、生態を頭に叩き込む。
ぶっちゃけ、半ば誇張されてんじゃねえかって話もクソ多いんだが、大人数動員しての討伐作戦など、実際の事件で参考になる話も多い。
いい話では、ヴィーデの言った通り、敵対しないことがあるってやつだ。
人間なんかよりずっと強いせいで、一応、話は聞いてくれやすいらしい。そういう情報の裏が取れたってのはでかい。
中には、戦わずしてドラゴンを従えたとかって話まであって、なかなかそういうのはロマンがある。特に、いまの俺みたいなのには、そうあってくれると非常に助かる。
逆に、一番嬉しくない情報は、弱点らしい弱点はないってやつだ。
ヴィーデとは逆に、物理と魔法における最強って感じの存在らしい。なんだそれ、もはや生物じゃなくないか?
逆鱗とかいう特別な鱗なんかもあるらしいが、別に急所でもなかったらしい。
なんだそれ、どう攻略するんだよ。とか思うんだが。
討伐もほぼ失敗みたいだし、むしろ数件の討伐ってどうやったんだ? そこ書いとけよ!
でも、たしかに冷静に考えてみれば、火のドラゴンがいたとして、それに見合った強さの氷魔法唱えられるやつとか物理的にいない。
火事の時、バケツ一杯の水があっても、それは有効って言わねえだろってやつだ。
あたり一面、氷の山にできれば別なんだろうが、湖とか蒸発させちまうようなドラゴン相手に、そうそうなにかできそうな気もしない。
隠れても、鼻が利くらしくてどこにいても見つかるらしい……ってどうしようもねえじゃねえかオイ。
物語とかにある、岩陰に隠れてやり過ごしたみたいなのは嘘っぱちかよ!? 夢ねえな!
まあ、そんなんでも、ぼちぼち参考にはなったとは思う……できれば役に立たないで済むと嬉しいんだが。
とりあえず、これ以上時間かけても、俺が使えそうな効果的な情報はそんな出てこなさそうなので、準備に必要なものを帰りがけに見つくろって、宿に戻った。
「ただいま……って、うぉ!?」
「おかえり、なんかいい情報はあったかい?」
戻ってみれば、満面の笑みのヴィーデと、部屋いっぱいに花が飾られていた。
色とりどりの花が、所狭しという感じに並べられている。
床やベッドには香りのいい花びらが散りばめられている。
え、これ、ヴィーデがやったのか?
こんなの、見たことないぞ。




