011:ヴィーデさんモフられる(挿絵あり)
「おや、イケスカナではないのか」
「あたりまえでしょう」
「イオンナでもない?」
「違うわよ! ああもう……私はユアンナ、こう見えても盗賊ギルドの副長よ。まったく、なんでこんなところで名乗りなんかさせられて……アンタのせいだからね?」
ユアンナは頭を抱えながら話を振ってきた。
どうも俺に話を持ってきたいらしいが、ウチのお嬢様は無邪気で世界最強の引きこもりだからなあ。マイペース具合で勝てると思うなよ。
「ふむ、そうかそうか。ボクはヴィーデだ……ああ、名乗りが出来るってすごくいいなあ」
「……?」
ヴィーデ、ほんとに名前が嬉しいんだな。
名乗るのが初体験で、どきどきして仕方ないって顔してやがる。
「ああ、すまない、こっちの話だ。よろしくユアンナ。お、なかなかに面白い運命をしているね、これはもしかすると縁があるかもしれないなあ」
「なにこの子、占い師? そういうのは間に合ってるわよ……って」
ユアンナはそう言ってはぐらかそうとしたが、そこでフードの中のヴィーデの素顔に気づいたらしい。
かなりじっくり見られた。
これはまずいことになったりしないか、大丈夫か?
「きゃー! この子かわいいー!? なにこれ天使? まさか天使? ひょっとしなくても天使? こんな生き物本当にいていいの? うわやば、見た目だけじゃなく手触りまで尊い、死ぬ、死んじゃう。ねえ、抱いていいモフっていい? せめて撫でていい?」
「ちょ……んぅ!? エイヤ、なんだこれ! ボクどういう反応をすればいいの!?」
「もふーん!!」
どたばたどたばた。
許可取る前に全部やってるじゃねえかオマエ。
別の意味でまずいというか、見るからにダメな反応だった。
まさかこうなるとは思ってなかったが、ユアンナがどう見ても人間をやめているっぽい。
完全にとろけている。
もし、ヴィーデが死ねって言ったら、鼻血吹いて尊みのあまり倒れて死にそうな雰囲気まである。むしろ本望な気さえする。
とりあえず、いい意味でおかしい方向に行ってるから悪いようにはしないだろう。
変に勘ぐられて、痛くもない腹の探り合いをさせられるよりはいい。
ぶっちゃけヴィーデの素性は面倒くさいので、ギルドに報告とかしたくないし。
「あー、ユアンナさんや。彼女そういう可愛がられるのになれてないから、そのへんで勘弁してやって、眺めるだけにしてくれ」
「ちぇー、眼福眼福」
悔しがるかほっこりするかどっちかにしろ。
「ああ助かった……モフるってこういう事を言うんだね、覚えておこう」
「普通は初対面でいきなりしないけどな……」
ぶっ壊れた狐獣人恐るべし。
というか、一瞬でここまで人をダメにするヴィーデも恐ろしいけども。ユアンナのこんな姿も初めて見た。いつもは優秀なクセに天然系のセクシーお姉さんだもんな。
まあ、俺もヴィーデの外見にやられたクチなので、人のことはあまり言えない気もする。
「いい? 可愛いものを愛でるというのは、自然の摂理であり世界の法則だわ。だからヴィーデちゃんを愛さないというのは、つまり、人として風上に置けないっていうことよ」
なんか、もっともらしく真面目な顔で言ってますけどね。
そのモフり具合のほうが人としてよほど風上に置けないですユアンナさん。
「ほう、ボクは可愛いのでモフられるのが正しいのか」
ヴィーデもそこ真に受けるな。
「あー、ヴィーデが美女でも美少女でもあり、可愛いのはその通りだと思うが、初対面でいきなり抱きついた挙句、その正当性をうそぶく女なんか信用するもんじゃないぞ」
「可愛い子は世界の共有財産として愛でて崇めて拝むものでしょう? だいたいどこでこんなとんでもない子を引っ掛けてきたのよ、そういう性格でもないでしょうアンタ」
ヴィーデに抱きついたまま、すごい勢いで突っ込まれた。
むしろ引っ掛けられたのは俺なんだが。26年かけて。
ユアンナはとにかく気安い。
だから、こうやってずけずけ踏み込んでくるのがすごく上手い、しかも見た目が良くて天然で悪気がこれっぽっちもないから、するっと入り込んでくる。
たぶん、こっちが露骨に嫌がったらまた違う態度をとるんだろう。
きっとこうやって、いろんな奴から情報引き出すんだろう……怖いなあ。
「まー、なりゆきだよなりゆき。それ以外に俺がこんなお嬢様と関わり合いになるとかないし。だいたい表通りの店に行ってない時点で察しろ」
「へーぇ、じゃあなりゆきなら私も混ざっていいってわけかしら? ほら、こうやって出会ったのもなにかの縁でしょう?」
うーわ、うまい話があるなら混ぜろって言ってきやがった。
だからこいつはめんどくせえってのに。あーもー、変に顔寄せるなっての。
「いやまあ、縁かもしれないけどな。こっちにもちょっと色々めんどくさい事情ってやつがあるんですよ。だから察しろ言っただろ」
「えー、もったいない。せめてもう一人くらい人手があったほうがいいんじゃない? 特に男以外の必要がある場合だってあるでしょう?」
世間話みたいに軽く言ってくるくせに、こいつは本当に目ざとい。
なにかしら事情がある、逃避行やお忍びじみた事情があるってわかった上で、女の自分がいたほうが便利だろうし絡ませろって言ってきているのだ。
だからって、こっちも帝国まで行くってことになるわけで、これから魔族連中まで絡むってわかってんのに、さすがにおいそれと副長連れ出すなんてOKができるものでもない。
「うーん……そうは言ってもな」
「ま、それはそれとして、頼みたいってこともあってね。ほら、最近はなんか個人的なことにかかりっきりだったでしょう」
「頼みたいこと?」
それはそれとして、ヴィーデはすっかりおもちゃにされてるなあ。
無駄な抵抗だと観念したのか、ユアンナの抱きまくら状態になっている。
まあ本人が嫌がらないならいいか……。
「そう、頼みごと。ちょーっと、できればあなたの腕で調べてきてほしいのよね」
「あー、今は面倒なことなら全部キャンセルだぞ。人連れてるんだし、危なっかしくてしょうがない」
「そうなの? せっかく簡単な仕事で実入りがいいものなのに」
そう言って楽だったためしないだろ、テメエ。
まったくギリッギリのいい感じのところ放り込んできやがるからな。
「お前さんの話はいっつもヤバイからなあ」
「でも、ヴィーデちゃんのためにもお金が必要なんじゃないの? アンタのポケットマネーで足りてるならいいんだけど?」
まったく目ざといなこの狐め。
いかにも恩を売りますって感じの表情しやがって。
「ったく仕方ねえな、もう少しだけ教えろよ」
「アンタの得意な遺跡モノよ。未探索の洞窟遺跡が見つかったんで、地図作るだけだわ」
手付かずの遺跡なんて、なにがあるかわかんねえしガチでトラブル満載じゃねえか。
普通はパーティ組んで地道に調べるもんだぞ。
まあ、だから俺みたいなのが成り立ってるんだけど。
「で、エキスパートの俺にってわけ? 所詮、一人じゃ持っていける宝もたかが知れてるってわけですか。わかんなくもねえけどな」
普段の俺なら別に断る仕事でもない。だいたい一人でどこにでも飛んでいくし、目端が利くってことでの黒鷲って名前だ。
だが、今はヴィーデの手前、どうすっかなあ。
「とりあえず、明日の朝までに答えだしとく、それでいいか?」
「OK。それじゃ邪魔したわ……ヴィーデちゃん、またモフらせてね?」
「また!?」
いまだ困惑中のヴィーデをよそに、ユアンナはそのまま颯爽と去っていこうとした。
ってところに、ヴィーデの天然が入った。
「……ユアンナさんとエイヤ、仲いいんだね」
「「そうじゃないから!?」」
ユアンナとハモった。
ユアンナもイラスト描きたいね…_:(´ཀ`」 ∠):
って言ってたらうっかり時間無いのに描きました。
ちなみに下は、サイドのあいたスパッツみたいなもんです、ぱんつじゃないです、あんしん。




