63話 対人戦、開始!
草原のど真ん中、呑気に歩く敵パーティーに奇襲するべく、スタンブレイカーを構える俺。しかし、その手をベルがそっと止めた。
「ベル……?」
「……すみません。ワタクシのわがままだと言うのは分かってるんですけど、その、初めての戦いなので……」
そう言って、言い淀む彼女。おおよそ、最初だからこそちゃんと相手と向き合いたいというところだろうか。
「……ちゃんと戦いたいって?」
「……!……はい、せめて、正々堂々と。最善策では無いことは分かっているのですが、どうしても……」
「まあ、いいんじゃないか?」
「え……?」
「ベルは勝つための戦法も理解した上で、自分のわがまま……というより、"美学"を追及したいってわけだ。そういうのってやっぱ痺れるよな!」
俺の言葉に、目を輝かせながらウンウンと頷くベル。彼女らしいというか、なんというか……。まあ、俺たちはパーティーだ。全員で方向性を決めるべきだからな。
「よし、というわけで、あいさつに行こうじゃないか。ラヴィもそれでいいかな?」
「了解」
「ただし、そこからは俺も俺の美学に従って、バチバチ麻痺らせていくからな。そのつもりで、よろしく!」
「……もっちろんですわ!!!」
そして俺たちも、せっかく隠れていた茂みから堂々と飛び出し、呑気にピクニック気分で歩きだした。
ふふ、なんて緊張感のない対人戦なんだろうか。
* * *
そして――
俺たちは遂に、三人の冒険者と対峙した。ショートソードを構えた剣士の男が二人、格闘家風の男が一人だ。
いやパーティーバランスどうなってんだよ。
「……ふん、お前が噂の"麻痺使い"か。臆病者らしく、こそこそ逃げ回ってるのかと思ってたぜ」
剣士の男が即座に口を開く。いつの間にやら麻痺使いとして知られていたそうだが……いきなり挑発とは、いいねぇ、血気盛んだねぇ……!
「まあ、そのつもりだったんだけど、うちのお嬢様が真っ正面から叩き潰したいとのことでな」
「なっ!?……ふん、威勢がいいのも最初だけだ!後で泣きを見るぞ」
「そっちがな」
ピリッ――
空気が一瞬張りつめる。次の瞬間、男は剣を振り上げながら俺に迫ってきた!
「死ねやあぁぁぁぁぁ!」
「【パライズ】」
「あがっ!?……あぁあぁあぁあぁあぁ――」
よし、正々堂々麻痺させてやったぞ!とにかくなんでも麻痺らせる、これが俺の麻痺の美学ってところか。
ここぞとばかりに、麻痺ってその場に崩れ落ちた男の脳天に向かい相棒を叩き付ける。
ゴキッ――
骨にじんと響く嫌な感触が右腕を駆け上がる。男はガクッと白目を向き、直後にシュンッと体が消え去った。
ほうほう、倒したらこうなるのか。残るは二人だが――
ラヴィのほうを見ると、丁度剣士を倒し終えた所だった。うん、やっぱ強過ぎるよあんた。ラヴィが倒した二人目の体が消えた瞬間、ヴーーーっというサイレンが響く。
『勝者、パライジング・グレイス』
そして無機質な音声が、俺たちの勝利を告げた。
なんだか、あっという間の試合だった。勝利の凱旋でもしようなどと考えていと、怒声が響いた。
見ると、一人残った格闘家が魔導書を持ったベルにぶんぶんと殴りかかっていた。
「おい、もう決着は――」
「うるせぇ! せめてこいつだけでもぶっ潰す!!」
男は聞く耳を持たず、執拗にベルに襲いかかる。ジリジリと追い詰め、ベルは躱すのに必死だ。さすがに魔法職のベルじゃあ近接相手に分が悪過ぎる……!
だが――その時。
彼女の魔導書、グリム・ド・ベルが光を帯びているのに気付いた。まさか、攻撃を躱しながら魔力を溜めていたのか……?
「ちっ、いい加減倒れちまいなぁ!」
格闘家風の男は苛立ちからか、攻撃がやけに大振りになっていく。ベルはその隙を見逃さず、右手に持った魔導書を掲げ――
そのまま高速で振り切った! いつ以来か、あの痛烈なお嬢様ビンタの分厚い魔導書バージョンが男の頬に炸裂した!
「ぶへぇっ!?」
ドシィッという鈍く湿ったような音が響き、男はズザザッと後退り盛大に転倒した。あんな、国語辞典みたいなので殴られたら相当痛いだろうな……
「はあぁぁぁぁぁ……!」
さらにベルはそのまま魔方陣を展開。その手元に魔力が収縮していく。来る――あのお方が――!
「て、てめぇっ……!」
立ち上がった男は左頬を真っ赤に腫らしながら、怒りの形相でベルに駆け寄る。
そして、絶対にいらないだろという程に体を大きくのけ反らせ、渾身の一撃を放とうとしている。
「くらえぇぇっ……!」
「いきなさい、セバスチャンッ!!」
ベルの号令に呼応するように、執事風の右腕が高速で飛び出し、男の腹にめり込んだ……!
「ぶぶふぁッ!?!?」
男は口から、キラキラしたものを吐き出しながら綺麗な放物線を描き、数メートル先でズズン、と沈んだ。
「……ふぅ、往生際が悪いですわよ?慎みなさい」
魔導書をパッパッと払い、そう吐き捨てるベル。やべぇ、格好いいじゃんうちのお嬢様。
再びヴーーーっという音が響き、辺りが暗くなる。
気付くと元のだだっ広い空間に変わり、いつの間にか入場ゲートの大扉前に立っていた。
「俺たち、勝ったんだな」
「……ええ、そうみたいですわね」
「楽勝、だった」
俺たちは三人でハイタッチを交わすと、意気揚々と闘技場を後にした。
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