48話 祝!初遠征クリア! ゲストはあの人!?
遠征から帰ってきて、もう数日が経った。
いやぁ……正直、まだ足腰がちょっと痛ぇ。慣れない遠征で重い荷物担いだせいだな。
でも今日は、そんな疲れなんて吹き飛ぶ――記念すべき、お祝いの日だ!
「マヒルさん、本当に行くんですの?」
「あったりまえだろ!ベル、お前だってウキウキしてんだろ?」
「そ、そんなこと……ありますわよ!」
「拙者も、楽しみ」
今日は、ちょっと背伸びして“高級店”に行くんだ。
俺たちが普段行くのは、安い酒場か屋台。泥臭くて騒がしい、あれはあれで好きだけど……
今夜は違う。
貴族街にほど近い飲食店通り。土曜日の夜の、少しの贅沢だ。ちょっと気取ったようにも思える店構えは、外観からして期待値爆上がりだ。
丁寧な装飾が施された扉を開けると――
「うお……」
「まぁ……!」
「ほぁ……」
中は混んでるけど、安酒場と違って落ち着いた喧騒。
酒の香りもどこか上品だし、テーブルもベタベタしてない。なにこれ、新世界?
席に案内されて、俺たちはさっそくメニューを開いた。
……が、その瞬間。
(たっけぇぇぇ!!)
いつも行く酒場、銀の猪の数倍の値段だ。
一瞬、腰抜かすかと思ったけど、冷静に考えたらこれ、地球の感覚なら“めちゃ安”だ。
上質なエールがなみなみと注がれて四百ゴルド。大衆居酒屋もびっくりだ。
……相場バグってんのか、この世界。
「……でも、今日は食べてもいいよな?」
「え、えぇ!もちろんですわ!」
「うん。今日はお祝い」
――で、しばらくして、俺の目の前に黄金色の液体が置かれた。
プレミアムエール。泡がきめ細かくて、ビールのCMみたいに美しい。
俺はジョッキを持ち上げて叫んだ。あ、もちろん抑えめの声でだ。TPO、大事。
「ぃよっし!さあ、今日は飲むぞぉーーー!!」
ベルも「おぉーーー!」って声を上げ、ラヴィは無言で手を挙げる。
なんか……最高だな、この空気。
料理も次々と運ばれてきた。香草をまぶした猪ロースト、バター香る海老の串焼き……。明らかにランクの違う品々、鼻をくすぐる香りは胃袋を刺激する。
正直、高いだけでさして味は変わらんだろうと、ちょっと舐めていた。だが、普段食ってるのとは比べもんにならない旨さだ。
「これ……やば……!うま……!」って、俺たちはただただ夢中で食ってた。
――と、その時だ。
「おいおい……こんなところに、イカサマパーティーがいらっしゃるぜぇ?」
耳障りな声が背後から降ってきた。
振り向くと、知らない男たちがニヤニヤしながら立っていた。
「はあ?」って俺が眉をひそめると、そいつはさらに口を開く。
「知ってるんだぜ? お前らが実力に見合わない成果をあげてるってよ。なんだ? 成果の持ち逃げか?」
口を開く度、アルコールまじりの口臭が鼻をつく。
いかにも冒険者という格好の、中肉中背の男はニタつきながら顎をさする。
――一瞬、場の空気が冷えた。
ベルが椅子をキィッと引いて立ち上がる。
「ちょっと、何よその言いがかり!ワタクシたちは自分たちの力で勝ち取っているんですわ!」
「おうおう……しばらく貧民街で見かけないと思ったら、没落お嬢様はこんなところで甘い汁をすすってたんですかぁ?」
「はぁ!? さっきから、なんなのよアンタは!!」
男は口の端を吊り上げて、さらに踏み込む。
「怒るなってぇ……でもよ、そうやって稼いだほうが、お前の父ちゃん母ちゃんは嬉しいかもなぁ?」
――その瞬間、ベルの目に涙が滲んだ。
「……! この――」とベルが腕を振り上げたところで、俺はその手首を掴んだ。
「マヒルさん……」
「よせよせ、お嬢さん。お前の手が汚れちまうだろ?」
「うん。あいつ、汚い」ラヴィが小さく頷く。それは少し意味が違うけど、まあいいや。使わせてもらおう。
俺は椅子から立ち上がり男を真正面から睨みつけた。
「うちの仲間になんか文句あるんすか、汚いオッサン」
「てめぇっ……!」
次の瞬間、男が俺の胸ぐらに手を伸ばして――
「こるぁぁ……そこの冒険者ぁ……ここをどこだと思ってるんだぁ、おぁ?」
低く、凄みのある女の声が店内に響いた。
――聞き覚えがある。
振り返ると、そこにはギルドの受付のクールなお姉さんが立っていた。
髪は乱れてないし、表情も無表情のままなのに、なんかこう、背中から覇気みたいなのが出てる。
お姉さんはゆっくりと男に近付くと、さらに低くドスの効いた声で迫る。
「……ギルドの権限で、ライセンス剥奪すっぞぉ?」
男の手がピタリと止まり、舌打ちが聞こえた。
「……ちっ。今日はもう帰るわ」
そう言って、連れを引き連れ、バツの悪そうな顔で去っていく。
俺は恐る恐る口を開いた。
「あ、あのう……」
「ほら、飲み直すよ」
そう言って、お姉さんは当然のように俺たちの席に腰を下ろした。
――え、これって……今夜もっと面白くなるやつじゃね?
いやぁ、参ったね……
ちょっと帰りたいです。
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