20話 シビレといえば俺だろう!
新たな仲間ラヴィを迎え、パーティーとして大きな一歩を踏み出した俺たちだったが……一つ問題があった。とても大きな問題が。
それは金欠。泣けるほどに金が無いのだ。
マジでミレナさんが拾ってくれなきゃ、今頃街角で垂れ死んでたぞ……
パーティー結成の翌朝、俺たちは冒険者ギルドへ。
依頼書が雑多に張られた掲示板の前で、腕を組んでうーんうーんと唸っていた。
だって、どれもこれもショボすぎる。ゴミ拾い、荷物運び、留守番、犬の散歩、ドブさらい。
違う!そうじゃない!
俺たちは命を賭ける異世界の戦士!魂を焦がす戦場のヒーロー!──だと思いたい!
それに、ラヴィの初クエストでもある。しっかり稼いで、ちょっとお祝いでもしたいじゃないか!
「ぼ、冒険者になったというのに、こんな雑用のような仕事しかないなんて……これが“低ランクの呪い”っていうやつですのね……」
ベルが不満げに呟く。わかる、その気持ち。
下っ端には下っ端の役割しか無いんだなぁ、どこの世界も……
そんなことを考えていると、一つの依頼書がふと俺の目に留まった。
「お……? なんだこれは?」
掲示板の端っこ。ちょっと汚れてて、端っこが破れてて、なんならホコリ被ってる……まさに忘れ去られし“古のクエスト”。
依頼内容はこうだ。
ーーー
【納品クエスト】
依頼内容:シビレキノコ十本の納品(Fランク推奨)
目的地:アルクーン市外・北西外壁沿いの農道
報酬:千四百ゴルド
備考:刺激を受けると、痺れ粉を出す為注意が必要。
ーーー
「……」
俺はニヤリと笑った。
「シビレといえば、俺だろぉぉおおお!!」
「な、なんですの!?!?」
ベルが目を丸くして驚くが、無視無視。
俺はこの運命の出会いを噛みしめていた。
「みろよ、これ。これはもう、俺のために用意されたようなクエスト。やるしかねえだろ……麻痺の神に愛されたこの俺が!」
「そんな神、聞いたことないですわ!」
「……クエスト、受けるの?」
ラヴィが首を傾げる。うん、かわいい。決まりだ!
* * *
俺たちはさっそく、アルクーンの街から一時間ほど歩いたところにある近場の森へと向かった。
途中、ベルが「マヒルさんって本当にシビレ系に謎のこだわりありますのね……」と呟いてたが、違う。俺の中で麻痺ってのは”こだわり”なんかじゃなく“運命”なんだ。
だって、転生したら麻痺スキルしか使えなかったんだぜ?カチャン――
いやまあ、俺が望んだことだけど、これが運命以外に何があるってんだよ!カチャッ――
……というかさっきから、気になることが。カチャンッ――
「なんださっきからカチャカチャと!うるせえ!なんの音だ!」
音の発生源は――ラヴィ……?
「……ラヴィ、それ新しい装備?」
「……いえ、部分的に、鎧を着けた。動きやすいように」
ラヴィは昨日までの重装備とはうってかわって、胸と腕、脚だけに最小限の鎧をつけた装備をしている。フルプレートを分解したそうだが、まあ、徒歩移動も長いし動きやすさという点では理にかなってはいると思う。
……のだが、頭をすっぽりと覆う、ごついヘルムはそのままだ。それはどうなん?
「なあ、ラヴィ……その頭はどうしたんだ?腕とか胸とかの装備は分かるんだが……頭だけごつくね?」
「……これ、落ち着く……」
「あぁ、そういう……」
なんか、あれだ。体はスラっとしている分、頭だけ異様にデカく見えてマスコットキャラみたいになってる。そんなマスコットと共にしばらく森を進むと――
「おっ、見つけた!」
雑木の根元、黄色の丸っこい傘にオレンジの斑点。
どう見ても図鑑に載ってたシビレキノコそのものだ!見るからに毒!
「意外とすぐ見つかりましたわね! これを採るだけなんて、楽勝ですわ!」
ベルがニコニコ顔で、すっと手を伸ばして──
ぷしゅっっっ!!
「え……な、なんですのっ!!??」
キノコから黄色い粉が噴き出し、ベルの顔面にぶち当たった!
直後、彼女の全身がビクビクと震えはじめ──
「マ、マヒルさっっ……なんか、なんか手が、手がっ!しび、しびびびびびび――!」
ベルがぐにゃぐにゃになって崩れ落ちた。
……ご愁傷様です。
「依頼書に、書いてあっただろ。『触れると痺れ粉が出るので注意』って。なあ、ラヴィ」
「……うん。拙者も読んだ」
ラヴィが真顔で頷く。さすが冷静系美少女。
ベルは地面でピクピクしながら震えている。
「べ、ベル……あのさ、次からは説明ちゃんと読もうな……?」
「む、むりぃぃい……この依頼、絶対あとで“慰謝料”つけてくださいましぃぃぃいぃぃ!!」
爽やかな、木漏れ日差し込む木々の道。
漂うのは大地の雄大な香りと、鼻をくすぐる麻痺の粉――
なんか、今日もいい日だな。
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