174話 異世界サンタさん
「ハァッ!ハイヨォッ!」
ベルの華麗な手綱捌きにより、俺たちを乗せたソリは一面の白を追い越してぐんぐん進む。
車輪のガタつきもなく、雪道をシャーッと滑らかに進むソリは一度乗ったら癖になっちまいそうだ!
俺はこの感動を共有したく、ラヴィに話し掛けた。
「なあラヴィ、ソリってすげえな! でも寒ぃな!」
「むっ?」
「はっ、えっ!?」
だが、そこにいたのは赤い衣服に身を包み、白銀の豊かな髭をたくわえた御仁だった。
背格好や声、目元は完全にラヴィではあるが……ラヴィはこんかに髭モジャモジャじゃなかったはずだ。
「えっ……!? おまっ……誰!?」
「拙者」
「ベルゥ、止めてくれぇ!無賃乗車だぁっ……!」
俺の叫びを聞いて、何事かと馬車を急停止させたベル。「もう、なんですの?」と荷台を振り向いた瞬間、ゴフッと吹き出す音が聞こえた。
「お、おふぁ……え?ラ、ラヴィさんですわよね?」
「拙者」
「ゴフッ」
再び吹き出したベルは、お腹を抱えたまま御者席にかがみ込んでしまった。苦しそうに喉をクックッと鳴らしている。
まあ、この世界で一人称が「拙者」のやつなんて、ただの一人しか知らないからコイツはラヴィなんだろうが……
なんだよそのビジュアル。ガリガリサンタ?
いかん、ジワってきちまう。
「……な、なあ、ラヴィ? お前、どうして髭なんか生やしてるんだ?」
「……髭?」
「ほ、ほれ、口の回りのふわっふわのやつ。 獣人は寒いと髭を生やせるのか?」
俺がジェスチャーで口の回りを示すと、ラヴィもようやく理解したようだ。顔を真っ赤にしながら、バタバタと手を振る。
「ち、ちがっ……!これは、髪! 髭じゃない!」
「あのなぁ、ラヴィ……そこから生えてくる毛のことを総じて髭というんだぞ?」
「ほ、本当だって……! 寒かったから、髪の毛巻いた。 ほら、見て……って、あれ?」
ラヴィはそう言うと髭……もとい髪に手を掛けた。
が、びくともしない様子。
え、冗談だったんだけど、本当に髭だったってオチじゃないよな?
「……取れない。 なんか、凍ってる」
「ゴフッ」
「ブファッ」
ラヴィの沈んだ声色と、悲壮感漂う表情に俺とベルは同時に吹き出した。だってもう、お馬鹿なんだもん。
ラヴィ考案の髪の毛マフラーは、暖かさだけではなく豊かな髭も与えてくれるそうだ。いらねぇー。
あまりの滑稽さに、俺の口の両端はピクピクとひきつるし、ベルは引き笑いがいきすぎて過呼吸になりかけてるし……すごい破壊力だわ。
これはもうちょい、おちょくりようがあるな。
「ふっ、ぶふん……あのさ、ラヴィ。 ちょっとお願いがあるんだけど、「ほうほうほう」って言ってみてくれん?」
「……? ほうほう、ほう……?」
「あ~違う違う、ちょっとこう笑うみたいな感じで、テンション高くなってきましたー!って感じ」
「う~ん……ほ、ほぉうほうほぉう!!」
「ブハァッ――!!!」
あまりにも解像度の高いサンタの声を披露したラヴィは、俺の笑いのツボをジャストミート。
ソリの上を転がりながら、それはもう腹がよじれるくらいに笑いまくった。
あんた最高だよ、ラヴィ。
「……マヒル殿、笑いすぎ」
「ひ、ひぃー、ひぃー……すまんすまん、今のお前の格好が知り合いに激似だったもんでなぁ……いやー笑った笑った」
「……ほぉうほうほぉうっ!!」
「ヒイッ――!!」
ラヴィの反撃だ。
髭をワシャワシャと動かしながら、俺の顔を覗き込んでくるラヴィ。
彼女はどうやら、俺を呼吸困難で窒息させるつもりらしい。
ひとしきり笑い転げた後、ようやく落ち着いた俺はひとまず冷静を装って姿勢を正した。
「……ううんっ。 よし、では行くぞみんな。 目指すは《ユキダルマ》!!」
「さんざん笑い転げてた人が、何を偉そうにしてるんですの?」
「うん、本当に」
「いやお前だって笑わせに来てたじゃねえか!! 死ぬかと思ったぞ!?」
「もっかい、やる?」
ラヴィはそう言って髭をちらつかせた。
「ごめんなさい許してください」
「よし、許す」
「……ほら、もう行きますわよ? 二人とも、しっかり掴まっててくださいまし! ハァッ!」
ベルの操縦でソリはスイスイ進みだした。
思わぬ所で立ち往生をくらったし、なんかすっげー疲れた。モンスターに出会ってもないのにな。
今回のクエストも、どうやら厳しい戦いになりそうだ。色々な意味で……!
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