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ミサイル飽和攻撃

 防衛装備庁の施設より出発した車列の第1陣は、2時間ほどを要して百里基地に到着していた。コンテナから続々と降ろされるXASGM-1が牽引車両に載せ変えられ、滑走路でその出番を待っている築城第6飛行隊のF-2支援戦闘機の元へと届けられる。


 続いて車列の第2陣が海上自衛隊横須賀基地へ到着。搬入を待ち侘びていた第1護衛隊の護衛艦「まや」「むらさめ」「いかづち」へ搭載された。護衛艦「まや」は少し前に練習艦へと艦種が変更され、第一線を退いた護衛艦「はたかぜ」の後任であり、乗員たちはベテランの「むらさめ」や「いかづち」に負けじと気合を入れている。そうしてXASGM-1を搭載し終えた第1護衛隊は、横須賀を出港して東京湾へと入った。


 同時刻。第4航空群もXASGM-1を受領し終え、翼下に計8発のミサイルをぶら下げたP-1哨戒機が続々と滑走路から飛び上がっていた。合計12機のP-1が上空に集結し、こちらも同じく東京湾上空を目指して飛行を開始する。



東京湾 護衛艦「いずも」


 第1護衛隊は東京湾の中心にて機関を停止し、陣形を組み替えて司令部からの連絡を待っていた。上空には既に第6飛行隊と第4航空群の航空機たちがひしめき合っており、羽田や成田の管制官たちも神経を尖らせて民空の誘導を行っている事だろう。

 護衛艦「いずも」の艦長を務める青木一佐はブリッジの右ウィングから上空を双眼鏡で仰ぎ、P-1哨戒機の編隊が遥か高空で旋回しているのを眺めていた。


「艦長、司令部からです」


 副長に呼び戻され、ブリッジで手書きのメモを受け取る。内容を熟読した青木一佐は、それを隊司令である宮谷海将補へと渡した。


「……2段構えか」


「前段攻撃で仕留める腹積もりでしょう。後段で撃てる数はたかが知れています」


 攻撃は護衛艦3隻と作戦に参加する全航空機でXASGM-1の一斉飽和攻撃を行い、まず様子見となる。これで仕留め切れなければ、護衛艦が搭載する残りのXASGM-1で再度攻撃を続行。最初の攻撃だけでも総数で150発を越えるミサイルが大蜘蛛へ殺到する筈だ。普通に考えれば、この攻撃で無事でいられる訳がない。しかし、万一に備えて護衛艦3隻はそれぞれ4発ずつを予備として残す事となった。


「前段だけで仕留めたいのは誰もが一緒だろうな。そろそろ周辺国も騒ぎ出す頃合だ。さっさと終わらせてしまうのが吉だとは私も思う」


 宮谷海将補は、隷下の3隻へ向けて回線を開いた。作戦の説明が始まる。


「隊司令の宮谷だ。攻撃は航空機部隊の配置が完了次第、一斉に行われる事となる。各艦は司令が達すると同時に、搭載するXASGM-1を4発だけ発射せよ。残りの4発は後詰だ。最も、最初の攻撃で発射されるミサイルは約150発を数える。これだけの炸薬量を浴びて無事で居られるとは思えないが、万一に備えて残りは温存してくれ。これが司令部からの命令だ。では今暫く待機し、心を落ち着けておいて欲しい。以上だ」


 3隻は「いずも」から離れ、大蜘蛛が活動を続ける西東京方面に対して左舷側を向けた。護衛艦からのミサイル管制はXASGM-1の搭載と共に、各艦のCICコンピューターへインストールされた専用ソフトを使用する。これは88式地対艦ミサイルから脈々と受け継がれた地形追随飛行プログラムの発展型で、洋上や空から陸地、または山奥の目標を狙うと言う、地対艦ミサイルと逆の機能を実現させるためのものだった。

 これと併用し、今回はGPSでの誘導制御を行う事になっている。監視衛星が捉える大蜘蛛の座標軸に対して着弾地点を設定し、3方向から同時に攻撃を加える予定だ。


「衛星からの情報はリアルタイムと言う訳にはいかんだろ。数秒単位の誤差はどうするつもりだ」


「目標に着弾する前から情報を更新しつつ、ミサイル自体が修正を掛けながら突っ込むと聴きました。我々はただ目標の居る方角に向けて撃つだけです。もしこれが実用化されれば、小型艦艇に搭載して島嶼部に常駐させるだけでもかなりの抑止力となるのに、惜しい話です」


「しかし、あの大蜘蛛を戦時中から今に至るまで成長させ続けるなんて、それこそどんな技術なんだか。下手すると現代よりも進んだ何かがあるのかも知れんな」


「その辺は我々が気にする所ではないでしょう。こちらの仕事は、確実に目標へ向けて発射する事だけです」


「個人的には気になる所だが、今は詮索しないでおくとするか。総員配置を再度厳命してくれ。まだ気は抜けないからな」


「承知しました」


 艦隊は配置を完了。航空機部隊も遠からず射撃位置に就くだろう。今はただ、命令が下るのを待つだけだ。



首相官邸 緊急対策本部


 メインスクリーンには、東京湾を中心とした地図が映し出されていた。展開を終えた第1護衛隊と移動中の第6飛行隊、及び第4航空群もそこに映り込んでいる。


「展開は間もなく終了。相当数のダメージを与えられるだろうとの予想がされています。これで仕留められなければ特科の出番となるでしょうが、少なくとも後一歩までは追い詰められる筈です」


 岡崎統合幕僚長が作戦の説明を行っている。沢村総理を始めとする各大臣たちも真剣な眼差しだ。そんな中、竹田外務大臣が憮然とした表情で喋り出す。


「どうにかしてでも仕留めて貰わなきゃ困るんだよ。その辺の段取りはどうなっているんだ」


「特科部隊は現在も移動中です。最も射程の長い装備を持つ部隊は、既に目標を攻撃範囲に捉えましたので展開を急がせております。残りも、それぞれの射程に収め次第に展開をさせる予定です」


「只でさえこの事態で諸外国の不安を煽っているんだ。早急に事を収めてくれんと、国民の生活にも影響が」


「口を慎みなさい。方針に異を唱えたいなら決定を下した私に言ってくれ」


 沢村が険しい顔付きで竹田を制した。早急に事態を収めたいと思ったからこそ、剣持の提案を受け入れたのだ。全部終わったら、自分が責任を取ればいいだけの事だ。


「……今は黙っておく事にしましょう」


「それでいい。この事態を収拾するため、全員の協力が必要だ。それを分かって欲しい」


 場が再び静まり返った所で、オペレーターが航空機部隊の配置完了を報告した。攻撃は東京湾の第1護衛隊、茨城県つくば市上空に集結した第4航空群と、駿河湾上空の第6飛行隊によって3方向から同時に行われる。これ等の後詰として教導団特科教導隊のMLRSが厚木基地の滑走路に展開し、コンテナに仰角を掛けて待機していた。


「準備が整いました。いつでもいけます」


 岡崎の報告で、沢村の表情が切り替わる。覚悟を決めた者の表情だった。


「攻撃開始を命じてくれ」


「承知しました、攻撃開始」


 3部隊へ攻撃開始が伝達される。第1護衛隊の護衛艦3隻は、搭載しているミサイル発射筒からXASGM-1をそれぞれ4発だけ発射。GPSによって定められた座標へ向けて飛翔していった。

 続いて航空機部隊も一斉にXASGM-1を放つ。ロケットモーターが点火したミサイルはゆっくりと進み出した後、一気に加速して飛び去った。地対艦ミサイルと逆の事を行うため開発された誘導プログラムは正常に作動し、各種の欺瞞信号や妨害手段、迎撃火器を回避するため飛翔コースをランダムに実行。うねるような機動を繰り返して大蜘蛛へと近付いた。


 こうして青梅市上空に差し掛かった総数150発近いミサイルは、殆ど全方向から大蜘蛛に突っ込もうとしていた。相変わらず呑気に移動を繰り返す大蜘蛛は、静止衛星にその位置をしっかりと捉えられている。そこから送られる座標指示を修正するため、ミサイルは小刻みに制動や軌道修正を繰り返した。


 大蜘蛛の至近に達したミサイル群はプログラム通り高度を上げてホップアップ。ミサイル同士の接触を回避する機能も作動したお陰で、誤爆を起こした物はなかった。


 そして、ミサイルは大蜘蛛の上方からほぼ垂直に殺到した。胴体に着弾したミサイルは起爆と同時に大蜘蛛の体を容赦なく引き裂き、その体内を成型炸薬のメタルジェットで焼き尽くした。胴体ではなく足に着弾したミサイルは起爆しない物が多かったが、高速を超えた飛翔体の運動エネルギー自体が攻撃力となり、その長い足を幾重にも圧し折った。


 爆発の衝撃を受けた大蜘蛛の体は上下左右に大きく震え、自身の意思と関係ないダンスを強要された。真下の住宅地は消し飛び、あちこちに焼け爛れた臓器や肉片、体液を撒き散らしながら、半分以下になった体を横たえる。


 ヘリによる監視が30分ばかり続いたが、大蜘蛛は2度と動く事はなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] クモンガ「たかだがミサイルでやられるとは、雲型怪獣の恥晒しよ!」 同期のカマキラスは空中戦艦を倒したが、ゴジラにフルスイングでなげたおされただけの怪獣
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