表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

青梅ゴルフ倶楽部 空対地攻撃作戦

首相官邸 緊急対策本部


 官邸地下の危機管理課センターに併設された緊急対策本部には、早朝にも関わらず集まった各省庁の大臣と総理が臨席していた。議題は目下の所、青梅線に沿って南下を続ける巨大生物への対処である。


「冗談ではありません。あんなのを相手に警察官が出来る事など、何があると言うのですか」


 横井警察庁長官が大臣たちに向けてそう言い放った。この場に居ない警視総監の言葉を代弁しているのは間違いない。必然的にお鉢は自衛隊へと回るだろう。


「剣持くん、現状の戦力としてあれを仕留められるかね」


 沢村総理の発言に剣持防衛大臣が立ち上がる。その目付きは幾分か険しかった。


「2~3日の猶予を頂けるのでしたら、十分な戦力を集めてご覧に入れます。しかし、事態は切迫しております。アレが都市部に達する前にどうにかしないといけないのであれば、選択肢は限られるでしょう」


 剣持の隣に座っていた岡崎統合幕僚長による説明が始まった。最も早く行動を起こせるのは富士教導団で、次いで第1師団となる。貴重な教官となる教導団の犠牲を厭わないのであれば、戦車を中心とする先遣戦闘群を編成して投入する事は可能だと伝えた。続いて至近の百里第7航空団第3飛行隊を真っ先にぶつけて前進を阻害する作戦を提案する。


「例えばですが、民間人に被害の及ばない開けた場所。この場合で言うと近場では青梅ゴルフ倶楽部が宜しいかと思います。ここに誘導して空対地攻撃を加えるのは、十分に可能だと考えます」


 作戦の大筋は幕僚監部から上がって来た物を剣持防衛大臣が精査し、沢村がその中から更に選択する事で進められた。

 ゴルフ倶楽部に目標を誘導し、第3飛行隊と第4対戦車ヘリコプター隊で攻撃する作戦が煮詰められていく。この作戦で先遣戦闘群が展開する時間を稼ぎ、同時に各部隊の進出を支援する事となった。


「ではその通りに頼む。部隊の集結は速やかにお願いしたい」


 内閣はこの切迫した事態に対応するため、緊急対処事態を拡大解釈して自衛隊へ緊急を要する防衛出動を命じた。百穂村が被った被害と少なくない犠牲が出ている事も鑑み、最優先で事は進んで行く。


 陸幕から達せられた指令により、富士駐屯地では志願者の集計が始まっていた。1個戦車中隊を基幹とする戦車戦闘群が編成され、第1及び第2戦車戦闘群が駐屯地を出発。同時に指令の達した第1師団でも、4個普通科中隊を基幹とする普通科戦闘群が編成された。


 6個戦闘群が出発して間もなく、木更津駐屯地を出発したAH-1Sが航空自衛隊入間基地まで移動。CH-47で弾薬と燃料、整備の人員や管制士も空輸され、前進基地の設営が始まった。

 これ等に随伴した東部方面ヘリコプター隊のUH-60MRが、南下を続ける大蜘蛛の監視を警視庁航空隊から引き継ぐため現場空域まで進出。機体下部に合成開口レーダーを備え、災害時に被災地上空で要救助者捜索や災害状況監視を行うため開発された機体である。これは勿論の事、戦場となる場所でも存分に効果を発揮する事が予想されていた。


「こちら東部方面ヘリコプター隊第1飛行隊です、監視任務を引き継ぎます」


『警視庁航空隊はやぶさ2号です、後を頼みます』


 青く塗られたカラーリングのヘリと同高度で交差した。すれ違い様に向こうが敬礼しているのが見えたので、こちらもそらに答える。警視庁のヘリが居なくなるのを見計らったように現れたのが第1師団のヘリだ。2機のUH-1が後方から追従している。


「グリフォンからトリトン1及びトリトン2へ、目標は依然として南下中だ。これを青梅ゴルフ倶楽部へ誘導するのが我々の主任務となる。矢面を任せる事になるが、十分注意して望んで貰いたい」


『トリトン1了解、これより誘導を開始する』


 ドアガンのM2重機関銃へ初弾が送り込まれる。隣には弾薬補充担当の隊員が張り付くが、彼らも89式小銃を構えて攻撃態勢に入っていた。埼玉県警のヘリが撃墜された状況から察するに、後方へ回り込むと糸による攻撃を受ける事が予想されるため、射撃は基本的に正面から行うよう厳命されている。


『トリトン2、撃ち方始め』


 進み続ける大蜘蛛の上面に曳光弾が降り注いだ。まるでレーザーが撃ち出されているような情景である。ふいに受けたその攻撃で大蜘蛛は足を止め、五月蝿く飛び回る小蝿を見上げるように顔をこちらへ向けた。


『効果確認、このままゴルフ倶楽部まで移動する』


 歩兵が相互支援するのと同じように、ヘリは互いを援護しつつ誘導を開始した。


「CP、こちらグリフォン、目標の誘導が始まった。現在の所は順調と思われる」


 高空からUH-60MRの送るリアルタイム映像が入間基地と緊急対策本部へ流れ込んだ。これを確認したAH-1Sの乗員たちは直ちに機体へと乗り込み、青梅ゴルフ倶楽部を目指して飛び立っていった。


『タルボスリーダーより各機、目標は味方ヘリの誘導によって青梅ゴルフ倶楽部へ移動中だ。速やかに全弾を投射して空自へバトンタッチするぞ』


 眼下の街は通勤ラッシュ直前。編隊は避難中の住民とそれを誘導する警官たちの頭上にあった。空を行く無数のヘリ編隊に、住民たちは足を止めてその光景に見入る。警官たちも空を仰ぎつつ、声を挙げて避難を促し歩かせた。こうして巨大生物の進行方向に住む人々を青梅線に対して左右へ散らすような避難が進んでいく。

 同時刻、百里基地から飛び立ったF-2支援戦闘機の編隊が上空待機中だった。機体下部には増槽と無数の通常爆弾を搭載。ヘリ部隊が全弾を撃ち尽くしたらタイミング良く攻撃に加わるため、上空からその推移を見守っていた。



青梅ゴルフ倶楽部


 巨大生物を誘導する2機のUH-1が曳光弾の火線を張りながらゴルフ倶楽部上空に達した。重機関銃の射撃は僅かながらも出血が確認出来るだけで、大きな効果は無いらしい。だがここまで誘導が出来れば十分だ。


『トリトン2、目標の誘導に成功。4対戦の現在地を知りたい』


「こちらグリフォン、現在地はゴルフ倶楽部に対し北東から接近中で間もなく到着する。近付いたら一旦、北西に移動して側面から攻撃を行う算段との事だ」


『トリトン1、4対戦を視認した』


 北東から無数の黒い粒が近付いて来た。この時点でトリトンチームは離脱。4対戦が北西へ移動するのに合わせてグリフォンも攻撃管制のため高度を取る。


『タルボスリーダー、展開終了。攻撃指示を待つ』


「グリフォンからタルボス、攻撃を許可する。目標との位置関係に注意しろ」


 まずTOWによる攻撃が始まった。目標が大きいだけあって狙いやすい事もあり、大蜘蛛の左側面にミサイルが次々と着弾していく。これによって大蜘蛛は向きを変え、攻撃された方に向かって進み始めた。


『左右に分散しろ。1と2は左翼、3と4のチームは右翼へ展開』


 攻撃を一旦中止し、各機は接近する大蜘蛛へ十字砲火を浴びせられるように展開。次はロケット弾の掃射だ。


『全弾発射、全弾発射』


 70mmロケットポッドから正しくロケット弾の雨が大蜘蛛へ向けて降り注いだ。大蜘蛛はこの攻撃で進行速度が一時的に落ち込んだ挙句、少しだけ押し戻す事にも成功。次いで20mmガトリング砲での制圧射撃が行われ、残ったTOWも全てが撃ち込まれた。


『タルボスよりグリフォン、残弾なし。直ちに後退する』


「グリフォン了解。F-2も接近中だ、後は任せよう」


 ヘリ部隊はグリフォン以外が全て引き揚げた。F-2の空爆による結果を調べるため、ゴルフ倶楽部からそれなりに距離を取った空域に留まる。


『クロウリーダーから監視中のヘリ、聴こえるか』


「聴こえます。こちらは東部方面ヘリ第1飛行隊、コールサインはグリフォン」


『了解だグリフォン、これより空対地攻撃を実施する、しっかり見張っててくれ』


 数秒を置いて、遥か高空から投下された無誘導爆弾がゴルフ倶楽部一帯に着弾。立ち上がる黒煙と衝撃波がその威力を物語っている。大蜘蛛は全ての足をジタバタさせながら驚き、体に突き刺さっていく微細な破片と熱風で少なくないダメージを受け始めていた。


「着弾を確認、さっきよりは効果があるように見られる。第2次攻撃の予定は如何か」


『第2陣がさっき到着した。引き続き観測願いたい』


 再びゴルフ倶楽部に無誘導爆弾が着弾。自分が攻撃を受けているのは理解しているらしく、両前足を上げる威嚇のような行動や、空に向けて糸を飛ばしたりと言った行動が見られた。


「蜘蛛である事は間違いないようだな。しかし、どうやってあそこまで巨大化を……」


「機長、攻撃終了だそうです。我々も一旦戻りましょう」


「了解、これより入間へ戻る」


 3段階に渡る航空攻撃作戦はこれで一時終了となった。以後の大蜘蛛はゴルフ倶楽部の北東にある小曾木地区へ移動し、岩蔵街道と厚沢通りの接点となる部分に体を寝かせて動かなくなった。どうやらそれで隠れているつもりらしい。

 6個戦闘群はこの隙に青梅市へ現地入りして広範囲に展開。各所で迎撃体勢に入ると共に、先遣部隊であるこれ等の戦闘群を戦闘団編成にするための増援部隊も続々と出発していた。

コールサインを考えるのが楽しみでもあり、難しい所でもありました。

語呂の良い言葉を探すのに苦労します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ