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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
98/129

98話 過ぎゆく夏と向かってくる冬

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 時期は九月の末。

 そこに千歳が一人そわそわと何かを待っていた。

 御影が自身の場所に教科書とノートを広げ、いつもの様に勉強しているが千歳の様子が気になるのかチラチラと視線を動かす。アリアは無表情のまま、いつもの様にお茶の準備をする。

「ちぃーす。寒くなってきたな」

 物理実験室の戸が開き、緋毬がやって来た。

「ひ、緋毬!!」

「お、おう……どうした、千歳」

 裏返った声で出迎えられて、緋毬は引き気味に千歳に言葉を返す。

「ど、どうもしないよ!」

 あーっっと腕を伸ばしてストレッチする姿は怪しさ満点だ。

 緋毬はどういうことだと御影を見るが、御影は苦笑しながらわからないと首を振る。では、アリアはと見るが、アリアはニヤリと笑いサムズアップするだけで答えない。

「千歳、お前変なこと考えてるだろ?」

 だから、緋毬は本人に聞いてみた。

「えっ!? い、いきなり何!? な、何も考えてないよ!?」

「本当か?」

 緋毬はじっーっと千歳を見つめる。

 すると、千歳は目を泳がせ、最後には視線をそらした。

「…………まぁ、いいか」

 追求するのも面倒かと思って、緋毬は自分の席でパソコンを起動させる。

「緋毬、九月も終わりだよね!?」

 普段より一オクターブ高い声で千歳は緋毬に話しかける。

 緋毬はうろんげな目で千歳を見るが、パソコンが完全に立ち上がるまで相手にするかと思い、千歳の話に乗ることにした。体の向きを変える。

「そだな。明日から衣替えだな」

 十月、神無月の第一日目に制服が夏服から冬服へと変わる。

「だよね! だよね!」

「何でコイツ、こんなテンション高けぇんだよ」

「ひーちゃん、それはね……」

 クックック、と笑いを抑えきれずに御影が話に加わる。

「きっと千歳君はひーちゃんの冬服が楽しみで仕方がないんだよ」

「ええっ!?」

「その驚き方は何か腹立つな」

「え、と。その、ほら! 緋毬の冬服は見慣れてるし! 春と同じだよね!?」

「コイツ、殴ってもいいか?」

「千歳様。そのフォローはマイナスです」

 はぁ、と溜息をつきながらアリアが千歳の前にお茶を置いた。

「ちがっ、その、緋毬は夏服の方が似合ってる? そう、似合ってる!」

「明日から冬服に変わるんだが、コイツやっぱり喧嘩売ってるだろう」

「最初疑問形なのもいけません。千歳様、マイナス追加です。さらに追加だ、ドン」

 アリアは無表情のまま両手を上げて、ガオーと威嚇する。

「ククッ……やばい。ツボに嵌った」

 そして片隅でお腹を抑え苦しんでるのは御影。

 御影の挙動に驚くも、千歳は初志貫徹の精神で奮闘する。

「そ、それで緋毬の夏服を写真に撮ろうよ。思い出に残そうよ!」

 奮闘するが、それはそれ。

「嫌だよ」

 無碍無く断られるのだった。

「何で!?」

 千歳は悲鳴を上げるが、緋毬は冷めた目で返すのみ。

「いや、普通だろ。むしろ、うん、撮ろうよと話を乗る方がおかしいだろ」

 なぁと御影とアリアに視線を向けると。

「ククッ、ひーちゃん撮ってあげたらいいじゃん」

「アリア的には千歳様にはもうちょっとエレガントな誘い方を勉強して欲しかったと思います。ちょっと今回のは減点ポイントありまくりです」

「ほらっ!」

「何で我が意を得たりって顔してるんだ? アリアの言葉聞けよ!」

「だって……」

「つか、何でいきなり写真なんだ?」

「えと、その……ふと思って?」

「ダウト」

「ぐっ。その、あの……」

「ダウト」

「だからね……って何も言ってないよ! ええとね、その!」

 こうも言われても諦めない千歳の粘り強さ緋毬がピンと来た。

「親父に頼まれたのか」

「ツッ!?」

 緋毬の言葉に、千歳は目を大きく見開く。その態度が正解を物語っていた。

「あーもう馬鹿親父が。千歳も親父の言うこと聞くなよ!」

「ごめん。何度も頼まれて仕方がなく」

「玄関先で碧人様が駄々をこねる姿はご近所的に噂になりそうでやむを得なかったです」

 アリアが千歳も被害者なのだとフォローを入れる。

「そいつはごめん」

 すると、その光景が目に浮かんだのか、緋毬は神妙な顔で千歳に謝った。

 そして、頭をガシガシと掻き、

「しゃーねー、写真撮っか!」

 と投げやり気味で言った。

「ホント!?」

「ただし、全員でだ!みーも写れ。アリアも漫画に熱中してるセルミナも、だ!」

「わかった! ほら、セルミナさん写真撮るよ!」

「え、え? 何ですの!? 何ですのいきなり!?」

 こうして九月の末の部活は写真大会となった。

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