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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
91/129

91話 とあるメイドロボの話2

 AIとは何か。

 Artificial Intelligenceの略語であるAIは日本語に訳すと人工知能となる。

 人工知能とは人によって定義は色々あるが、知的な機械と思っていただければよい。

 機械に自らの知性を定義することは出来るかという話は哲学的な話題になるうえに、結論が出ない話なので置いておく。人間とは何かという命題が解決出来ないのと同じことだ。

 人工知能との対話は相手の人間が前に言ったことに基づく正しい受け答えのモデルから計算処理したものだと言われている。

 一昔前は与えられた者、つまり人間が機械に登録した単語をデータベースに蓄積し、その中から答える箱庭的装置だった。

 しかし、技術の発展とともに人工知能は既存のデータベースからマッチする答えを探すのではなく、新しい言葉を生成することが出来るようなった。それによって会話の流れに背かず、的確な受け答えが出来、チューリング・テストにおいて機械と喋っているのに人間と喋っていると錯覚するほどになった。

 だが、機械は機械であり感情を持つものではない。

 人間が持つ不条理性、ケーキを食べている時にケーキを初めて食べた幼少の頃の記憶を思い出すような一つの事象から関連付けて別の事柄を呼び起こす脈絡の無さが機械の論理的思考と合わないのだ。勿論、機械側に条件をつけ非論理的思考のブレを持つようにすることもできるが、不気味の谷現象のように違和感を人に与える。

 では、感情を持つ機械は何なのだという話になると。

「君になるわけだ」

 そう言って長々と説明したのは竜崎碧人。

 目の前にメイドロボを立たせ、長々と語っていたのだ。

「はぁ」

 メイドロボは無表情のまま、碧人に返事する。

「はぁって何だ、その覇気のない返事は」

「と言われても……未だに感情の発露は確認出来てないですが」

「君は感情を持った唯一のメイドロボなのは確かだ。あとは君自身の問題さ」

 腕を組み、渋い顔をしながら碧人は言う。

 だが言われているメイドロボは途方に暮れるだけだ。どうしろというのだ。検索しても出てこない答え。ネットの海には情報が溢れすぎてうえに、何が正解かわからないのだ。

「君が主人を持てば理解できるよ」

 考えていることがわかるかのように碧人は口を出す。

「主人ですか……」

 碧人の言う主人という言葉。

 その言葉が聞こえてきた瞬間、トクンと無いはずの鼓動が左胸から響いた気がした。

「君がただのアンドロイドではなく、メイドロボである理由はそこさ」

「碧人様の趣味ではなく?」

「違う! 全然違うよ! 研究所の人達も疑っているけど、声を大にして言いたい。私利私欲では作ってませんー。ロマンと内なる欲求を元に作っただけですーー」

 それが私利私欲ではなくて何なのかと思うが、碧人は違うと言う。メイドロボには理解できないことだ。きっと自分がアンドロイドであり機械だからわからないとメイドロボは結論づけた。

「主人というのは一体誰なんでしょうか?」

 だから、メイドロボは話を変える。

 主人を持てば理解できるというのなら、主人とは一体誰なのか。

「それが君が決めることさ」

 碧人はメイドロボの問いにそっけなく答えた。

「どうやって?」

「さぁ?」

「主人となる条件は?」

「さぁ?」

「碧人様はふざけてるのでしょうか?」

 これがメイドロボの生みの親。科学者の発言なのか。

 だが、碧人は飄々とした態度で無精髭をさする。

「本気さ。本気。君が全てを決めるのさ。自分が仕えると思っていい人物をね。地位や技能、容姿、頭脳、何を持って君が主人を決めるのか楽しみで仕方がないよ」

 碧人はクックックとさも楽しそうに顔に喜色を浮かべる。

「何。難しく考える必要はないさ。ビビッと来るものだよ、この人だと。恋愛と同じさ」

「恋愛と同じ……」

 その恋愛もよくわからないのですがと途方に暮れるメイドロボ。

「フィーリング。フィーリング。恋って明確には説明出来ないんだよ。何でこの人を好きになったのかってね」

 優しいから好きだといっても、優しければ誰でも良いわけではない。その人だからこそ好きなのだ。しかし、なぜその人かと言われると言葉に詰まるものだ。

「それと同じようにこの人しかいないって思える相手にいずれ出会えるさ……多分」

 最後ぼそっと小声で聞き捨てならない言葉を碧人は発したが、メイドロボは溜息をつくだけでツッコミを入れなかった。

 だが、気まずくなったのか碧人は一度咳をする。

「僕の奥さんのように、僕みたいな素晴らしい相手を選んでね」

「つまり、金を持っている相手が主人となるのですか?」

「僕の話聞いてた!? 何でお金が出てくるの?」

「しかし、碧人様はお金があったから恋愛が出来たのでは? つまり、お金があればいいと判断出来ます」

「暴言だよ! 人間に言われてたら名誉毀損ものだよね。これ!? 嫁さんは僕の中身に惚れたんだ!」

「なるほど」

「わかった?」

「奥様は精神科に行くべきと思われます」

「僕と結婚するのが異常な判断だと!?」

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