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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
88/129

88話 両手を持たれると連行されてるみたいだろ!

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「…………」

 緋毬がじっと一枚の紙を見ていた。大きさはB4サイズ。

 緋毬はそれを両手で持ちながら眉根を寄せて眺めていた。

「緋毬、何を見てますの?」

 緋毬の物憂げな表情に気がついて、セルミナが尋ねた。

「ああ……文化祭のプリントだ」

 そう言って、緋毬は見ていた紙をセルミナに渡す。

「ええと……文化祭企画一覧表?」

 紙面の一番上に書かれた文字をセルミナが読む。

 緋毬はうんと頷いた。

「今日の昼に生徒会に呼ばれてな。それを渡されたんだ」

「ああ、もうすぐ文化祭だね、そう言えば」

 御影がセルミナの隣に腰を下ろし、話に加わる。

「そう言えばもうすぐだね、文化祭」

 九月の中旬の土曜日、日曜日。

 千歳達が通う学校では文化祭が開かれる。

 それがあと二周間と迫っていた。

「それがどうしましたの?」

 文化祭が迫って来たのはいい。

 問題なのは緋毬が気難しい表情をしていたわけだ。

 それがセルミナには気になった。

「ん……けんぽう部もなんかやれば良かったかなと今更ながら思ったんだ」

 文化祭企画一覧表には、各クラスとクラブの企画の一覧、つまり何をどの場所でするかが載っていた。

 そこにけんぽう部の名前はなかった。

「けど、夏の時にけんぽう部は何もしないって皆で決めたじゃありませんの?」

 部が文化祭に参加するのは自由だ。

 けんぽう部も参加するかどうかは会議で決めた。やるとしたら、憲法についての研究発表なのだが、それを文化祭でして人が集まるかという話になって止めたのだ。

 しかし。

「他のクラブは結構自由にやってるだよなぁ」

 例えばと、緋毬はとあるクラブを指差す。

 それをセルミナが読んでみると。

「国際交流同好会主催、インド人によるイギリス料理試食会。食べ切れないと帰れません!……凄いですわね」

「インド人を呼んでるから、国際交流なのかな。何でイギリス料理かはわからないけど」

 御影が頬に汗を垂らしながら感想を言う。

 食べ切れないという文字が怪しすぎる。特にイギリス料理というのが怖い。イギリス料理というのは不味い料理の代名詞的な存在として扱われているからだ。実際のところ、大半の人が未食のためネタなのかどうかわからないが、真実味がある話として扱われている。

「それはまだましな方だぞ。プロレス同好会とか見てみろよ」

 プロレス同好会の項目を見てみるとそこには『左翼、右翼の討論会。左右激突!』と書かれていた。

「…………」

「…………」

 御影とセルミナがそれを見て絶句する。

「な?」

「プロレスと全然関係ないですわ。文化祭だから、プロレスやればいいですのに……」

「フォローをするならば、あそこはプロレスをやるのではなくて、見るのが好きなクラブだからね。だからと言って何でこんなこと主催するかわからないけど」

 意外にプロレス同好会のことを知っている御影が擁護を入れるが、擁護しきれない。

「討論が発熱してプロレスになるとかか? そんなことしたら生徒会から部活動禁止になるぞ」

 うーんと首を捻る三人。

「ま、まぁ自由だということみたいだ。なら、けんぽう部も憲法とかに拘らずに何かやっとけば良かったなぁと」

「あら、緋毬。何かやりたいものでもありましたの?」

「それともチケット狙いかい?」

 チケットというのは文化祭で発行される通貨だ。基本的に売上はかかった費用に充てられるが、利益が出たら一部のチケットを自由に使って良いとされ、飲み買い出来たりするのだ。

「んー、チケットは親父からリアルマネーをせびればいいんだが、けんぽう部の皆でわいわいするのも良かったかなぁと」

 そう言って目を伏せる緋毬の姿はまるで祭りが終わった後の寂しげな雰囲気に見えた。

 御影とセルミナは顔を一度顔を見合わせて、緋毬の肩を掴む。

「ひーちゃん、来年。来年しようよ」

「そうですわ! 三年間もありますのよ! 来年がありますわ!」

「おわっ!?」

 いきなり肩を掴まれて驚く緋毬。

 緋毬本人としては、自身がやりたいというより、けんぽう部の部長として他の御影やセルミナ、アリアやセルミナを思い憚ったことなんだが、御影やセルミナは緋毬がやりたいと認識してしまった。

「よし、明日の議題は来年の文化祭についてだ。やるぞ、セルミナ君!」

「えいえいおーですわ!」

「気が早えぇよ……」

「えいえいおー! ほら、ひーちゃんも!」

「わたしもか! 待て、自分でやるから手を持つな!」

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