84話 京都から10分、日本で10番目の大きさです
今日も今日とて部活の日。
場所は物理実験室。
「よし、今日もお題箱をやるぞ」
緋毬のこの一言で部活が始まった。
「緋毬、やる気だね」
千歳の言葉に緋毬はああと頷く。
「せっかく勉強したからな。成果を見せたい」
「勉強?」
「ああ。この前、47都道府県対策にみーとアリアとセルミナで一緒に勉強会したんだ」
「ちょっと、僕呼ばれてないんだけど!? そんなことしてたの?」
「千歳はなぁ……」
と、緋毬は御影とアリアとセルミナの顔を見回すと、
「うん。千歳君のお姉さん的存在として良い格好を見せたいんだ」
御影が神妙な顔で同意し、
「千歳ばかり得意気な顔されては困りますわ」
セルミナが髪をかきあげ、フフンと不敵に笑い、
「仲間はずれにされた千歳様がいいリアクションすると思ったら、つい」
アリアが無表情でサムズアップをした。
「だから、千歳は呼ばずにわたし達だけで勉強したんだ」
「酷い!」
「さて、んじゃ千歳引け」
「さらりと流さないでよ……」
しょぼんと落ち込みながらも、千歳は言われるままにお題箱に手を入れる。
「千歳、わかってるだろうな。47都道府県以外引いたらデコピンだぞ」
「脅さないで! 運だよね、運!?」
「大丈夫。千歳君は天運を掴み期待に答えてくれるはずだ」
「御影の言う通りですわ! わたくしも、信じてますわ!」
「そういう期待されても辛いんですけど!」
「アリアとしてはどっちにしても展開的に面白いのでどちらでも大丈夫です」
「酷いこと言われてるのに、一番心が落ち着くのは何でだろう……」
ゴソゴソと箱の中をかき混ぜながら吟味する千歳。
そして、一枚の紙を引いた。
皆が無言で千歳を見つめる中、千歳は告げる。
「ええと……『47都道府県、滋賀』」
「おぉ!」
「やったね、千歳君」
「流石ですわ」
「千歳様、アリアは信じていました」
お題は皆の拍手を以って迎えられた。
「んじゃ、やるか滋賀県は……琵琶湖だな」
「うん、琵琶湖だね」
「そうですわ、滋賀は琵琶湖ですわ」
皆の意見に、緋毬はうんと頷き、
「よし、滋賀は琵琶湖。以上だ」
そう宣言した。
「終わりじゃないよ、緋毬! 全然語ってないよね!?」
「うぉ、どうした千歳!?」
千歳の剣幕にびっくりする緋毬。
「どうしたもこうしたも、全然、滋賀県について触れてないよね? 琵琶湖って言っただけじゃん」
「問題あるのか?」
「あるよ、ありまくりだよ!」
「だが、千歳君。滋賀に琵琶湖以外何があると言うのだい?」
「ありますよ! 滋賀県民大激怒ですよ」
「でも、千歳。滋賀って琵琶湖が面積の九割を占めてるのでしょう?」
「違いますよ! それ陸地がほとんど無いじゃないですか!」
正しくは滋賀の面積の六分の一程度を占めていたりする。余談だが、琵琶湖は面積が670.3平方km、世界の淡水湖の中で129番目の大きさを有してたりする。世界はでっかいのである。
「何勉強してたの、皆!?」
「ぐっ、だってなぁ」
「うん。琵琶湖のイメージが強すぎて、滋賀はノーマークだったんだよね」
「ですわ。47都道府県もありますのよ。手を付けてない場所も出てくるのは当然ですわ」
「うん…………そう言われると責め辛いね。確かに琵琶湖って特徴的だもんね。夏は海水浴ならぬ湖水浴できるし、外周を歩こうとしたら三日かかるほどでっかいし、釣りも楽しめたり鰻とか固有種、外来種の魚のご当地グルメもあるもんね……ってどうしたの皆!?」
と語る千歳だが、皆が千歳を見る顔に生気が無いことに気づく。
「琵琶湖についても物知りな千歳にビビるな」
「負けたよ、千歳君。琵琶湖、琵琶湖って言ってるだけの私達とは違うんだね」
「物知り過ぎて、ズルいですわ」
「酷い! マトモなこと言ってるだけなのに」
「よし、また千歳だけのけ者にしてして勉強会やるか」
「うん。そうしよう。汚名返上だ」
「わかりましたわ!」
「僕もそっちに参加したいんだけど」
「「駄目!」」
悲しいかな、千歳の申し出は却下されるのだった。




