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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
80/129

80話 メロン反乱事件

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「本日のおやつは過ぎゆく夏を味わうということでメロンです」

 アリアが皆の前に真っ二つに切ったメロンを置いていく。真っ二つと言っても直径20cmにも満たない小ぶりなメロンだ。

「スイカじゃないんだ? 過ぎゆく夏にメロンは相応しくない気がする」

 千歳が首を捻りながらも、スプーンを手に取る。

 メロンの季節は初夏と言われているが、品種や生産地によって旬の時期がずれ込み、温室栽培なら通年で味わえたりする。

「研究所にメロンが沢山置いてありましたので、かっぱらってきました。アリアとしてもスイカが良かったのですが、置いてなかったのです。後で千歳様の名前で文句をつけておきます」

「止めて! 僕の名前出すと悪ノリしそうだし!」

「千歳、そんなことはどうでもいいのですわ。問題は美味しいかどうかですわ!」

 そう言ってセルミナはメロンを口に運ぶ。

 そして、

「甘いですの~! それでいて、瑞々しくって素晴らしいですわ!」

 セルミナが喜びの声を上げた。

 頬に手を当てて、ご機嫌だ。

「うわっ、甘っ! うまっ!」

 緋毬も目を大きく開けて驚く。

「うん、本当にこれは甘いね。しかし、小さいといっても一人で半分を食べるのは贅沢な気がするね。でも、子どもの頃一度やってみたいと思ったけど出来なかったことが叶ったよ」

 メロンの中心部分をウキウキと繰り抜いて食べる御影。

「このメロンは名を碧玉メロンと言いまして、手に入れるには一個あたり樋口様一人と等価交換となっております」

「本当に贅沢だ!?」

 樋口とは樋口一葉のことで、五千円札の中の人だ。

「本当に研究所から持って行って良かったの?」

 高級メロンだ。それを勝手に持って来て良かったのか。

 不安に駆られ、千歳はアリアに聞く。

「置き手紙も残して来ましたので大丈夫かと」

「それ、大丈夫なのかな……」

「いいじゃありませんの、千歳。アリアのお陰でこんなに美味しいメロンを食べられるのですのよ」

「そうだよ、千歳君。こぼれたミルクは元に戻らない。こうして目の前にメロンがある以上どうしようもないんだ。私たちに出来るのは食べることだけさ」

「御影、良い事言いましたわ! その通りですわ」

「つか、研究所だろ? あの変態達は研究に没頭してて気がついてないんじゃね?」

 罪悪感を抱いてるのは千歳のみで、女性陣は何処吹く風だ。

「ついでに、メロンは下半分に甘さが詰まっているとのことで、皆様には下半分だけを提供しております」

「元々甘いのに更に甘くなるのか。すげぇ贅沢な食べ方だな」

 と言う緋毬だが、手は止まらない。

「上半分はどうしたの?」

 下半分ということは上半分は残っているわけで、それも5人分。

 それは一体何処に行ったのか。

 アリアは千歳の問いに頷いて。

「上半分は甘みが薄くなりがちなので、研究所に置いておきました」

「酷い!」

「先程から、研究所からメールが沢山来てるのですが、何ででしょうか?」

「メロンの件だよね!?」

「宛先は千歳様宛です」

「何で僕!? メロン取ったのはアリアだよね!?」

「飼い主だからじゃね? 千歳はアリアのマスターだろ。ならば、責任は千歳にという流れだ。研究所はそういう理屈で千歳に文句言ってきそうだ」

「うぅ、そうなのかなぁ」

「もしや、置き手紙に『全部貰っておくのは悪いから美味しくない部分だけ置いておくね。千歳』と書いたせいかもしれません」

「もしやどころじゃないよね、それ! 絶対、そのせいだよ!?」

「賠償になると、5人分で二万五千円か。千歳、ごちそうさま」

「千歳君。ゴチになります」

「千歳、ありがとうですわ」

 緋毬、御影、セルミナが千歳に向かって頭を下げる。

「ちょっと僕が全部払う流れになってない!? 食べたの皆もだよね?」

「わたしは事情を知らなかったら食べなかった」

「事情を知った今、思いっきし食べてるよ!」

 緋毬のスプーンを持つ手は止まらない。美味しいのが悪いのだ。

「アリア、おかわりないのか?」

「更に要求してるし!?」

「量が少ないので一応、もう一個用意しておきました」

「流石ですわ、アリア!」

 セルミナは喝采を上げ、緋毬と御影も同意するように頷く。

「アリアは研究所の技術の粋を集められて作られたメイドロボですので、人に仕えるメイドロボとしてそこら辺はぬかりなく万能です」

「マスターである僕と研究所に反乱してるんですけど!?」

「メロンで反乱って面白いな」

「笑い事じゃないんだけど!?」

 千歳の悲鳴が物理実験室に響く。

 これが俗にいうメロン反乱事件の顛末だった。

 ついでに研究所からは千歳への文句ではなく。上半分の美味しいメロンの食べ方を教えてくれとその自己解決、及び自慢のメールだったとさ。

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