79話 緋毬と御影のナウでヤングな電話事情
今日も今日とて夜が来る。
場所は緋毬の部屋。
そこで、部屋の主である緋毬がベッドに寝転んでくつろいでいた。
うつ伏せになりながらゲーム雑誌を眺めている。
「縦シューティングもいいけど、やっぱり横シューティングだな。多彩な地形を楽しむのには横シューに限る!」
足をバタバタをさせながら、緋毬が雑誌を見て結論を出した。
よし、あのゲームを予約しようと。
すると、携帯の着信音が鳴った。
緋毬は携帯の表示画面を確認する。
「みーか」
緋毬は受信ボタンを押して携帯を耳に当てる。
「みー、どうした?」
「ひーちゃん、今いいかな?」
「いいぞ。何か用か?」
緋毬は読んでいた雑誌を閉じ、ベッドの上であぐらをかく。
「用って程ではないけどね。ちょっとひーちゃんと話がしたくなったんだ。ほら、あるだろ、そういう時」
電話の向こうから、御影のくぐもった笑い声が聞こえた。
「そうか。疎外感を感じて寂しくなったから電話かけて来たと思った」
「ちちちちちち、ちがうよ。全然ちがうよ! セルミナ君だけずるいなんて思ってないよ!」
「セルミナのこととは言ってないけどな」
「……ひーちゃんは時々いじめっ子になるね」
「みーがわかりやすすぎなんだ」
緋毬は、はぁと溜息をつく。
今日の放課後の部活動でセルミナは千歳との出会いがどんなものだったかを秘密にしたのだ。それが宝物であるかのように開示するのを嫌がった。
「でも、実際ずるいと思うな。同じ部活動の仲間なんだよ。隠し事すべきじゃないと思うんだ」
「秘密っつても、知らないのはみーだけだけどな。アリアもわたしも知ってるし」
「凄い疎外感を感じるよ! なに、それ! 虐めじゃないかな!」
「落ち着け。成り行きだ。成り行き。実際、財布落として困っていたセルミナを千歳が助けたことには間違いねーんだから、それで納得しとけ」
「でも、でも何かドラマみたいなことがあったんだろ? 知りたいよ!」
「ドラマっつてもなぁ……」
セルミナが腹ペコなのを紛らわせるために吸血鬼状態になったはいいが、それがバレて口封じしようとして失敗。そのまま餌付けされる。
客観的に見たら恥しかないなと思わないでもない。だが、セルミナ中ではその出会いが大切な思い出となっている。千歳の餌付けというかたぶらかしには困ったものだ。
「つーか、秘密の共有をやりたかったらみーも自分の秘密を千歳達に打ち明ければいいだろ?」
「ぐっ」
痛いところ突かれたと御影が悲鳴を上げる。
「それは、まだタイミングが来てないというか、時期がね来ていないだよね。秘密を打ち明けるには相応しい雰囲気や空気が来ないとね」
「全部同じ意味だぞ、それ」
「う、うん。それだけ重大なことだということさ! 重複表現ってやつさ」
「ヘタレ」
「ぐっ」
「みーのヘタレ」
「ぐはっ。ひーちゃんはいじめっ子だ。オールタイムいじめっ子だ」
「はいはい、ありがとう」
「ぐぅぅぅ。優しさが足りない。もっと私に優しさを」
「もういっそ、強制的に話し合う機会作ってやろうか」
「そういう優しさはノーサンキュー! 愛の鞭ではなく飴にしてよ!」
「でも、わたしから話すのは駄目なんだろ?」
緋毬の言葉に御影が止まる。少しの無言の後、
「うん。自分で伝えたいんだ。それだけは譲れないんだ」
意思がはっきりと宿る言葉。だから、緋毬は自分の提案を退ける。
「なら、さっさと打ち明けろ。実際、わたし的にすっごいじれったいんだぞ。喜劇と悲劇を見ているというか、なんというか」
「ん?」
「すまん。忘れてくれ」
「んん。まぁ、いいけど」
「だけどさ、何でそんなに怯えているんだ? 千歳はどんな事情があろうが受け入れると思うぞ」
「……うん。それはわかる。ひーちゃんが例えた通りの人物だ、千歳君は。甘えてしまいそうになるよ」
「なら」
「だけどさ。その千歳君が奇異の目いや化物みたいな目で私を見ると思ったら、怖くて」
「いや、実際化物的なのは千歳なんだが。物理実験室の机を鼻歌混じりにぶっ壊せる人間、世界にもそうはいないぞ」
「それにセルミナ君。西洋的合理主義者的に『そんなのありえませんわ。ひぃぃぃですのぉぉぉ』とか血走った目で言われると思ったら、怖くて」
「みーの想像上のセルミナおもしれぇな。実際、そんな奴じゃないぞ、セルミナは。理不尽に翻弄されても受け入れる奴だ、あいつは。身内にも甘いし」
「ひーちゃんはセルミナ君のことをわかっているんだね。羨ましい」
「これでも、けんぽう部の部長だからな」
「でも、私にはまだ勇気が出ないんだ。もう少し、きっかけさえあれば、私も……」
「きっときっかけ掴む前にドジると思うけどな。みーってそういう星の下だろ?」
「酷くない!?」
その後、緋毬と御影の電話は夜遅くまで続いた。
そんな、部活後の一コマ。




