77話 あの時代パクってもオッケーでした
今日も今日とて部活の日。
場所は物理実験室。
「聞きたいのですが、神代流って一体何なのです?」
今日の部活動はセルミナのその一言で始まった。
「え?」
首を捻ったのは千歳。
「いきなりどうした?」
怪訝な顔をするのは緋毬。
緋毬と千歳。両者に共通するのは何で今さら聞くのかである。
彼らには神代流を説明した記憶があるからだ。
「ああ。実は私も気になっていたよ。わからないこともあるので聞きたいな」
だが、セルミナの問いに追随する声があった。
御影である。緋毬と千歳の目線を受け、御影は説明する。
「ほら、何度か神代流に触れる場面はあったけど、部分部分で全貌がよくわからないんだ」
「そうですわ。神代流が武術だと説明受けましたが、それだけじゃ説明出来ないこともありますもの」
セルミナは過去のことを思い出しながら、不満を言う。
「そうですね。神代流は複雑ですから、アリアもこの機会に皆様の疑問点を解消すべきかと思います」
部員全員にお茶を配りながら、アリアが言う。
「ふーむ。そういえば千歳が変態だってことだけでマトモに教える機会がなかったけ?」
緋毬は過去を思い出すように目を閉じ思案して言った。
「変態って酷いよ、ねぇ?」
千歳は皆に同意を求めようと目線を向ける。
「って何で皆視線を逸らすの!?」
「ええと……千歳は千歳ですわ!」
「良い事言ったセルミナ君! そう、大事なことだ! 千歳君は大切な仲間さ!」
「千歳様、アリアは感動で打ち震えています。千歳様を知って偏見を抱かない仲間が今ここに!」
「抱いてるよ! 今、すっごい抱いてるよ! 僕、すっごくダメージ受けてるよ」
「千歳様が賢くなって騙されなくなってきました。アリア、凄い残念です」
「アリアが一番酷い! そもそも、昔から騙されてなかったよ!」
「はいはい、千歳をいじるのもいいが、後にしようぜ。ちゃっちゃと説明したいし」
緋毬が場を収束させるように手を叩く。
その音に、
「ですわね。話が進みませんもの」
セルミナは佇まいを直し、
「千歳君をいじるのはその後でというわけだね」
御影は穏やかに笑い、
「アリアは今の千歳様の顔で満足です」
アリアは無表情でサムズアップした。
「出来ればいじるのは後ではなく、やらないでほしいなぁ」
三者三様の反応に千歳は溜息をつく。
それも一瞬。次の瞬間には表情を真面目な物に作り、千歳は説明する。
「何を説明しようか、説明する側でも迷うね」
千歳はそこで一度お茶を口に含む。
「一度に説明出来ねぇからなぁ」
「では、こちらから質問しますわ。神代流には型がありますものね、あれは何なのですの?」
千歳の迷いを見て、セルミナは助けるように話題を紡ぐ
「確かに、引っかかるものを感じるからね。型によって性質が違いすぎるというか何というか。うまく口に出来ないけど、そんな感じがするんだ」
御影はセルミナの言葉に頷いた。千歳の技を数回見ただけだが、何かを感じっとたのだ。
ほぉと声に出さず緋毬は感心する。
「うん。そうだよね。普通の武術とは違うものね」
千歳は湯のみを机に置いた。
カタンという音が物理実験室に響いた。
「神代流の型は二代目が体系化し作ったんだ。今ある神代流の八つの型は二代目が作ったと言っても過言ではないと思う」
「そして、一つ一つの型は別の武術の流派だ。神代では何々流とは言わず、型と呼ぶ」
緋毬がそこに説明を加える。
「初代を天災とするなら、二代目は天才。二代目は一度見た技を理解し己のものにする達人だったんだ」
「ほんと、漫画みてぇな奴だよな」
「ほんとだね。コピー人間ってあだ名もあるもんね」
緋毬の言葉にクスっと千歳は笑う。
「二代目がいた戦国時代、天下一を謳う人物が八人存在したんだ。二代目はその八人全員と戦い、最終的に全てを打ち負かましたんだ。打ち負かしたと言っても楽な戦いは一つもなく、数年規模で決着がつかない試合も多かったけどね。けれど、二代目は戦い、勝っていった」
そこで千歳は一度言葉を区切る。
「そして、全ての戦いが終わった後、二代目は八人の技に敬意を表し、その技を体系化し神代流に組み込んだんだ。これが神代流の武術の始まり」
「ぶっちゃけると、他流派の技をパクリまくって出来たのが神代流というわけだな」
「ぶっちゃけ過ぎだよ! もうちょっと取り繕ってよ!」
「あん? 事実以外何ものでもないだろ?」
「そうだけど、そうだけどぉ」
「和やかな雰囲気中すまない。一個疑問が解決すると、新しい疑問が出てきたのだけど」
御影が眉を顰め、手を上げる。
「そうですわ。簡単に言いましたけど、それって神代流は八つの流派があるということですの? そして、二代目が出てきましたが初代は出てきませんの?」
セルミナの言葉に千歳は頷き、
「うん、次はそこを説明しようかな」
そう言った。




