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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
71/129

71話 料金はどうなってますの、これ……

 場所はとある森の中の家。

 巨大な鏡餅形の石の裏には魅澪が普段住んでいる一軒家があった。森の中にあるそれはイメージ的に家よりペンションやロッジとも呼べそうであった。

 屋根も壁も床も全て木で作られたその家は温かみがあり、そして中身は西洋風であった。床はフローリングが敷いてあり、ベッドやソファーがあるどころかバスユニットといった設備が存在していた。

「意外と言ってたら失礼でしょうけど、近代的ですわね」

 セルミナがボソリと呟いた。

 幽霊しかいなかった死霊の森の中でここだけが現在文明が存在しているのである。

「そうじゃろう。辺鄙な場所故に快適さを求めたのじゃ。昔はまだしも今ではネットがなければ生きてはいけんのじゃ」

 セルミナの小さな声に反応して、魅澪が答えた。

 聞かれているとは思わなかったセルミナは一瞬驚くが、それよりも反応する部分があった。魅澪の言葉に聞き逃せない内容があったのだ。

「ネットが通じてますの!?」

 この未開と言っても生ぬるい場所に電波が届くのか。

「うむ。この家だけじゃが、不思議パワーでネットが通じておる」

 魅澪が胸を張って自慢気に答える。

 体が小さいため、自慢気といっても愛らしさしか感じないのだが。

「さらに、ガスや水道も不思議パワーで使えるのじゃ!」

「不思議パワーって………何なのですの?」

 魅澪の自慢気の態度は、小学生が自分の親にほめて欲しくて背伸びしてるように見えてしまう。思わず頭を撫でたく衝動を覚えてしまうが、何とか我慢してセルミナは聞く。

「知らん。三代目達が色々やってくれたのじゃ。素晴らしい魔法じゃ、あれは!」

 セルミナは千歳に説明を求めようとするが、千歳は顔をそらしてセルミナの視線から逃げた。

 アリアは無表情でセルミナに告げる。

「ネットだけではありません、セルミナ様。ご自身の携帯を見てください」

 そう言われ、自身の携帯を見るセルミナ。この死霊の森に入った途端、圏外になったのだ。だが、改めて見ると圏外は解除され通信可能となっていた。

「通じてますわ……」

「これも不思議パワーです、セルミナ様」

 無表情のまま、サムズアップするアリア。

「だから、不思議パワーって何なのですの……」

「まぁ、千歳様達がノリと酔いでやっちゃった感じですね。本人達も酔いが冷めた後、何これどういう原理なのと不思議がる奇跡の産物です」

「千歳…………」

 思わず千歳をジト目で睨むセルミナ。

「僕のせいじゃない。僕のせいじゃない。お酒も騙されて飲まされただけだし」

 顔を逸らしつつ、弁明の言葉を言う千歳。

「まぁ、便利だから良いじゃろ。今ではこれがなくちゃ生きておられぬわ」

 魅澪がそう言って、話を打ち切った。セルミナも追求しないといけない話題でもなかったのであっさりと従った。

 そして、立ち話もなんなのでソファーに座りお互いのことを話だす。

 セルミナのこと、部活のこと、千歳のこと、沢山の話をした。

「ところで、魅澪さんはどうしてこの場所に住んでいるのですの?」

 魅澪に打ち解けてきたセルミナが当然の疑問を投げかける。

「そうじゃな……」

 魅澪は顎をさすりながら、思考をまとめるために上空を見る。

「この場所を作ったのはワシじゃ。怨念の蔓延るこの場所を。作った責任があるから、管理をせねばならん。長く居た場所でもあるので愛着もあるしのう。それに……」

 そこで魅澪はセルミナの瞳を見た。

「ワシは鬼じゃ。額の角がその証。人間とは違う者が人間に混じるのは苦労がいるじゃろ。ワシはそれがいやなのじゃ」

 魅澪はわかるだろと吸血鬼のセルミナの瞳に問いかける。

「……わかりますわ」

 人間に酷似している吸血鬼でさえ、息苦しさや暮らしにくいと感じる部分があるのだ。魅澪ならばそれ以上なのだろう。だから人間を避け、隠居しているのだ。魅澪は自身の未来かもしれない。セルミナの気分が落ちかけた時。

「だが、千歳達のようにワシと友好を持とうとする者がおる。ワシが何をして、どう生きてきたのかを知ってもな。だからな、セルミナ」

 魅澪は強くセルミナを見た。体格からは想像できない視線の強さ。否、これが本当の存在感なのだろう。

「生きにくいと思っても、ただ不便なだけじゃ。暮らせぬことはない。助けてくれる者がおるのじゃ。困ったら助けてくれる存在は何よりも貴重じゃ。だから、そのような存在を増やせ。人外である先輩からの戯言じゃ」

 そう言って魅澪は笑った。笑った途端、セルミナは体が楽になり、力が抜けた。

 そして、ふと思った。もしかしたらこの魅澪との出会いはセルミナのためだけに企画されたのではないかと。

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