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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
67/129

67話 夏といえば、これ!(迷走)

「肝試しがしたいですわ!」

 この一言が始まりだった。

 場所は物理実験室。

 そこには緋毬とアリアセルミナと千歳がいた。御影は本日所要があり、欠席。

「肝試しぃ?」

 緋毬はPCで遊ぶのを止めてセルミナの方へ向く。

 声には多大な呆れと一混じりの非難が混じっていた。

「そうですわ! 夏といえば肝試し。そう物の本にも書いてありましたわ!」

 緋毬の声の質を気にかけず、セルミナは強く言う。

「物の本というか、漫画ですよね」

 頬をポリポリと掻きながら、千歳がツッコム。

「千歳、差別は良くありませんわ。漫画が娯楽要素が強いのは認めますが、それだけで何の益にもならないと断ずるのは短慮としか言えませんわ」

「どこからツッコメばいいのかわからないな」

 最初、セルミナは漫画は子どもの読み物と馬鹿にしたのだ。

 で、今は正反対の立場で説教をしている。漫画を勧めたのは緋毬達なのに。

「で、漫画に影響されて肝試しがしたいと?」

「ええ! やったことないですもの! 一度体験したいですわ」

 目を期待に輝かしてセルミナは言う。そうなると、困るのは他の部員だ。

「どうする?」

「どうしよう?」

 緋毬と千歳は顔を見合わせて囁く。

 肝試しというのはいわゆる度胸試しのことである。

 光が差さない暗き森や誰もいないはずの廃墟といった恐怖を煽る場所を巡ることによって、自分達の勇気を確かめるのである。

 ぱっと、肝試しと言われても場所が思いつかないのもあるが……。

「セルミナって吸血鬼だろ? 夜に探索して楽しいのか?」

 そうなのである。

 吸血鬼は夜の住人である。夜間だろうが、夜目が非常に効き、昼間とあまり変わらないのだ。それなのに、肝試しをして楽しいのかと思うのだ。

「わかってませんわね、緋毬」

 セルミナはドリル状の髪をかき上げて、誇らしそうに緋毬に言う。

「肝試しというのは風情を楽しみものですわ。闇夜の中、千歳や緋毬がキャーキャー言って怖がる様を見て楽しむのが良いのですの」

「すげーこと言ってるな、コイツ」

 ある意味男らしいと思うのだが、女性として淑女としてどうなんだと思わなくはない。

 だが、セルミナは止まらない。

「幽霊なんていませんもの。そのくらい良いでしょう?」

 森だろうが、廃墟だろうがセルミナにとっては散歩と対して変わらない。幽霊という非科学的な存在をセルミナは信じていないのだ。自身が怖がらない代わりに友人を肴にしたいのだ。

「え?」

「ん?」

 だが、この一言に二人は戸惑いの声を上げた。

「な、なんですの……?」

 当たり前のことを言ったはずであるのに、まさかそのような反応が返ってくるとは思わなかったセルミナ。若干、気弱になる。

「セルミナさん、幽霊に会ったことないんだ」

「てっきり、吸血鬼だから幽霊は友達と思ってた」

「え? え? 緋毬と千歳は幽霊を信じてますの?」

「そりゃなぁ……」

「うん、って言うか……」

 歯切れが悪いながらも、二人は同意する。

「そんな非科学的ですわよ!」

「吸血鬼様は自分を棚に上げて何を言ってるのだか、とアリアは思いますが。では、セルミナ様をあの場所へ案内したらどうでしょうか?」

 それまで黙っていたアリアが提案をする。

「あの場所?」

 セルミナが聞くが、誰も答えない。

「…………それも良いな」

 返事があったのは緋毬。しかし、アリアの言葉に対してだった。

「緋毬!?」

「セルミナはけんぽう部の部員だしな。機を見て紹介するのはありだ。みーはまだ早いが、セルミナならいけるだろう。それに、肝試しにもなるし」

「え? え?」

 話についていけないのはセルミナ。

「怖い思いが出来て、挨拶もできるし。それに、ちょうど逢う時期だろ?」

「うん。まぁ……いいのかなぁ」

 セルミナが話題に置いてけぼり中、こうしてけんぽう部の肝試しが決定されたのである。

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