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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
57/129

57話 この小説はチートタグがついております

 今日も今日とて鍛錬の日。

 こよりが千歳の道場に来た時の話の続き。

 緋毬とこよりと千歳は道場の一角に座って門下生達の稽古を見ながら談笑していた。

「一ノ瀬さんも強くなったね。今この場所で、一ノ瀬さんとマトモに戦えるのは藤堂さんぐらいかな」

「第七階だな、あいつは……」

 目線を門下生達に向ければ、頬に傷がある巨漢の男が笑いながら複数人を相手取っていた。相手を掴み、投げ、飛ばし、殴りつける。複数人を相手なのに藤堂が完全に勝負を制していた。

「一ノ瀬さんの若さで第七階と対等って凄い。一ノ瀬の始祖の再来と言うのも頷けます」

 千歳は少し興奮気味に言う。しかし、言われた方のこよりはそこまで嬉しくなさそうだ。口を一文字にして千歳の言葉を聞いている。

「それでも、千歳さんには叶いません。神代流には四の型が使える第八階、そして後継者の第九階と上があるのでしょう」

「千歳は同年代つーか年下だからなぁ。嫌味に聞こえるな」

「いや、それは……」

 何とフォローすればと千歳はまごつくが、こよりはクスっと冗談ですと笑った。

「上があるというのはまだまだ強くなれるということ。私には一ノ瀬を極めるという目標がありますからね、かえってやりがいがあります」

「うん。僕も一の技が極みに到達するのを見てみたい。神代流の八つの型を一つの型だけで渡り合う姿を」

「千歳は倒される側だろ。つか、自分を除外しやがって。この上から目線が」

「うっ」

「いいのです。強い弱いでは私は千歳さんの遥かに格下。誹謗中傷どんと来いです!」

「最悪だな、千歳は」

「やめて! そんな気はないから!」

 千歳は叫び、二人の女性は笑う。

 そして、門下生達は羨ましそうに3人を見る。口々に混ざりたいとの声が出るのはご愛嬌だ。

「しかし、いつ見てもここの道場は凄いですね」

 話が落ち着き、こよりは門下生から道場自体に目線を移す。

 千歳の道場は壁が無い。いや、あるにはあるが玄関側の一面しか見えないのだ。外から見ると普通の道場の大きさ。しかし、中に入るとその広大さに驚かされる。

 果てが無いのだ。三方見える範囲に壁が無く、床がずっと続いていく。

「初代が創った道場ですからね。原理はわかりませんが、凄く広くなってます」

「物理法則無視だからなぁ、ここ。つか、どうやって創ったんだよ」

「初代曰く、色々頑張ったら偶然出来たらしいよ」

「めっちゃ適当だなぁ」

「でも、千歳さんはこの空間を掌握していると聞いてますが……」

 こよりの言葉に千歳はうんと頷いて。

「ある程度はね。大きさや地面を色々変更できるよ。大理石でもコンクリでもなんでもね」

「……なんでも? なら、プール作ろうぜ、プール!」

「ええっ!」

 緋毬の突拍子もない提案に驚く千歳。そして、プールという言葉で門下生の動きは止まる。

「出来ないのか? 暑いからなプール入りたい、プール!」

 緋毬が聞くと、千歳はうーんと唸ってから。

「出来るかなぁ……多分」

 ひゃほーうと喜ぶ緋毬。

「私もご一緒してよろしいですか?」

「おお、来い。つか貸し切りだからけんぽう部の面々も呼ぶか」

 門下生がマジか、マジなのか、うら若き女性達と一緒になって遊べるのかと門下生の男達が騒ぎ出す。緋毬は騒ぐ男達を一瞥して、言った。

「男子禁制だからな。おめーらはこれねーぞ」

「「姉御ぉぉぉぉ!」」

 この世の絶望を凝縮した声が至る所から発せられた。

「あ、千歳は来いよ」

「ええぇ!?」

 男子禁制なので千歳は自分もかと思ったのだ。門下生達は外野から口々にズルいと叫ぶ。

「管理人だろ、千歳は。それにわたし達と遊ぶのが嫌なのか?」

「千歳さんと一緒に遊びたいです」

 緋毬がジト目で睨み、こよりが上目遣いで千歳を見る。千歳は陥落した。

「……わかったよ。お邪魔させてもらうよ」

 門下生達は裏切り者、卑怯者、スケベと口々に千歳を罵る。最初、千歳は我慢した。しかし浴びせられる罵声が止むことがない。そして、ついにピキッと来た。静かに立ち上がり、一言。

「よし。稽古つけようか」

「え……」

 門下生達の口撃が止まる。千歳は笑顔で門下生達の元へ。微笑んでいても目は笑っていない。

「1対1で全員分やるか、1対全員でやるかどちらでもいいよ。疲れるまで稽古してあげる」

「それって俺達が死ぬまでやると同意語なんじゃ……」

 門下生達の顔に冷や汗が流れ落ちる。門下生は例外なく地に伏したのは言うまでもない。


2章の間は定期更新になりますので、次回予告は省略します。

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