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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
50/129

50話 モミ消す!ゴマカす!!

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「バスケをしましょう!」

 セルミナが自分の読んでた本を置いてそう宣言したのは。

「一体何で……ああ」

 緋毬が訳を聞こうとしたが、セルミナがさっきまで読んでいた本の表紙を見て聞くのをやめた。それは、バスケットボール漫画だったのだ。

「勿論、5人いるからですわ!」

 対してセルミナは自己完結したはずの緋毬の質問に高らかに答える。

「いや、漫画の影響だからだろ」

 緋毬は呆れながらセルミナに返す。そのやる気のない態度にセルミナは頬を膨らませる。

「緋毬。あきらめたらそこで試合終了ですのよ」

「試合始まってもねぇよ……」

「セルミナ君。この天気だよ。運動するのはどうかと思うよ」

 御影が窓の外に視線を向ける。

 そこには梅雨らしく雨降る天気があった。これでは、運動場にあるバスケットゴールは使用出来ない。

「大丈夫ですわ! バスケは屋内スポーツですのよ! 体育館でやればいいのですわ!」

 パンが無ければケーキというノリでセルミナはそうほざいた。

「いや、他の部活が使っているからね」

 屋内スポーツのバトミントンや卓球。そして、バスケットボール部員が使用しているのだ。空いてる場所がない。

 だが、セルミナは御影の言葉にナンセンスと首を振る。

「もはや何が起きようと揺らぐことのない、断固たる決意が必要なのですわ! そう、場所を勝ち取ればいいのです!」

「意味がわからねぇよ」

「もはや部活動テロだね」

 だが、二人の言葉はセルミナには届かない。

「この天気の中で室内に閉じこもっていたら、カビが生えてしまいますわ! 運動して汗を流すが一番ですわ!」

「うわ、こいつ千歳と同じ脳筋だ!」

「脳筋ってひどい言われよう」

 息を潜めていた千歳がつい反応してしまう。

 声を出したことにより、セルミナの注意も引く。

「千歳。千歳ならわかってくれますわよね? バスケがしたいです……という気持ちが!」

「そこで同意したら脳筋認定するからな」

 ジト目で千歳を睨む緋毬。

「し、しないよ!」

「ぐっ、な、ならアリアはどうですの? バスケットボールをやりたくはないのですの?」

 セルミナは劣勢と見たか、千歳を諦めてアリアに振る。

 アリアはヤカンの火を止めて、セルミナに振り向く。アリアは漫画を読み終えたセルミナにご飯を与えようと給仕している途中だったのだ。

「そうですね。アリアはメイドロボですから皆様の決定に従います」

「よし、賛成ですわね!」

「コイツ、時々すげーな」

 中立的な意見のはずが、賛成に組み込むセルミナの脳内認識に緋毬は畏れを抱いた。

「そもそも、何でそんなに今セルミナ君はバスケをしたいんだ? 別の日でもいいのではないかな?」

 後日ということで有耶無耶にする作戦に出る御影。

 セルミナは不敵に嗤い。

「バスケットマンだからですわ!」

「お前、女性だろ……」

「バスケットウーマンだからですわ!」

「言い直したよ、コイツ!」

「何か語感が格好悪くなるね」

「いや、この場合マンというのは人という意味で使っているのではないかな」

「なら、バスケットマンですからですわ! マンは人という意味で使ってますわ!」

「どうでもいいよ! みーも変な事を言うな」

「はは、ごめん」

「宴もたけなわですが、セルミナ様。本日のお菓子です」

「アリア。素敵な提案ですけど、今はいいところですの……って何ですの、それは?」

 セルミナは薄紫色の丸いお餅を指差す。中には果物のようなものが。

「フルーツ大福です。お餅の中にぶどうが入っています」

「……美味しいですわぁぁぁ! 瑞々しくてフルーティーですの!」

 アレだけ熱弁していたバスケはどこへやら、セルミナの興味はフルーツ大福に移った。更に、フルーツ大福はぶどうだけではなく色々な果物があると知って食べたいと騒ぎ出す。

「まるで成長していない……」

 セルミナを見ながら、緋毬はそう言って締めくくった。 

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