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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
47/129

47話 正直に言いましょう

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 本日も雨。

「千歳様! 本日も雨でございます!」

 アリアにしてみれば珍しく、興奮気味に千歳に駆け寄って報告した。

「あ……うん。ほんとだ」

 千歳は外を見ると、霧雨のような細かな雨が降っていた。

「雨雲が一帯を覆っているために、下校時刻でも止む気配はありません」

「うわぁ……傘を持ってきてないよ」

 はぁと千歳はうなだれる。天気予報では雨の予報はなかったのに。

「しかし、アリアは傘を持ってきているのだろ?」

 アリアはメイドロボ。人の補佐をする存在だ。前回緋毬の傘がなかった教訓を生かし、備えはしているはずだと。

 緋毬の問いにアリアは静かに頷く。

「ええ。こんなこともあろうかと4本ご用意しました」

 緋毬は部室をぐるりと見回す。

 部室に存在する部員は緋毬、御影、アリア、セルミナ、千歳の5名。

「1本足らないな」

「ええ」

「なら、取り合いになるね。戦争だ!」

「負けませんわよ!」

 それまで勉強や漫画を読んでいた筈の御影とセルミナが自然と会話に参加する。

「争うの!? 話し合いとかは!?」

「千歳君。濡れて帰るのは嫌なのだよ。そのためには人を傷つけるのはやぶさかではない」

「格好いい台詞のようで下衆な言葉ですよね、それ!」

「千歳、わたくしも人が濡れてもわたくしが濡れるのは嫌なのですわ!」

「セルミナさんも負けず劣らず下衆い!?」

 争いのために立ち上がる御影とセルミナ。

 目には闘志を燃やし、やる気は十分だ。

 しかし、

「あ、千歳様とアリアが一本の傘で帰りますので、大丈夫です」

 アリアが何闘志燃やしてるのこの人達という目で止めに入った。

「そうか」

「わかりましたわ」

 二人はアリアの言葉を聞いて、何事もなかったかのようにまた勉強や漫画という自分の作業へ戻った。作業への集中具合は凄まじく、先程の会話の参加は嘘のようだ。

「……しかし、アリアが人数分用意してないのは珍しいな」

 二人のコントのような流れに呆れながら、緋毬はアリアに尋ねる。

 4本用意することができるならば、人数分用意出来たはずだ。

「用意はしていたのですが、アリアは校内で5本の傘を用意した時に考えました」

「え、5本持ってたの?」

 千歳は驚く。なら、何故今は4本なのか。

「もし、傘が1本足りないのなら千歳様と相合傘出来るのではと」

「ええっ!?」

「しかし、アリアはメイドロボ。己の私利私欲のために主に不便を強いるわけにはいけません」

 アリアは悲しそうに首を振る。

 己の欲望のために千歳を濡れさせるわけにはいかないのだ。

「と、そこに通りかかったのは手ぶらの生徒会長が。何と、生徒会長は傘を持っていなかったのです」

「あ、展開読めてきたぞ」

 緋毬がポツリと呟く。

 アリアは緋毬の言葉に構わず、無表情で話を続ける。

「アリアは考えました。千歳様ならどうするか。雨宿りと言ってホテルに連れて行くのか、それとも自分の傘を渡すのかと」

「前者は絶対ないよね!?」

「迷った末、これ幸いにと千歳様の傘を渡しました」

「これ幸いって言っちゃってる!?」

「千歳様に迷惑をかけるのは心苦しいですが、優しい千歳様なら許してくれるはず。生徒会長が濡れるくらいなら自分が濡れてやるという男らしい精神を持っているはず。そう考えてしまった駄目なメイドロボのアリアを叱ってください」

「そして、怒るに怒れない雰囲気作ってない!? 別にいいけど、理不尽な気がする!?」

「千歳様。今度、アリアが生徒会長とホテルに行けるよう手配しときますので」

「そっちじゃないよ!」

「千歳、最悪だな」

「緋毬、話を聞いて!」

「というわけで千歳様。相合傘をしましょう」

 雨降る天気の中、アリアは晴れやかな笑顔で千歳にそう言った。

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