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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
46/129

46話 口では嫌がっていても

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 そこで緋毬と御影と千歳が会話をしていた。

「あーー雨、うぜぇ」

 緋毬が机に肘を載せて物憂げに呟いた。

 視線は窓の外、つまり雨空へ。

「梅雨だから仕方がないよ、ひーちゃん」

 御影は勉強する手を止めて、緋毬に言った。

「わたしは梅雨だからと諦めたくない。むしろ、梅雨の時期だから晴れろよと言いたい」

「むちゃくちゃだね、ひーちゃん」

「というより、天気予報で降水確率50%なら一時間のうち30分だけ雨降れよと言いたい」

 そこで、はぁと溜息をつく緋毬。

「しかし、現実は残酷だ。雨が降ったらそのままになることが多い」

 本日の天気は雨。午前は曇りだったが、昼前ぐらいにポツポツと雨が降り出し、以後ずっと雨が降っている。予報では一日中雨のマークが出されている。

「このまま雨が降るなら、世界なんて滅べばいいんだ」

「そこまで嫌なの!?」

 尋常無い様子の緋毬に御影が驚きの声をあげる。

「くっく、緋毬はね傘を忘れたんだ。朝、曇りだからって油断したんだよね」

 こらえきれずに千歳は笑う。

「うっせー」

 千歳の笑い声に、緋毬はぶっきらぼうに対応する。

「なるほどね」

 緋毬は自分だけ傘を忘れていたので拗ねていたのだ。

 御影は安堵して、胸をなで下ろす。

「親父の奴が、傘を持って行くから一緒に帰ろうとメールしてくる始末……お前、徒歩じゃないだろ、車だろうと言いたい」

「それは……」

 ある意味、娘と帰りたい親心で微笑ましいと言えなくもないが、相手はあの碧人なのだ。一般的な家族で当てはめてはいけない。

「それで、今日の帰りはどうするつもりだい? 碧人氏と帰るのかい?」

 御影が聞くと、

「そんなプライドを捨てる真似はせん!」

 緋毬は強く答えた。

「プライドって……」

「親父は鬼の首を取ったかのようにアピールしてくるんだぞ」

「あぁ……」

 そのウザい光景が目に浮かび、千歳は相槌を打つ。

「それに、親父の仕事を待つのは嫌だしな」

「じゃあ、今日の帰りはどうするんだい?」

「僕が傘を持っていますから、一緒に帰ります」

 千歳が自分の傘を指差し、御影に言う。千歳はちゃんと持ってきたのだ。

「なら、ひーちゃん、別に良いのでは?」

 無事帰れるのだ。そんな世界の破滅を願うほど、アンニュイにならなくてもいいのではないか。御影は言外にその思いを込めて聞く。

 緋毬は御影の真意を読み取って答えた。

「一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしいし」

「家、近所だよね。僕ら……」

「だって、相合傘だそ! 恥ずかしいわ!」

 緋毬はバンと大げさに机を叩いた。

「でも、緋毬様。碧人様には断りのメールを出しましたよね」

 緋毬に温かいお茶を出しながら、アリアが会話に参加する。

「おう。『残念ながら俺様は忙しいのだ』って言っといた。プライドを傷つけるくらいなら、私は羞恥を選ぶ! それが竜崎緋毬の生き方だ!」

「羞恥ってひどいよ、緋毬」

「だって、その……距離が近づきすぎるだろ」

 千歳に言われ、先程の言葉とは対照的に消え入りそうな声になる緋毬。

 傘は本来一人用だ。二人で入ると寄り添わないといけない。自分が千歳に抱きつく姿を想像すると緋毬は顔が赤くなるのだ。

「いっそ、千歳が横でずっと私に傘を差し出しとけばいいのに」

 緋毬は傘を全面自分に差し出すことを要求する。

「僕、濡れるよね!? 絵面的にもおかしいよね?」

「主人と臣下みたいだろ?」

「もうそれ、傘を緋毬に渡して一人濡れて帰った方がいいよ……」

「ある意味羨ましいね」

 御影は二人の会話を聞き、そう感想を言う。緋毬と千歳は御影の言葉に首を捻るが、御影は笑って答えない。帰る場所は一緒なのに、アリアと相合傘することを選ばない二人に微笑を浮かべ続けるのみ。

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