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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
45/129

45話 東京ドーム約46797個分の大きさです

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「さて、今日もやるぞ」

 緋毬はお題箱を指差しながら言った。

「また、やるんだね」

 少しの驚きとともに千歳は答えた。

 前回、茨城県のお題で苦しんだのにまた挑戦するんだと。

「まぁな、一回試しただけで止めるのは駄目だと思ってな。けど、2回なら十分だろ、うん」

「前向きなんだか、後ろ向きなんだか……」

「うっせ、引くぞ」

「待ちなさい、緋毬」

 そこでストップの声がかかった。

「何だ、セルミナ?」

「わたくしが引きたいですわ!」

「お、おう……」

 引き止めておいてそれかよと思わなくもないが、別段気にすることでもないので緋毬はセルミナにお題箱を渡した。

「ええっと……『47都道府県 東京』って出ましたわ!」

 何故か自慢気に胸を張るセルミナ。

 けんぽう部の面々はその子どもじみた態度を少し微笑ましく思いながら会話を始めだす。

「しかし、また出たな、47都道府県」

「まぁ、都道府県の数は多いからね。流石に全部は入ってはなさそうだけど」

 全ての県が入っていたら、お題箱で話す内容が都道府県のみになってしまう。

「つまり、影の薄い県は軒並み入ってないことなのか」

「ひーちゃん。茨城県が入ってたんだ。その可能性は捨てたほうが良いよ」

「ちっ、みーの言う通りかもな。茨城県に次ぐようなマイナーな県が入ってるかもな」

「いやいや、二人共、茨城県に恨みでもあるの?」

「「いや、別に」」

 千歳は信じられないとジト目で二人を見るが、緋毬と御影は泰然とした態度で千歳の視線を受け止める。

「さて、東京について語ることになったわけだが、省略っすか」

 緋毬は御影、セルミナ、千歳を見回す。

 余談だが、アリアは今回も給仕を理由に抜け出している。

「ええっ!? 話さないの!? というか、今回も放棄!?」

「千歳。東京の何を話せと言うんだよ」

 東京は日本の首都。日本国民誰もが知っている場所。お昼のワイドショーを見れば嫌でも東京の名所を紹介する番組が流される。

「そうだけど、そうだけど!?」

 しかし、生真面目な千歳は懸命に抗おうとする。

「誰でも、東京のことは知っているだろう。何を語れって言うんだ。なぁ、みー」

「そうだね、ひーちゃん。東京都の面積は約2188 km2で2014年度の人口が約1334万人とか誰でも知っている話だよね」

「何でそんなに具体的なの!? 普通、面積や人口なんて知らないよね!?」

「そして、2014年度アメリカのシンクタンクが公表した人材・ビジネス・政治・文化等を対象とした総合的世界都市ランキングにおいて、ニューヨーク、ロンドン、パリに次ぐ世界第4位の都市と評価されたことも目新しい出来事ですわ!」

「何でセルミナさん、そんなに詳しいの!? キャラ違うくない!?」

「補足しますと、英国情報誌モノクル (MON○CLE) による世界の住みやすい都市ランキングでは、2013年度版から順位を3つ上げ2位にランクインしました」

 給仕をしながらアリアが説明をつけたす。

「あれって、医療制度、犯罪率、景気、学校、公共交通網に加えて、緑地スペースや文化への取り組み、日照時間、スタートアップビジネスの容易さ等、多角的な視点から評価、ランク付けがされているだろ?」

「うん。それで、東京は巨大都市として経済面と文化面で双方の恩恵があっても、街の荒廃がない。また食文化やショッピング、芸術といった側面は以前より魅力的になっており、大都市という無味乾燥になりやすいエリアなのに人々に親切心がある点が評価されているらしいよ」

「要約すると、ハイカラ文化なのにヒャハーな人がいないってことですわね!」

「ツッコミたくても微妙に間違ってなくてツッコメないな、それ。で、誰でも知ってることで何を語れって言うんだよ?」

「めっちゃ色々語ってるよ! 何、今の会話? 日常会話じゃないよね? 報告レベルだよ!」

「常識だろ、なぁ?」

 緋毬が周囲に同意を求めると、

「そうだね」

「そうですわ、千歳。自分の国の首都を知っていないとは恥ずべきことですわ」

 口々に同意をされた。

「うわーすっごいアウェイだよ、ここ。すっごいアウェイだよ」

 千歳の呟きが悲しく響いた。

けんぽう部はメイドロボが出てきたりと仮想日本を舞台としてますが、都合のいい所取りで現実世界の設定も使います。

難しいことは考えずに読んでくださればと。


次回

『46話 口では嫌がっていても』

『47話 正直に言いましょう』

『48話 ハンカチを噛みしめていたのです!』


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