42話 物を投げ続けて幾星霜
今日も今日とて部活の日。
場所は物理実験室。
「何で神代流と扇子が関係ありますの?」
セルミナが疑問を投げかけた。
神代流は武術だ。
そこに何故、扇子という暑さを和らげるために使う物が関係するのか。
「わかったぞ、千歳君。鉄扇みたいに近距離の武器に使うのだな!」
ここぞとばかりに御影が発言する。知的キャラへの昇格を諦めてはなかったようだ。
「鉄扇というのは、扇子の骨を鉄製でこしらえた扇子のことだ。護身用の武器として古くは戦国時代から登場するという。神代流も戦国時代からあったそうだから、鉄扇術に似た技が残されていたに違いない!」
ズバンと効果音が出そうな勢いで御影は断言する。
「…………ファイナルアンサー?」
そんな御影にアリアは問いかける。
本当にその答えでいいのかと。
「…………ファイナルアンサーだ」
ゴクリと唾を飲み、御影が答える。
そして、静寂の後。
「残念!」
「うが~~~。やっぱり私に知的キャラは無理なのか!」
「では、千歳様。解説をどうぞ」
「いいけど、さっきの小芝居なんなの……?」
若干引きながら、千歳は咳をして空気を入れ替える。
「ま、まぁ御影さんの言ってたことも間違ってない部分があるよ。神代流は色んな武術を取り入れて作られた武術なんだ」
「取り入れたつーかパクっただけだけどな」
千歳の説明に緋毬がボソリと呟いた。
千歳は緋毬の言葉に汗が出るが、聞かなかったことにした。
「そ、それで神代流に近接武器を扱う項目があるんだ。それが三檻乃型。ぶつけるのに適した武器なら剣、槍、斧、果ては扇子のようなものまで何でもござれって感じで」
「凄いな。千歳君は色んな武器を扱えるのか……」
「みー、違うぞ」
思わず驚愕の声をあげた御影にちょい待ったと制止をかける緋毬。
「ひーちゃん、違うって?」
「千歳が言ってただろ。ぶつけるのに適した武器ならって、三檻乃型は近接武器を投げる流派なんだ」
「武器を投げますの!?」
近接武器は手にしてなんぼのものだ。それを手放すとはどういうことか。
「たはは。緋毬の言う通り三檻乃型は武器を使わず、投げる武術なんだ」
「それは……もしかしなくともまずくないかね?」
戦場で自分の武器を投げるは自殺行為。外したが最後、無手になるのだ。
御影は戸惑いながらも当然の疑問を千歳に投げかける。
「うん。三檻乃型は一投一殺。投げれば必ず相手を倒す。倒せなかったら負けという武術なんだ。故に生き残るためには必中を自分に課さないといけないんだ」
対して千歳はあっけらかんと明るく言った。
「三檻乃型を習う際に誓う言葉があるんだ」
そして、咏うように千歳は言う。
「『我は不忠の徒なり。
他の武芸者の誹りを受け。
鍛冶が作りし武器を無碍に扱う。
只、ひたすらに己の道を往くために。
報いは受けん。
しかし、それは敗北の時。
おのが命をくれてやる。
求めるは最強。
差し出すは命。
必殺を必至と己に課し。
只、ひたすたに己の道を往く』ってね」
「なっ、おかしな武術だろ」
皆を代表して緋毬が言った。
「おかしいというかイカれてますわ!」
「アリアも同意します」
「すまないが、私もだ」
「何も否定できない!?」
「で、更におかしいのはその武術をマスターした千歳は百発百中の精度で物を投げるってことだ」
「「うわ、こわっ」」
この日、千歳はおかしいということで結論が出た。
次回は
『43話 上か下かは選ばせてやる!』
『44話 2016年サミットは茨城つくば!』
『45話 東京ドーム約46797個分の大きさです』
を予定。




