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けんぽう部  作者: 九重 遥
夏から秋へ
39/129

39話 御影様がイメチェンしたと聞きまして

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 そこにアリアと千歳がいた。

 厳密には室内にいるアリアと、物理実験室の扉を開けた姿で硬直している千歳がいた。

「何ですか、千歳様。入ったと思ったら何も言わずに止まっておられますが」

 口では文句を言っているが、口元はほころんでいる。

 まるで、それは悪戯が成功したかのように。

「えっと、アリア。教室にいた時はいつもの服装だったよね?」

 室内に入って、目をパチパチと瞬きしながら千歳は尋ねる。

 アリアの服装はメイド服だ。

 黒のワンピースに白いエプロンを組み合わせたものだった。ワンピースは足元まで覆い、白いエプロンはフリルが全く付いておらず、胸元はV字カットがされていた。分類で言えば、ヴィクトリアンメイド服なのだろう。

 それが今までのアリアの制服だった。

「ええ。そうですよ、千歳様」

 そう言って、クルリと周る。

 スカートの裾が波打ち、白い太ももがチラリと肌を表した。

「え、何で?」

「何でとは心外です、千歳様」

 千歳の言葉に、頬を少し膨らませるアリア。

「え、でも教室では普通だったのに、今はミニスカートになっているの?」

 ロングサイズであったスカート丈が膝上になっており、袖口も肘まで後退している。黒のワンピースと白いエプロンはそのままではあるが、エプロンにはフリルが着いており可愛らしい印象を与える。

「イメチェンでございます」

「イメチェンって……」

「酷いです。アリアは一番に千歳様に見てもらいたかったのに、褒め言葉もないとは」

「あ、ごめん。可愛いよ、アリア」

「そんなとってつけたように言われても嬉しくありません」

「本当に可愛いから!うん!凄い!」

「もっとです、もっと!」

 その後、アリアが満足するまで可愛い、綺麗と言う千歳であった。

「うん。まぁ、いいでしょう。予想とは違いますが、アリアは満足しました」

 頬を少し蒸気させながらアリアは言う。

 対照的に少し疲れているのは千歳だ。精神的に疲れたらしい。

「予想ってどんなリアクションすると思ってたの?」

 少し気になったのか、会話を掘り下げる千歳。

「そうですね……」

 アリアは顎に人指し指を当て考え。

「『チョ、マジヤベー! ヤベーよ、アリア! マジヤベ! 矢部呼ばなくちゃ!』でしょうか」

「それ絶対僕らしくないよね!? 最後の矢部って誰!?」

 千歳がツッコむが、アリアは答えない。

 アリアは無表情に戻り、はぁと溜息をつく。

「その予想だったのに、千歳様はアリアの服装を変えたことに何でという始末。アリアは嘆き悲しみました」

「ごめん。あまりに予想外だったんで。しかし、アリアがミニスカートはくの初めて見た気がする」

「そういえばそうですね。今までは特にこだわりはありませんでしたし、唯一の戦闘服と思ってましたので」

「何で心変わりしたの?」

「……まぁ、研究所で夏もロングサイズ丈だったら暑苦しく感じないかと言われましたので」

「…………」

 何となくわかるような。少し違和感を感じながらも、千歳は納得する。

「そして、メイド服論争が研究所で巻き起こり、ミニスカートに黒タイツが最強だろうと結論が出ました」

 ポンとアリアは自身の黒いタイツを叩く。

「何やってるの、あそこ!?」

「で、次はタイツのデニールはどうするかの話になりましたが、未だ結論が出ていません。千歳様の希望はありますか?」

「当然の知識のように聞かないで!? デニールって何!?」

 デニールとは糸の太さを表わす単位であり、デニール数が上昇すれば糸が太く、生地が厚くなる。わかりやすく言えば、より黒く見える。30デニール未満はストッキングと名称が変わったりもする。

「肌色と黒が織りなすコントラクト。どのデニール数がグッと来るのか千歳様にお聞きしたいです」

「怖い、怖いよ!?」

 ズズイと顔を近づけて無言の圧力をかけるアリアに千歳は悲鳴をあげた。

次回は

『40話 花より羊羹』

『41話 自分格闘技やってますから』

『42話 物を投げ続けて幾星霜』

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