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けんぽう部  作者: 九重 遥
春から夏へ
27/129

27話 セルミナの流儀

 今日も今日とて晩御飯。

 場所は千歳の家のリビング。

 そこにアリアとセルミナと千歳がいた。

「今日の料理は75点をさしあげますわ!」

 晩御飯を食べ終わり、食後のティータイムに移行した時だった。

 セルミナが高らかに宣言したのは。

「軽くイラッとしますね」

「抑えて、抑えて、アリア」

「ですわ?」

 何故褒めたのに、自分が怒られる雰囲気なのだろうかとセルミナは首を傾げる。

「大丈夫です、千歳様。ちょっとセルミナ様を殴れば落ち着きますので」

「落ち着いてないよ! 全然落ち着いてないよね!?」

「褒めてますのに……」

 しょぼんと落ち込むセルミナ。

「では何故千歳様の料理が75点なのでしょうか」

 本日の晩御飯は千歳が担当したのだ。

 それなのに、75点という微妙な点数なのか。

「60点から合格点ですわ。75点は十分良い点数ですのよ」

 どうやらセルミナは大学の単位認定方式を採用していたようだ。大学の先生にもよるが、テストのみで単位が認定される場合、60点以上を取ればいいのだ。

「しかし、25点も上があります」

 だが、それを聞いても納得しないのはアリア。

 合格点から15点上だが、まだ上に25点の余地がある。

 それは何なのか。

「だって、90点をつけるとあと10点しか上がないでしょう。困りますわ、そんなの」

 あっけらかんとセルミナは言う。

 最初に高すぎる点をつけると、後で極上の料理を味わった時に困るのだ。安易に高得点をつけずに厳しく点数をつける。

 それが自称美食家のセルミナの流儀なのだ。

「はっ、なるほど!」

 アリアはその説明で目から鱗が落ちる思いだ。

「失礼しました、セルミナ様。アリアは浅はかでした」

「オーッホッホ! わかればいいのですわ!」

 打って変わって上機嫌のセルミナ。褒められたのが嬉しかったのである。

「では、千歳様。更なる点数を頑張ってください」

「ええ、貴方には期待してますわ」

「釈然としないのは何故だろう」

 千歳が首をひねる。理由がわからないが理不尽さを感じたのだ。

 アリアもセルミナも千歳が首をひねる理由がわからないので同じく首をひねる。

 勝手に採点され、自分の意見が一切ないまま話が進み、最終的に千歳が頑張るしかないと結論づけられたからだ。

 理不尽と言えば正しいのかもしれない。

 だが、千歳は釈然としないと言っているが不満に思っているわけではない。

 ズズズとお茶を飲みながらセルミナとアリアの会話を楽しんでいる。

「では、セルミナ様。千歳様のオムライスは何点でしたか」

 アリアが至高の品と思っている千歳のオムライス。

 それをセルミナがどう評価するのか。もし、低い点ならば戦争も辞さない。

 アリアは外には出さなかったが、そう決心した。

 千歳の顔に汗が一つ。アリアが何を考えているのかわかったからだ。アリアに目で牽制されている上に、会話を変えるには不自然すぎる。千歳は何も出来ぬまま、セルミナの答えを待つ。

「そうですわね……」

 んーっと悩むセルミナ。

 その答えいかんでは食卓が戦争になる。それに気づかずセルミナは告げる。

「点数をつけられませんわ」

「はい?」

「だって、あれは思い出の料理ですわ。あれほど嬉しく心温まる料理はありませんでしたもの。点数をつけること自体が無粋ですわ」

 点数をつけ始めたのはセルミナなのに、それを否定する。だが、アリアはその答えを聞き、手を差し出す。握手の合図だ。

「なるほど。流石セルミナ様です」

「オーッホッホ。当たり前ですわ」

 セルミナがアリアの手をにぎる。平和の握手だ。

「気になったのだけど、昨日のアリアの料理は何点なの?」

 会話が一段落して、千歳は気になってたことをセルミナに尋ねた。

「63点ですわ」

「よし、戦争です」

 握手をしたまま、戦争の鐘が鳴る。

 戦争と平和は表裏一体なのだ。

次回も3話更新。

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