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けんぽう部  作者: 九重 遥
春から夏へ
21/129

21話 緋毬とセルミナのお弁当

 場所は物理実験室。

 時間はお昼休み。

 そこにセルミナと緋毬が座っていた。

「千歳達は用があるから、今日はわたしと食うぞ」

 緋毬はそう言って、お弁当を2つ机に置く。

「なら、仕方ありませんね。わかりましたわ」

 そうして緋毬とセルミナのランチが始まったのだ。

「お、今日は中華か」

 お弁当の蓋を開け、緋毬は言った。遅れてセルミナも蓋を開ける。

 中身は一緒。 炒飯を主体にして、酢豚、唐揚げ、揚げ焼売。

「緋毬も千歳達に作ってもらいまして?」

「ああ。せっかくだからな。お、この炒飯は千歳が作ったな」

 何がせっかくなのかセルミナにはわからなかった。だが、それを聞く前に聞き逃せない言葉があった。

「緋毬、千歳の作ったものがわかりまして?」

 食べたのならわかる。だが、緋毬は見ただけで誰が作ったのか判別したのだ。

「ああ。千歳の作ったご飯は何度も食ったことあるからな。見ただけでわかる」 

「そうですの……」

 セルミナはこれまで食べて判別してきた実績がある。そして、そのことでアリアを悔しがらせていたのだ。千歳の味を判別出来て浮かれてていただけに、ショックだった。

「んん?美味しいですの!!」

 だが、それも一瞬。炒飯を口に入れた瞬間どうでもよくなった。

「パラパラとしたお米なのに、なんでここまで味が染みこんでいますの!? 噛みしめる度に味わいが増しますわ!日本に来て良かったですわ!」

 頬に手を当てて至福の表情をするセルミナ。

 グルメレポーターかよ、とか炒飯を食べて日本に来て良かったと思うとか変じゃねとかツッコミたかったが、セルミナの歓喜の表情を見て緋毬は言うのをやめた。

 確かに、美味しいのだ。炒飯だけではなく、酢豚、唐揚げ等も素材に拘っただけあって下手な店で食べるより美味しい。だが、炒飯だけは別格なのだ。一流店に負けていない味だ。

「他も美味しいですけど、一番は炒飯ですわ。これが一番美味しいですわ。これが千歳の作った物だとわたくしにもわかりましたわ!」

 リスの様に頬を膨らませながら炒飯を頬張るセルミナ。

「なぁ、セルミナ」

「ん?なんですの?」

「お前吸血鬼だって?」

「ぶっ……」

「汚いな」

「ひ、ひま、緋毬それをどこで」

「アリアから聞き出した」

「……そうでしたの」

 セルミナはその一言で暗く沈みかけた。だが、

「アリアはわたしの所が作ったメイドロボだからな。千歳の主人であるわたしが聞き出そうと思えば聞き出せるのさ」

 緋毬はセルミナを沈みこませない様に理由を言う。真実とは違うが、それを説明しても意味は無い。物事が上手く周るように緋毬はこの場を作った。

「で、緋毬、貴方はそれを聞いてどうしますの?」

 セルミナの目が赤く染まる。それは怒りの色。好奇心だけでは許されない領域。緋毬はそこに踏み込んだのだ。

「何も。わたしは部長だからな。部員のことは知っておきたいんだよ。守るためにもな」

「守る……?」

「それに、この部活の部員は秘密ばっか持ってるからな。いつか、いつの日かその秘密の垣根を超えて仲良く出来る日が来たらいいなとわたしは思ってんだよ。今はまだ無理だが。仲良くしてればいつかな……」

「それは……」

 秘密の垣根を超えて仲良く出来れば、幸せなことだろう。だが、今はそれは夢物語だ。

「まぁ、一方的に知っているのはわりぃからな。この場を設けたんだ。あと、どんな理由があっても秘密をのぞいたのは変わらないからな。謝罪の意味を込めて弁当の材料を提供してる」

 セルミナの目の色が変わろうが、緋毬は態度を変えず泰然自若。淡々と言葉を紡ぐ。それが異常だとセルミナは気がつかない。

「へ?」

「弁当美味かっただろ?材料を厳選して日本中から色々取り寄せたからな。普通に作ろうと思えば恐ろしい値段になると思うぞ」

「えええええええ!?」

 一番の衝撃がセルミナを襲った。

「色々思うこともあるだろうが、弁当に免じて許してくれ」

「うぅぅぅ………わかりましたわ」

 セルミナの敗北宣言。お弁当の魅力に取り憑かれたセルミナはもうお弁当なしでは生きていけないのだ。他にも理由があるのだが、そういうことにしておこう。

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