128話 愛媛県には愛がある。
今日も今日とて部活の日。
場所は物理実験室。
「よし、新年迎えたし、お題箱でもやるか!」
その緋毬の一言が始まりだった。
こたつではなく、物理実験室特有の横幅の広い机にお題箱を置き、その周りを部員が囲う。
「ふふっ、勉強会の成果を見せる時だね」
「ええっ、皆で頑張りましたものね!」
「皆の中に僕は入ってないんだけど……」
「千歳様、それは諦めましょう」
部員の面々はやる気十分だ。最初はいやいやお題箱をこなしていたが、今となっては目に輝きがある。
「では、順番的に次は、みーだ」
「私かい? なら僭越ながら引かせてもらおう」
そう言って、御影はお題箱の中に手を入れる。
カサカサと紙のこすれる音が鳴る中、
「47都道府県の福岡こい、福岡!」
緋毬が熱をあげ、
「福岡に語りたいことは沢山ありますわ! かしわ飯とかかしわ飯とか!」
セルミナも手を握りしめ、気勢を上げる。
ついでにかしわ飯とは、鶏の炊き込みご飯のことだ。九州では昔から鶏肉のことをかしわと呼ぶ。
「……47都道府県、愛媛だね」
御影は折りたたまれた紙を開き、中に書かれた文字を読む。
そして、読まれた瞬間、
「「やったーーーー!!」」
大歓声が。
「え? え?」
ついていけないのはやはり千歳。
「なんで? さっき福岡県を望んでいたよね? でも引いたの愛媛県だよね? いいの?」
「いいに決まっているだろ、千歳。だって――」
千歳の言葉に緋毬は腕を組み、そして、
「「愛媛県には愛がある!」
千歳の除く、部員全員の唱和が物理実験室に響いた。
「あ、愛がある?」
ついていけないのはやはり千歳。
「知らないのか、千歳?」
「いいかい、ちーちゃん。『愛媛県には愛がある。』は愛媛県の農林水産物の統一キャッチフレーズで、全国公募の中から平成十四年二月に決定したんだ」
「書には詩人坂村真民先生の愛媛を愛する暖かい思いが込められています」
アリアがスマートフォンから『愛媛には愛がある。』の書のロゴ画像を取り出し、千歳に見せた。
「……味があっていいね。字全体に優しい感じがするよ」
「書には、詩人坂村真民先生の愛媛を愛する暖かい思いが込められているからね。二文字目の愛が大きく書かれているのにもかかわらず、でしゃばった感じがしないのは愛媛愛が込められているからだよ」
「そして、その愛には安心や安全といった人の心の温かさを表す『愛』、素材や食味、鮮度など優れた品質にこだわる産品への「愛」、歴史と伝統を有するふるさと愛媛そのものへの「愛」が込められているのですわ! その三愛が詰まったのが――」
「「愛媛県には愛がある!!」」
「なんで皆そんな揃っているの!? 勉強会で練習してたの!? ついていけないんだけど!」
「失礼な。愛媛に愛があれば練習しなくてもいけるわ」
「だね。ちーちゃんには愛が足りない」
「千歳、勉強が足りませんわ」
「千歳様ともあろうお人が……」
「ええー」
千歳は白い目で皆に見られ、アウェイ感満載である。
「というか、愛がつくのは他の県にもあるよね愛知県とか……」
「シャラップ、ちーちゃん!」
シャラップ。日本語訳すると、黙れである。わざわざ英語で言ったのは御影の優しさか。
御影は鋭い目つきで千歳を制する。
「ちーちゃん、それは言ってはいけないお約束だよ」
「だな。揚げ足を取るのは人として最低だ」
千歳が言った言葉は禁断の台詞なのだ。愛媛県のキャッチコピーに愛知じゃないよと記されるぐらいに。
「というより、さっきわたくしが説明したとおり、愛媛の愛は三愛がつまっているのですわ!」
「ですね。セルミナ様の言うとおりかと。愛にも沢山の種類があり、愛媛には愛媛の愛が、愛知には愛知の愛があるのです」
「えひめ愛フード推進機構様の言葉を引用するのなら、『愛媛県の県名である【愛】の文字と生産者の慈しみが実ったものとして、愛媛県産農林水産物をとらえ、【愛がある】と表現しています。愛には、真心や人情とも言える暖かみ、そして愛媛そのものが含まれています。』だ。まさしく、アリアの言ったとおりだ」
「ご、ごめんなさい」
なんで様づけなのかも言えない雰囲気。
「ついでに、そのロゴマークが書いてある服もあるからな。着ていたら、コイツできると思われること間違いなしだ」
「ちょっと着るには恥ずかしいんだけど!」
「その服を着れば、愛媛県人に親しげに肩を叩かれること請け合いだ!」
「絶対、嘘だ!」
「愛媛県には愛がある。」というフレーズについて。
文章でのキャッチフレーズの使用は著作権フリー、との回答を愛媛県農林水産部ブランド戦略課様から貰っております。
愛媛県農林水産部ブランド戦略課様。
お忙しい中、回答していただきありがとうございます。
この場をお借りしてお礼を述べさせていただきます。




