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けんぽう部  作者: 九重 遥
冬から春へ
127/129

127話 ブッシュドノエルがいいですわ!

 今日も今日とて部活の日

 場所は物理実験室。

「で、千歳はバレンタインどうする?」

「ぶっ……」

 千歳は飲んでいたお茶を吹き出した。

「汚いな、いきなりどうした?」

「ごめっ……」

「まぁ、いいけど。で、どうするんだ?」

「ええと、どうするって……ど、どういう意味?」

 持っていたハンカチでお茶を拭きつつ、千歳は緋毬の真意を探る。

 バレンタイン。

 それは女性が好きな人にチョコをプレゼントする儀式なのだが、親しい女性から友愛の意味を込めてチョコをプレゼントするお祭りでもある。

 男子としては、お前親しい女性いるのとチョコの数値によって現実を知らしめられる恐怖の日でもある………………多分。

 千歳としても男の子。普段付き合いのあるけんぽう部の部員からチョコ貰えるのかなと淡い期待をしてしまう。けんぽう部で男は千歳ただ一人。他は女性なのだから。

 そして、意識しないようにしても、たまにチョコの香りが女性陣から漂ってくる。否応なしに二月十四日を意識せさられる。

「いや、もうすぐバレンタインだからな。千歳は何のチョコを考えているのかなーーって、ふと思ってな」

「いや、貰えるならなんでも……」

「いや、貰えるじゃなく渡すやつで」

「……ん?」

「……ん?」

 両者顔を見合わせて、首をかしげる。

 話が食い違っている。

「千歳がバレンタインで持ってくるチョコ、何という話だよな?」

「ええっ!? 僕が? 男なのに!?」

「いや、前に話しただろう?」

「初耳! 初耳なんだけど!」

 さも当然という顔をしている緋毬に千歳は泡を食う。聞いてない、そんな話聞いてないと手を顔の前で振り続ける。

「あれ? もしや、誰も話をしてなかったか?」

 なぁと、緋毬は周りを見渡す。

「ひーちゃんがしていると思った。というか、するって言ってたよね」

「アリアも緋毬様がするのかと思って控えておりました」

 漫画に熱中しているセルミナ以外から返答が。

「……わりぃ、情報伝達ミスみたいだった」

「ええっ! っていうか、緋毬のせいのような?」

 疑問形なのは、まだ何もよくわかってないからだ。バレンタインは女性の行事で男である千歳がどう関係するとはわかっていないからである。

「ほら、この部って千歳以外女性だろ?」

「う、うん……」

「で、バレンタイン。千歳だけチョコ貰ってズルいっていうか卑怯というか、お返しするの大変だろ」

「前半本音が出てるよね。……まぁ、後半同意かな?」

 一人だけならまだしも四名だ。ホワイトデーに一人一人違ったプレゼントを用意するのは大変である。

「だから、千歳もチョコ菓子を用意して、バレンタインデーは皆でチョコパーティする話になったんだ」

「そうなんだ」

「で、皆自分達の好きなチョコを作ったり買ったりして持ってくるんだが、被っても嫌だろ? 全員チョコレートケーキワンホール持ってきたら、嫌どころかどうすればいいんだになりかねん」

「な、なるほど」

「他の人と被ってもいいけど、ちーちゃんと被るのは嫌だね」

「え、なんで!?」 

「わかる。すげーわかる」

「ええっ!?」

 もしや嫌われているのと、千歳は傷つく。首を左右に振って御影と緋毬を見比べること慌ただしい。

 御影と緋毬はだってなぁと顔を見合わせて頷く。

「ちーちゃんよりチョコ美味しくなかったら女性として立場がない……」

「だな。『テンパリングをミスったね。でも、気持ちが大事だから、美味しいよ、美味しい!』とか言われたら千歳をぶん殴るかもしれん」

「千歳様のチョコだけが減り、自分達が持ってきたチョコだけが残るというのは、ありえそうな未来です」

「ひ、被害妄想だよ!」

 千歳が抗議するが、女性陣は同意しない。起こりうる未来を予想して溜息を吐く。

「だから、先に千歳の作るものを決めようぜ」

「賛成!」

「ええっ!? でも、いきなり言われても……」

 チョコと言ってもいろいろある。普通のチョコレートなのか、チョコクッキーといったチョコ菓子なのか。迷う。

「ここに、文明の利器があるだろ。探すんだ」

 ポンポンとPCを叩きながら緋毬は言う。

「……お、フォンダンショコラが美味しそうだな! これ作れよ、千歳」

「私はチョコシューが食べたい!」

「千歳様、アリアはこのベリー三種を使った生チョコが良いと思います」

「…………」

 自分で選ぶということはどこへ言ったのやら。女性陣に囲まれ千歳は、レシピを探すマシーンとなった。

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