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けんぽう部  作者: 九重 遥
冬から春へ
124/129

124話 実は気になってました

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「打倒! 生徒会長、一ノ瀬こより様!」

 バンと机を叩き、そう宣言するのはアリア。

「ええっ!? ちょっ……」

「よし、わかった。私の持てる力を全て使って協力しよう」

 アリアの言葉に千歳は戸惑いの声をあげ、御影はゆらりと席を立った。目には決意を、握りしめた手には宿願を。

「ちょっ、待っっ――」

「では、アリア君。最終目標はどうする? 命を奪うことまでやるのかい?」

「それが最初に出てくるのか。みー、すげー物騒だな」

 半眼でアリアと御影を眺めながらポツリと緋毬は言う。

「いえ、アリアも一ノ瀬様を好きですから、社会的地位を奪うだけにしようかと」

「妥協して、それかい」

 携帯ゲーム機を片手に眺めているので緋毬の声に力はない。

 だからこそ、二人の会話がドンドン加速する。

「あ、あの、ま……」

「でも、キャツは叩いてもホコリはでないよ。後ろめたいことがないんだ! 生徒会長の地位を引きずり下ろすことができないんだ!」

「甘いです、甘いですよ御影様。なければ作ればいいのです」

「ハッ!」

 目から鱗が落ちたと言わんばかりにアリアを見つめる御影。瞳が大きく開き、口が半開きになる。アリアも御影を見返す。優しく慈悲深く、迷える子羊に道を示す聖職者のように。

「じゃっあ、暴力行為をでっちあげようか! チンビラをけしかけて、それで!」

「駄目ですよ、御影様」

「え?」

 瞳を輝かせ生に満ち溢れた表情で意見を言う御影に、アリアはアルカイックスマイルで首を振る。

「でっちあげると言っても、こちらにも品位というものがあります。野蛮過ぎる行為を手に染めれば、こちらの手も汚れてしまいます」

「な、なるほど。ふ、深い……」

「いや、そもそもでっちあげる時点で品性がゲスだと思うが」

「ちょ――」

「でも、暴力行為をなしにしたら、一体どうすれば……」

「不純異性交遊でどうでしょう? 生徒会長がホテルへ男の人と一緒に行ったとしたら……」

「いける! で、でも肝心な男の人がいないよ! あの堅物が誰と一緒にホテルに……」

「いるじゃないですが、適した人が」

「えっ?」

 アリアの目線が斜め横へ。つられて御影も。

「待とうよ、二人とも……って……えっ?」

 御影とアリアの目が千歳、二人を止めようと声をかけ続け、無視されていた千歳へと。

 止めようと上げた手が二人の目線によって止まる。

「千歳様が一ノ瀬様をホテルに誘えば良いのです。一ノ瀬様も断らないでしょう」

「えっ? えっ? えっ?」

 御影がポンと優しく千歳の肩を叩く。

「よろしく頼んだよ、ちーちゃん」

「待って! 待ってください! どうしてそうなるんです!?」

「大丈夫。ことが起こる寸前に助けるから!」

「大丈夫の意味がわからないのですけど!?」

「アリア的には最後までいってしまっても構わないのですが……」

「ちーちゃんが穢れる!!」

 御影はグルルルと唸る。千歳の頭を抱きしめるその姿は自分の子どもを守らんとするライオンのようだった。

「穢れるって……ゴホン。それはそうと、なんでアリアは一ノ瀬先輩を倒そうとするの?」

 抱きしめられた千歳は借りてきた猫のように大人しくなった。小さな手の感触が頭皮に直に感じられる。力を入れているはずなのに、心地よい圧を感じさせる。そして、頬に当たる御影の体温。ずっと抱きしめられたままでいたいと思わせる。だが、半眼で千歳を見る緋毬の視線に気が付き、慌てて話題を逸らす。

「そ、そういえばそうだね。アリア君はなんで生徒会長に牙をむこうと思ったんだい?」

 御影としても気になるところだったため、熱が下がる。千歳から手を離し、アリアへと向く。

「そうですね。千歳様のためです」

「え、僕? なんで?」

 アリアは目を伏せ、何かに耐えるように小さく首を振った。

「千歳様のために、アリアはっ、アリアはっ!」

 絞り出すような声。主人を切に思う気持ちがその声に込められていた。御影も千歳も、そして何気なく聞いていた緋毬もアリアの熱に引き込まれる。

「チェーンガーターにしようと思ったのです!」

「「え?」」

「それを一ノ瀬様は『それは校則違反』と止めるのです! 規則だなんだと千歳様のフェチを妨げる一ノ瀬様を許しちゃおけねぇとアリアの中の太宰が怒るのです!」

 チェーンガーターとは太ももを華奢なチェーンで装飾するアイテムで、これを装備すれば色っぽさが増し増しとなる。

 冬のイメチェンを考えていたアリアはチェーンガーターの存在を知った時、天の采配と感じた。今まで思いつかなったのはチェーンガーターを見つけるためだったのかと。

 だが、華美なアクセサリーは校則違反なのでと止められてしまった。

「千歳にそんな趣味があったとは、若干引くな」

「そんな趣味ないよ!」

「さぁ、千歳様! ホテルに連れ込むか、チェーンガーターをつけてもオッケーにするか一ノ瀬様に迫ってください!」

「ひーちゃん、もし私がチェーンガーターしたら、ちーちゃん喜ぶかな?」

「……多分、アリアが泣くと思う」

 アリアが御影に対抗意識を持っていると知っているだけに真似されると泣きそうだ。主人に迫るアリアと戸惑う千歳、そして千歳の言葉を聞かず自己の道に突き進もうとする御影。

 阿鼻叫喚。はぁっ、と緋毬は溜息をついた。

 その後、休日に試すだけだからと自分の部屋でチェーンガーターを試着した緋毬を、千歳が偶然訪ねて目撃したのは言うまでもない。

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