119話 アフガンストールはおしゃれアイテム
今日も今日とて部活の日。
場所は物理実験室。
「あ、雪だ……」
窓の外の景色を見て、千歳はポツリと言った。
「ん……本当だね」
その声に御影もペンを動かすのを止めて、顔をあげる。
「雪って言うか……吹雪だな」
外は轟々と風が吹き、雪の粉が所狭しと舞っている。
「天気予報ではしばらく吹雪くようです」
最後、皆の所にお茶を置きながらアリアが言う。
流石はメイドロボ。
皆が知りたい情報を言われる前に教えてくれる。
余談だが、セルミナはコタツに寝転びながら漫画を読んでおり、千歳達の会話が耳に入ってないようだ。それも、いつものことなので、けんぽう部のメンバーはセルミナ抜きで話をすすめる。
「しばらくって帰る時もだよな?」
「はい。そのようです」
緋毬はうわーっと顔をしかめる。
「この雪の中、帰りたくねぇな」
今いる物理実験室は暖房がきいており、ポカポカと暖かい。
外に出れば、冷気と雪が肌に当たるのだろう。
雪の個体が体に付着し、体温で説けて液体になる。そして、それが風にあたって気体になる。液体が気体になる時、気化熱という現象が起き、熱を奪う。
夏場では涼しいので良いのだが、冬なら……。
「嫌だぁぁ」
想像しただけで身震いしてしまう。
「アリア、ガスマスクってあったけ?」
「なんでガスマスクがでてくるの!?」
「肌を露出させないためだ」
「ひーちゃん、女性としてそれでいいの?」
「寒さにはかえられん」
「一緒に帰りたくないなぁ……」
「てめぇ!」
「いや、千歳君の言う通りだと思うけどね」
「……ちっ、諦めるか。マフラーだけじゃ寒いんだよなぁ」
マフラーは首を覆うものだが、顔面を覆うものではない。
肌が露出している顔の部分が寒いのだ。
「緋毬様。ガスマスクはありませんがアフガンストールはあります?」
「アフガンストール?」
アリアはこれですと、どこからともなく一辺一メートル強の白と黒のチェック模様の布を取り出す。
「正式名称はクーフィーヤでシュマーグとも呼ばれております」
「でかいな」
「主にアラビア社会で男性が頭に被る装身具ですからね」
「そうなんだ……ってえっ?」
「千歳様、お静かに。上手く結べませんから……………」
そう言いながら、アリアは千歳の後ろにまわり、器用に千歳にアフガンストールを着せていく。
「巻き方はこうです。真ん中を折って、大きな三角形を作り、その三角形の真ん中をおでこにつけます。この時左右を長さを変えるのがポイントです。で、短くした方を顎の下に巻いて、ぐるっと耳の上に。長い方も耳の上の短い方に引っ掛けて前に回して後頭部に。そして、後頭部で左右の布で縛って……完成です」
「これって……」
「ああ……」
「ど、どうしたの? 結構、暖かいよ、これ。目元はでてるから見えるし」
千歳がアフガンストールを身につけた姿を見て、御影と緋毬は呆然と声を失う。
わからないのは着ている千歳だけだ。
「千歳様。鏡です」
「どれどれ…………これって、テロリストじゃん!?」
鏡を見て、千歳は驚きの声をあげる。
鏡の中の自分の見かけは、テレビで見る紛争地帯の兵士そのものである。
「この巻き方はテロリスト巻きと呼ばれております」
「そのまんま!」
「この巻き方をすれば警察に職質される確立が上がり、税関では確実に止められる効果が期待できます!」
「全然嬉しくないよ!」
補足すると、テロリスト巻きをしなければアフガンストールはおしゃれな上着として利用できるので人気なアイテムである。海外旅行では装備しなくても、荷物に入れているだけで税関で止められることもあるので、持って行く際はご注意を!
「さて、このアフガンストールが人数分あるのですが……」
「背に腹は代えられない……か?」
チラリと千歳を見ながら、緋毬はゴクリとツバを飲む。
「ひーちゃん、目を覚まして!? 女の子を捨てたら、駄目だよ! もっとおしゃれな巻き方にしようよ!」
「おぉ! た、確かに。みーの言う通りだった。やっぱテロリスト巻きはなしだ! 可愛くない!」
調べていく中でターバンみたいな巻き方等、顔を覆うのでも可愛い巻き方があった。御影とアリアと緋毬は姦しく騒ぎながら、あれやこれやとアフガンストールの巻き方を試していったのであった。
ついでに千歳はアフガンストールを脱ぐことを禁止され、おもちゃのAK銃を持たされた。
そして、漫画を読み終えたセルミナが千歳を見て、悲鳴をあげたのはまた別のお話。




