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けんぽう部  作者: 九重 遥
冬から春へ
118/129

118話 インフルエンザの予防接種、お早めに!

「あー注射受けねぇといけないなぁ」

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

 緋毬のこの一言が始まりだった。

「千歳様! 注射と言っても麻薬ではありませんよ! 誤解してはいけません!」

「何も言ってないよね!」

「千歳様が注射から連想するのは麻薬ですからね。アリアはメイドロボとして先に注意しておかねばと使命感に燃えておりました」

「ひどい!」

「そういって千歳様は自身の腕を隠すように後ろ手にまわした」

「モノローグ風に偽装しないでくれる!?」

「で、何の注射ですの?」

 騒ぐ主従を尻目に、セルミナは緋毬に問いかける。

「インフルエンザだ」

「あぁ、ですわ」

「しかし、ひーちゃん、予防接種にしては遅くないかな?」

 勉強する手を止めて、御影が聞く。

 口元にペンの先をつけ、小首をかしげている。

 確かに、インフルエンザの予防接種は早い。接種の適正時期は十一月ではあるが、インフルエンザの流行時期が早くなっているために予防接種の時期も段々と早くなってきている。

 今は一月。

 ちょうどピークではあるが、遅いと言えるだろう。

「わたくしは十二月には受けましたわ」

「僕は十一月かな」

「私もだね。早い時期の方が病院が空いてるし、安いからね」

 けんぽう部のメンバーは口々に言う。アリアはメイドロボなので除外するとして、予防接種を受けていないのは緋毬一人のようだ。

「受けなきゃなーと思ってゲームしてたら、忘れてた」

「ゲームって」

「面白いゲームがでるのが悪い! 十月から怒涛のラッシュで大変だったんだぞ!」

「知らないよ。というより、一時間かからず終わるんだから、さっさと済ませればいいのに」

 千歳が口を尖らせる。インフルエンザになって辛い思いをするのは自分なのだから、後回しにしなければいいのに。

 言葉に出さないが、思いは緋毬に伝わった。

 バツの悪い表情で頭をかきながら、口を開く。

「ぐっ、忘れてた私が悪いけど、思い出したからいいだろ。まだ慌てる時間ではないはずだ」

「しかし、ひーちゃん。予防接種ってすぐに効果がでるわけじゃないよね?」

「そうなのですの?」

 セルミナの問いに御影はうんと頷く。

「確か……抗体ができるまで一~三週間かかるらしいよ」

「じゃあ、緋毬が今予防接種を受けても……」

「うん、二月の下旬くらいに効果がでてくるね」

「意味がほとんどないですわ!」

 ちょうどピークが終わりかけた時だ。

「ま、まぁ三月までは油断できないって聞くからね。効果はあると言えばあるだろうね」

 微妙に顔をそらしつつ、御影は言う。

「よし、予防接種のお金でゲーム買うか」

「緋毬、現実から逃げないで! 意味はあるからね! 予防接種受けようよ」

「わたしは高熱がでてもゲームをする覚悟を決めた」

「後ろ向きな覚悟を決めないで!」

「介護もできるメイドロボのアリアの出番ですね」

「その時は任せたぞ!」

「任せてください!」

 緋毬とアリアは互いにサムズアップをして、犬歯を輝かせて笑う。

 その仲睦まじい様子に、

「アリアものらないで!」

 千歳のツッコミが入った。

「ぶぅ、だってほとんど受ける意味ないって聞くと萎えるぞ」

「緋毬が忘れてたせいだからね。それに三月までは注意があるって御影さんが言ってたよね! 念の為にも受けとこうよ!」

「ぐっ、まぁ……そうだな。意味がまったく無いってわけじゃないもんな」

 観念して、予防接種を受けることにした緋毬。ガクッと肩を落としているが、背に腹は代えられない。

「しかし、先程は流しましたけどインフルエンザの予防接種を受ける時期で価格が違いますの?」

「ぐっ、今たけーんだよなぁ」

「うん。使うワクチンは同じだから効果は一緒だけどね。仕入れるメーカーの違いだったり、人件費の違いだったりで価格が変わるね。あと品薄も影響するし」

「なるほどですわ」

「つけくわえるなら、インフルエンザの予防、つまり冬の時期の患者を少なくする意味で赤字覚悟で低価格にする病院もあります」

 これにより大体二千円前後のバラつきがあるという。

「うぅ、本当に早く受けとけばよかった」

「だねぇ」

 後悔先に立たず。

今年のインフルエンザの特徴は高熱が出ないことらしいので、ご注意を。

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