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けんぽう部  作者: 九重 遥
冬から春へ
117/129

117話 産地や品種によって微妙に変わるけどな!

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「みかんが美味しいですわー」

「だねぇ」

「冬はやっぱりみかんだな」

「うぅぅ、早くそっちのゾーンに行きたい」

「御影様、そちらにもみかんを置いときましょうか」

「…………いい。みかんはコタツで食べるものだから……我慢する」

「わかりました」

 コタツに入っているけんぽう部メンバーと、一人机に座って宿題を片付けている御影。

 御影は宿題が終わるまでコタツに入らないと決めているので、一人蚊帳の外だ。

「みずみずしいですわー」

「薄皮も美味しいみかんは好きだ」

「美味しくないのは薄皮が食べられからねぇ」

「このみかんはアリアが厳選して選んだ品種です」

「ははっ、ありがとね、アリア」

 そんな御影を尻目に四人はコタツで温まりながらみかんをモグモグ食べていた。

 御影が寂しそうにせっせとペンを走らして宿題を片付けているのを見ながら食べるのも、また心地よい肴だ。

「おかわりですわ!」

「……っと、そのみかんは選ぶな。千歳に渡せ」

 セルミナが新たなみかんに手を伸ばそうとした時、緋毬の声が飛ぶ。

 セルミナの手が止まる。

「ええ? 別によろしいですけど。はい、千歳。みかんですわ」

「うん、ありがと……って、緋毬。何でこのみかんはセルミナさんが食べちゃ駄目なの?」

 セルミナからみかんを手渡され、千歳はそれを向きながら緋毬に尋ねる。

「ああ。この中のみかんで一番まずいのがそれだ」

「ええっ!?」

「それをセルミナに食わすのは可哀想だなと思って」

「緋毬……」

 セルミナの緋毬の見る目が感謝で潤む。

「僕ならいいの!?」

「せっかく美味しそうに食べてるからな。ほら、これが一番美味しそうだ、食っとけ」

「緋毬、ありがとうですわ!」

「いい話っぽいけど、釈然としないのは何故だろう?」

「どうした千歳?」

「……なんでもない。あー酸っぱいよ、これ」

「検査が甘く、申し訳ありません」

「いや、アリアが謝るものではないからね。美味しい品種って言っても、たまに美味しくないのが混じってるのはよくあることだし。というか、緋毬よくわかったね? 一目で判断したよね」

 頭を下げるアリアに大丈夫と手を振る千歳。そして、そのまま緋毬に話を振る。

「ああ、見分け方があるからな」

 話を振られた緋毬はみかんの皮を剥きながら、何でもないように答える。

「あれだね! 平べったいみかんが甘いってやつだね!」

 そして、知的キャラを狙っている御影がここぞとばかりに会話に参加する。雑学ネタで知的チャラが確立できるのかは微妙だが、御影は気にしない。

 人差し指をピンと立て、自慢気に言う。

「おう。他にもいろいろあるな、見分け方。たとえば……軸の切り口が小さくて薄い緑色の方が甘いとか」

「え?」

 自分の知らなかった知識だ。

 御影の垂直に立てた指が曲がる。

「他にも、果皮のブツブツが小さくて密度が濃いとか、果皮が薄くてボコボコしてるのが良いとか、擦り傷が少しあるみかんの方が良いッて聞くな」

「あ、あ……」

 口を大きく開け、呻き声らしきものを発する御影。

「え、えっと他になにかあるかな、御影さん?」

 一応聞いてみる千歳。

 御影は黙って首を振り、肩を落とした。

 そのまま勉強に戻る。

「…………悪いことしたかな」

 御影の失意の表情に感じるものがあったのか、緋毬が独りごちる。

「いいんじゃありませんの? 緋毬の知識が深いってだけで、賞賛されるべきことですわ」

 みかんを一房口に放り込みながら、セルミナは言う。

「テレビでやってのをそのまま言っただけだがな」

「よく覚えてますわね」

「たまたま頭に残っててなぁ」

「緋毬、セルミナさんのために覚えてたでしょ。セルミナさん喜びそうだもんね」

「う、うっさい! そ、そんなことねぇし! たまたまだ、たまたま!」

「緋毬!」

「キラキラした目で見るな、セルミナ! 偶然だ、偶然だからなっ!」

「緋毬、今度からみかんを買う時は緋毬にお任せしますわ!」

「それは嫌だ!」

「あらは?」

「うぅ……早くそっちの場所に行きたいぃぃぃ」

 コタツで騒ぐメンバーと、一人寂しく勉強する御影。

 そんなけんぽう部の一日。


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