112話 満足ですわー
今日も今日とて部活の日。
場所は物理実験室。
「寒いですわー」
そこに、コタツに入ってぬくぬく温まっているセルミナがいた。
どてらを着て、天板に顔をつけてとろけている西洋人は不思議とコタツに似合っていた。
「ふふっ、セルミナくんはどてらがよく似合うね」
宿題をしていた御影がセルミナを見てそう言った。
どてらは室内着であり、オシャレとは言えず、少々野暮ったい印象をあたえる。
だが、セルミナが着ると野暮ったさが愛嬌に変わるのだ。
「金髪、碧眼なのにな。貴族っぽい外見なのに似合ってやがる」
緋毬はクルクルと螺旋を描いているセルミナの髪型を見ながらそう言った。
「貴族は何を着ていても似合うのですわー」
その言葉を、受けてセルミナは顔を横向きに倒し、御影と緋毬の方向を向く。
やる気のない返答は、コタツの魔力にやられているせいだ。
「しかし、寒いか? 暖房たいてるのに」
セルミナ以外のけんぽう部の部員はコタツに入っておらず、机に向かって各自、自分の好きなことをやっている。
セルミナは漫画も読まず、コタツでボーッとしているだけだった。
「寒いですわー。漫画も読めないほどに」
「いや、読めるだろう」
そのどてらは何なのかと言葉に出さず、緋毬は半眼でセルミナを見る。
「手が空気に触れるのですわー」
見ればセルミナの両手はすっぽりとコタツに入っていた。
「なるほどね。ククッ」
「みー、納得するな。ちょっとだけだろ。それぐらい我慢しろと言いたい」
「や、ですわー。寒いのですの。我慢できませんのー」
「しかし、コタツにまるまる入らないのかい?」
御影は聞く。
セルミナは寒いと言っているわりに、コタツに体全身を入れてないのだ。コタツに入っているのはセルミナ一人であるため独占ができる。なのに、そうしないのか。
「コタツに横になったら寝てしまいますわー。今寝たら夜眠れなくなってしまいますわー」
「ああ、なるほどね」
御影はうんと納得する。
コタツの魔力は恐ろしい。横になれば不思議と目を閉じてしまうのだ。そうなったら、人は抗えない。寝てしまう。
「しかし、それなら家で寝ずに授業中寝ればいいのに」
「それ、みーだけだからな。普通は授業中寝ない」
「ですわー。学校へは勉強しに来てますのよー」
「グッ、正論がきた! 棒読みで言われるのはダメージがくるよ。勉強は今やってるから、だ、大丈夫だからねっ!」
授業中、机の上にはクッション、足元にはひざ掛け、お尻には座布団、そして肩にはストールを完備して寝る御影には反論ができるはずがない。
涙目で視線で千歳に助けを求めるが、千歳は目を逸らす。ただ、御影の横で黙って勉強に没頭する。
「グッ……」
「ま、それに、コタツで寝ると風邪を引くからなぁ……」
助け舟を出したのは緋毬だった。
ポツリと誰にでも言うのではなく、言った。
温かい場所なのに、なぜコタツで寝ると風邪を引いてしまうのか。それは、コタツに入ると体温調節ができずに、免疫力が落ちてしまうからだ。
コタツの中はぽかぽかと暖かい。だが、外気は冷たい。そのアンバランスさが脳の働きに支障をきたしてしまう。また、汗をかいてしまい、熱いとコタツの外に上半身がでてしまう。するとますます上半身と下半身の温度差が激しくなってしまうという悪循環ができる。
「セルミナ様、みかんでございます」
「わーいですわ」
ただ、座っていても汗はでる。水分が欲しくなる。
そこへ、みかんを手に持ったアリアが出てきた。
セルミナは救援物資に喜びの声をあげる。
「セルミナ様?」
だが、動かない。どういうことだとアリアは無表情で首をひねる。
「あーんですわ」
セルミナは動かず、ただ口を大きく開いて、みかんを入れろと要求する。
「コイツ、今日だらけすぎだ!」
緋毬は非難するが、セルミナは聞く耳を持たない。ただ、口を開けるのみ。
「わかりました……では千歳様、どうぞ」
「ええっ!?」
そして、突然話題に出される千歳。話に参加はしていなかったが、聞いてはいた。
「アリアは今からお茶の準備をしようと思いますので、心苦しいのですが千歳様にお願いします」
「ぐっ、仕方がないの……かな」
正論を出されては動かずをえない。千歳は立ちあがる。使われることには文句がないようだ。
「はいっと、セルミナさん」
「あーんですわ、はむっ」
「もう一個」
「はむっ。美味しいですわー」
「はい、セルミナさん」
「はむっ」
小動物に餌をあげてるみたいだと楽しくなってきた千歳。
そんな二人の世界を見つめるのは御影と緋毬。
「……ひーちゃん、なんかセルミナ君がずるい」
「……みーもやってもらえばよくね?」
結局、みかんが三つなくなるまで、あーんが続いた。
そんなけんぽう部の一日。セルミナダレる編でした。




