表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
108/129

108話 そんな一年の始まり

 咲杜神社。

 社務所で巫女さんと話すこと三十分。

「やっと解放された」

「今年も凄かったね」

 焚き火にあたりながら、二人は疲れた顔でそう話す。

 神社に他の客が現れるまでずっと巫女さんに捕まっていたのだ。

「御神籤を引こうとしても、止められたもんね」

「そんなことより、お話しよって巫女が言っちゃ駄目な台詞だろ」

 そう、最後の最後まで御神籤が引けなかったのだ。

「で、緋毬は御神籤どうだった?」

「ん」

 緋毬は自分のを千歳に渡し、千歳のを取る。

「大吉か」

「同じだね」

 御神籤にはどちらも大吉の文字が記されていた。

「今年もだな。ここまで連続で当たるとこの神社、大吉しかないかと思える」

 ここ数年間、二人共ずっと大吉なのだ。

「でも、巫女さん、他にも入ってるって言ってたじゃん」

「まぁな。じゃあ、素直に喜んでおくか」

「うん。でも大吉によっても内容違うね」

 緋毬と自分のを見比べながら、千歳は呟く。

「そだな。千歳の争事は女難って書かれてる」

「うわ! ホントだ!? 緋毬のは敵なしとか書かれてる!」

「結構正しいのかもな、この御神籤」

「しみじみ言わないで!」

「そえば今更だけど、アリアはどうした? 来なかったのか?」

「女難で連想したでしょ、今!」

 千歳は眉に縦縞をたてながら、答える。

「『アリアはお二人の行事に参加するのは無粋です。これでも空気の読めるメイドロボ。包丁を研ぎながら千歳様の帰ってくるのをお待ちしております』って言って来なかったんだ。気にしなくてもいいのにね」

「だな。つか、今包丁研いでるのかよ」

 千歳の女難と書かれた御神籤を凝視しながら、緋毬はおののく。 

「じゃ、冗談だと思うけどね」

 火にあたりながら二人は会話をする。

 正面は温まってきたので、くるりと反転して背中を温める。

 その際、社務所の巫女さんと目があった。接客中であったのに、二人に向けてサムズアップ。社務所で御神籤を引いていた参拝客が何事だと千歳達を見る。

「…………」

「…………」

 二人はまた反転。

 火に手を当てて正面側を温めながら会話をする。

「……千歳はこの一年どうだった?」

 何気なしと言えば何気ない質問、しかし言葉を発した緋毬には緊張があった。手が寒さ以外のもので震えていた。

 千歳はそれに気がつかず、そうだねぇと顎をさすりながら答えを探す。

「……色々あったからね。一言で言うのは難しいかな」

「神代に目覚めて。アリアと出会って、高校に入学して部活作ってだからな。激動といえば激動だな」

「うん。多分この一年は忘れられない一年になったと思う」

 けど、けどねと千歳は言う。

「楽しかった。楽しかったよ。最初は普通に学生生活出来るとは思わなかったから。これだけは自信を持って言えるよ……この一年楽しかったって」

 それは深く、噛み締めたような言葉だった。

 その千歳の言葉に緋毬はそっかと笑い、

「結局一言でおさまってるじゃねねーか」

 ツッコミを入れた。

 千歳は、ははっと笑い天を仰ぎ見る。

「だから、緋毬。ありがとね」

「ん?」

 緋毬が千歳を見るが、上を向いていて千歳の表情はわからなかった。

「緋毬がいなかったら、こんなに楽しくはなかったと思う。だから、ありがと」

「……ばか。わたしもだよ。わたしがいて、千歳がいるから楽しいんだ。そこを履き違えるな」

「ははっ、ごめん」

 夜空にはまんまるのお月様と満天の星空が。

「それに、今はわたしだけじゃない。アリアもみーもセルミナもいる」

「そっか……そうだよね。この一年で皆と出会ったもんね」

「楽しさ倍増だ」

「ふふっ、そうだね」

「千歳の苦労も倍増だ」

「そっちも!?」

「ほら、神託が出てただろ、女難って」

「この一年先行き不安なんだけど!?」

 両者は顔を見合わせて、笑った。

 そんな一年の始まり。

三章はこれで終わりです。

しばらく長いお休みに入ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ