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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
107/129

107話 町外れの神社は大声出しても大丈夫

 長い階段を登り終え、二人は鳥居をくぐる。

「やっと着いた」

「いつもながら大変だよね、あの階段」

 さてと、緋毬は境内を見回す。

「お、今年もあるな」

 手水舎、拝殿、社務所をぐるりと視線を移動させた後、ある一点に目を止める。

「ここに来た目的だもんね」

 千歳は苦笑し、

「おう」

 緋毬は鷹揚に頷く。

 視線の先にはパチパチと緩やかに燃える火があった。参道の脇、そこで焚き火が行われていた。正式的な名称としてはお焚き上げだろうか。お焚き上げは古くなったお守り、お札、読経等を火の神の力で天界へ還す祭事である。

 だが、この日は主に参拝に来た人を出迎えるために焚かれる意味合いが強い。

「綺麗だな……」

 緋毬はお焚き上げを眺めながら、独りごちる。

 夜の闇に赤く照らされた火の色は神社の静謐にして厳かな雰囲気を祝福しているように照らすのだ。

 火の力で朱く照らされた拝殿は闇の色と混じりあい、艶のある朱色に見えた。

 神社という場所もあるのだろうか、神秘性を感じさせる空間だった。

「緋毬はこの景色が好きだもんね」

「ああ。この日しか見られないからな」

 普通、お焚き上げが行われるのは昼間だ。

 だが、正月のこの日だけだ初詣のお客のために夜間に行われている。

「でっかい神社だったら、二日の日もやってるだろうけどね」

「でっかい神社は人が多いから、やだ」

「ここは人気ないものね」

 町外れ、それも深夜のこの時間。参拝客は緋毬と千歳しか居なかった。あとは、お客ではないが、社務所に巫女さんが暇そうに携帯を眺めているのみ。

「ふぅ、ここだったら寒くても許せるな」

 緋毬は大きく息を吸って、空気を肺に入れる。

 冷たい空気は人を引き締める。だから、厳粛な空間には似合うと緋毬は言う。

「じゃあ、手水舎行こうか」

「寒いから嫌だ」

「五秒前に言ったこと何だったの!?」

「千歳、よく考えてみろ」

「うん」

 神妙な顔で緋毬は言う。

「手水舎って手を洗うんだぞ」

「当たり前だよ!」

 手水舎とは参詣者が手や口を漱ぎ清めるための施設だ。

「洗わなかったら神様怒っちゃうよ?」

「わたしが神なら、いいよ寒いだろ。そのままきぃしゃいとか言うね」

「逆の立場で考えてみてよ。もし、緋毬の家に遊びに来て手洗いしなかったら? 嫌でしょ?」

「嫌だな。汚れた手で千歳が入ってきたら殴るね。蹴るね」

「それと同じだよ。ここは神様のお家なんだから、手を洗おうよ」

「ちっ、反論出来ねぇな。ここは千歳の顔を立てて手を洗うか」

「何でそんなに偉そうなんだか」

 緋毬はそう言うが、会話の途中で手水舎に歩いて行っているので本気の言葉ではない。ただ、千歳とじゃれているだけだ。

 手と口を清め、二人は拝殿へ。

 賽銭箱にお金を入れ、鈴を鳴らし二拝二拍手。

 願い事を終え、千歳が目を開け緋毬を見ると、緋毬はまだ目をつむって祈っていた。

 そして、十秒ぐらい緋毬を見続ける。

 緋毬が目を開け千歳の視線に気づくと、目線で何だよと千歳に聞く。

 千歳は何でもないと首を振る。

 最後に、二人は一礼をして、参拝を終えた。

「御神籤はどうする?」

 初詣の醍醐味である御神籤。

 それを引くのかと千歳に聞くと。

「えーとどうしようか」

 千歳はタハハと苦笑いしながら頬を掻く。

「明日っていうか今日か、昼にけんぽう部でまた初詣あるしな。その時引けばいいんだが……」

 緋毬も苦虫を噛み潰した表情である場所を見る。

 二人の視線の先には。

「巫女さん、凄く僕らを楽しみに待ち構えてるもんね」

 そうなのだ。社務所にいる巫女は携帯を触るのを止めて、緋毬と千歳が来るのをいまかいまかと待ち構えてるのだ。巫女は二人を見つけ、いい時間潰しが出来たと喜んでいるようにも見える。

「つか、顔見知りだからなぁ。行かなきゃ失礼だな」

「だねぇ」

 毎年の行事と言えば行事。なので巫女さんとも顔見知りなのだ。

「行くか」

「うん」

 二人は顔を見合わせて笑い、社務所へ。

「緋毬ちゃん、千歳ちゃん、あけましておめでとう! 付き合った? 付き合ってるの? 付き合ってるよね? 毎年聞いてるけど、今年も聞くよ! 二人は付き合ってるの!?」

「毎年のことだけど、この巫女さんうぜぇ!」

 緋毬の悲鳴が神社に木霊した。 

 

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