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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
105/129

105話 知的キャラを目指して!

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「あったけなー」

 今日もけんぽう部の部員たちはこたつであたたまっていた。

 緋毬の誰に対する言葉でもない言葉に、

「ずるいです、ずるいです緋毬様」

「ひーちゃんはたまに空気を読まないことがあるよね」

「わたくしは羨ましくありませんわ!」

 コタツに入っている女性陣の鋭い声が緋毬に飛んだ。セルミナは非難する言葉ではなかったが、どこか強がりに感じてしまうのは気のせいだろうか。

「はは……」

 それに対して答えたのは千歳。

 何故かと言うと、

「何でわたしが非難されるかわからん。おめーらがくじで平等に決めるって言ったらかだろうが」

「でも、二回連続! 二回連続ひーちゃんが千歳君椅子独占だよ!」

「いや、だからわたしも最初遠慮したじゃん。それを気にしなくて良いって言ったのみーだろが」

「ぐっ、そういえば言った気がするね……」

 コタツに入っている千歳の膝の上に緋毬がすっぽり収まっているからだ。

 緋毬が前で千歳を後ろに。

 だから、緋毬に対して言われていることであっても、千歳には自分に言われているように感じてしまうのだ。

 そして、話している内容が内容なだけに、どう反応すれば良いのかわからない。

「笑えば良いと思います。ぐふふふ、と」

「心を読んで発言するのはやめてね、アリア。あと笑い方おかしいから」

「もしくはアリアが良いと言ったら、アリアの好感度が上昇します」

「いや、別にそれは……」

「アリアの憎悪が2あがった。アリアは雑巾を顔拭きタオルに偽装することを覚えた」

 機械音というかシステム音チックにアリアが言う。

「怖っ! 怖いよ、アリア!」

「こらっ、椅子が動くな」

 緋毬の叱責が飛ぶ。

「ご、ごめん」

 ツッコミで動きすぎたようだ。千歳は椅子として静かになる。すると、うんと緋毬は満足そうに頷き、体重を千歳に預ける。

「アリアも千歳を虐めるな。つか、家でやれば良いだろう」

「千歳様、家では恥ずかしがってやってくれません」

 ハンカチを噛みながらアリアは口惜しがる。

「だって、スペースあるのにわざわざするっておかしいじゃん!」

「アリアは良いですのに」

「僕が恥ずかしいの!」

 じゃあ今はどうなんだということになるが、一人だけのけ者にされるのも嫌なのだ。疎外感より恥ずかしさが勝ったのだ。

「しかし、こたつはあったかいな」

 緋毬がしみじみとした声で言う。

 話題転換。

 ぬくぬくした空気はまったりした話題が似合う。だからこそ、緋毬は話を変えた。

「こたつは人類史上最高の発明ですわ!」

 そして、その声に乗るのはセルミナ。

 日本で初めて出会ったこたつという暖房器具。

 その魅力に彼女も取り憑かれたのだ。

「だけど、知っているかい? 北海道のこたつの普及率は都道府県で一番低いんだよ?」

 得意気に披露するのはやはり御影。鼻を膨らませながら言う姿には可愛げがあったり。

「へー意外ですね。つまり、沖縄よりも?」

「うん、下だ。47番目なんだ、北海道は」

「つまり、北海道はこたつの存在を知らないのですわね!」

 ババンと指を突きつけ名推理をするセルミナ。

「いや、外国じゃねーんだから、北海道の民と言えどもこたつを知ってるぞ。失礼だ」

「緋毬もナチュラルに北海道ディスってるからね」

「ふふん、何故だか知りたいよね? それはね……」

「北海道は寒すぎるため、常に家の中では暖房器具が24時間フル作動しております。ですので、コタツの出番がないと言われております」

「また言われたーーー!?」

「24時間なのか、めっちゃ光熱費かかりそうだな、それ」

「一度暖房を止めると、温度を下げてしまうと元の温度に戻すのには時間と電力がかかるそうです。だからむしろ、24時間稼働させた方が経済的だとアリアは聞いております」

「なるほどなー。外めっちゃ寒いもんな、北海道。夏にクーラーつけたり消したりするのは電気代かかるっていうからな。それと一緒か」

「なるほどですわ! アリア、ためになりましたわ!」

「ええと、その御影さん? 補足説明ある?」

 少し可哀想になって千歳は御影に話を振ってみる。

「ううん、ない。なにもないんだ……なにも」

 御影はそう言って倒れこんだ。

 千歳からは見えなくなったが、さめざめと泣いてるような気がするのは気のせいであって欲しい。

「また勝ってしまいましたか」

 アリアの小さな呟きが部室内に響いた。

 あとはズズズと各自がお茶を飲む音とすすり泣きが聞こえるのみ。

「今日も平和ですわね」

 敗者にかける言葉はない。

 けんぽう部は今日も平和である。

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