104話 領土戦争勃発!
今日も今日とて部活の日。
場所は物理実験室。
「あ………」
千歳が物理実験室のドアを開けて、中を見回して、固まった。
「おら、止まるな。千歳」
千歳に続いて部室に入ろうとした緋毬が千歳が邪魔で入れない。千歳の背中を頭突きをして、中に入る様促す。
「あ、ごめん」
「って何を見て固まったんだ……」
と、緋毬が視線を巡らすと部屋の隅に以前なかったものがあった。
「こたつ……」
「こたつだな。ウィズみー」
畳のスペースにこたつが鎮座していたのだ。
御影はこたつに顔を載せてぐだーっと、とろけた餅のように垂れていた。
「ひーちゃん、千歳君。君達も入ってこないかい」
そして、そのままの姿で緋毬とこたつフィールドへ誘う。
緋毬と千歳は顔を見合わせた後、こたつへいそいそと入っていった。
季節は秋が過ぎ、師走になり、肌寒く感じる季節。
暖かい場所への誘惑には勝てないのだ。
「オーッホホホ。セルミナ・フォー・ストラグル只今参上ですわ!」
「アリアも参上です。おまたせしました」
また戸口が開き、セルミナとアリアが入ってきた。
「お、二人共お疲れ~」
御影も千歳もお疲れと口々に言う。ただ、両手はこたつの中に入ったままだ。
顔だけ二人に向け、とろけた声で出迎える。
「あら? 皆さん。何に入ってるのですの?」
「ん? セルミナ君はこたつを知らないのかい。論より証拠だ。入ったらわかるよ」
御影は手招きしてセルミナを誘う。
セルミナは素直に呼ばれるままこたつへと。
「暖かいですわぁ!」
そして、喜びの声をあげる。
「これが、ジャパンが誇る暖房器具、こたつだ」
「アリア君も入って来ないかい? 寒いだろう?」
と、御影は唯一こたつに入ってないアリアを誘う。
「招待ありがとうございます。ですが、入るスペースが……」
「あ!?」
そう、こたつは四辺の正方形。
一辺が一人の領土となっており、アリアが入るスペースがない。
「よし、千歳。出ろ!」
「ええっ!?」
「大丈夫です。緋毬様。アリアはメイドロボ。アリアの意思は置いておきますが、メイドロボは人々のお役に立てることが喜びです。ハンカチを噛んで凍えながら皆様を見守りましょう」
「言葉の節々に不満がってる!?」
「よし、千歳。こたつの上に登っていいからそこで!」
「そこでじゃないよ! 変わってないよね? 出なきゃいけないんだよね?」
「でも、緋毬。誰かが千歳に凝視されなければならないのは照れくさいですわ」
「それに千歳君が邪魔で話がしにくい」
「アリア的に大賛成です」
「ちょっと皆、受け入れすぎじゃない!? 詰めればなんとかいけそうじゃん! 凄い窮屈になりそうだけど……」
「仕方ねーな」
と、緋毬は立ち上がる。
「緋毬?」
そして、千歳の領土へと行き、
「わっ!」
「よいしょっと」
千歳の膝の上へと腰を下ろした。
「こっちのが広々出来て良いだろ。文句あるか?」
「えーえっと」
千歳は頬を掻きながら、目線を逸らす。顔が少し赤くなっているのはこたつのせいか。
「はい! アリアにはあります! 実はアリアも狙ってました! 交代、交代! 場所はアリアの膝の上に千歳様がでお願いします!」
「動くの面倒だ。今日は我慢しろ」
だが、アリアの意見は素気無く却下されたのだ。
極楽、極楽と緋毬は千歳椅子に体重を預ける。
「ひ、緋毬?」
「何だ? つか、恥ずかしがるな。瑠璃がいつもやってるだろ? それと同じだ」
「瑠璃?」
いきなり出てきた名前にセルミナが首を捻る。
「ひーちゃんの妹だよね? 千歳君は兄様、兄様って呼ばれて慕われてるんだ」
「何で御影さん知っているんですか!?」
千歳の驚きに、御影はくくっと笑う。
「瑠璃君に会うと、毎回千歳君の話題をせがまれるからね」
いやー慕われてるねと御影は微笑む。
「だな。瑠璃はよく、あのクソ野郎いつ来るんですかって聞きやがる」
「本当に慕われてるの!? 敬称じゃなくて蔑称で呼ばれてるんだけど!」
「冗談だ」
「何だ、よかった」
「本当はあの人って呼ばれてる」
「凄い他人行儀だよね!? 嘘だよね? それも嘘だよね?」
「あー千歳椅子は反発あるし、暖かいから楽だ。これから瑠璃に譲るの止めるか」
「聞いて、緋毬!」
「緋毬様! アリアも! アリアも堪能しとうございます!」
そして、実は御影もセルミナも千歳椅子に興味が出てきたり。そんなコタツ戦争。




