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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
103/129

103話 どっちかじゃなく用途によって使い分けるべき!

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「さて、やるか」

 緋毬は皆の前にドスンと白い箱を置いて宣言した。

 声に疲れが見えるのは気のせいだろうか。

「あ、今日はお題箱の日?」

 朗らかに聞くのは千歳だ。何だかんだ、千歳はお題箱が好きだったりする。

「まぁたまにはやらないと研究所の連中拗ねるからな。よし、引くぞ」

 引く順番は一周したので、緋毬に戻る。

 緋毬はお題箱に手を入れ、ゴソゴソと漁る。

「ん」

 そして、これだと思った紙を引き出した。

「ええと、何々……『おはぎ』」

 その緋毬の一言で物理実験室は緊張が走った。

 御影も、セルミナも、アリアもお題を聞いた瞬間目を見開いた後、沈痛そうに顔を伏せた。

「「…………」」

「え? え? 何でこんな張り詰めた空気なの? 変なお題ではないよね?」

 そして取り残されるのはやっぱり千歳。

「変なの引いてすまん。だが、引いてしまったものは仕方がないと思うんだ。各自覚悟を決めろ」

 緋毬の言葉に千歳を除く全員が一斉に頷く。

「え? え? 覚悟?」

「千歳も派閥を決めろ。自分の内なる声に耳を傾けろ。他人の意見に惑わされるなよ」

「緋毬の言ってることがわからない! 派閥って何!?」

「千歳君。春にはぼた餅、秋にはおはぎと呼ばれたりするこの和菓子。実は同じものなんだ」

「雑学!? 教えてくれるようで肝心なことを教えてくれてない! 御影さん、自分の言いたいこと言っただけだ!?」

「さて、みーお前は?」

 緋毬が聞くと、御影は自身の顔の前で拳を作り、

「こしあん!」

 力強く宣言した。

「つぶあんですわ!」

 そして、続くはセルミナ。高らかに自身の顔の前で手を開き、謳う。

「アリアは実はつぶあん派閥で」

「わたしもこしあんだな」

 アリアはグー、緋毬はパーをそれぞれ顔の前に作る。

「あ、餡の種類の話なんだ」

 話がやっとわかり、千歳は胸を撫で下ろす。

 その気楽な様子にキッと八つの目が千歳を睨む。

「千歳君! 何をのんきなことを言っているんだ! 大事なことだよ、この話は!」

「ええっ!?」

「御影の言う通りですわ! けんぽう部が内部分裂してもおかしくありませんわ!」

「そこまで!? そこまでなの!? 仲間割れするほど重要なことなの!?」

「奇しくも千歳様の意見で多数派派閥が出来てしまいますね。どうでしょう、千歳様の結果でけんぽう部のおはぎに対する統一意見とするのは」

「おもしれぇ、おもしれぇよアリア。その意見のった」

「待って! 僕どっちでもいい! 何か重要な意思決定に巻き込まないで!」

「千歳君。おはぎには、こしあんかつぶあん、どっちかしかないのだよ」

 肩を優しく叩き御影は微笑む。だが、目だけは笑っていない。

 助けを求めるようにセルミナを見るが。

「千歳はつぶあんですわよね!? だってつぶあんの方が小豆の食感が楽しめますもの!」

「待て、セルミナ。つぶあんには食感はあるが、後味が残る。雪解けのようなさっぱりとした口どけがあるこしあんの方がいいと千歳が言ってる」

「言ってないよ!」

「しかし、緋毬様。千歳様は栄養的にも皮も食べるつぶあんの方がこしあんより優れてると絶賛しています。食物繊維や今話題のポリフェノール、亜鉛や銅等の栄養がとれるのですよ」

「絶賛してない! してないよ! ねぇ、僕を挟んで争うの止めて!」

「お菓子に栄養を求めるのはナンセンスさ。カロリーや栄養なんか考えて食べるより美味しさを求めた方が建設的だと千歳君が笑っちゃってるよ」

「ねぇ、僕の話聞いてる? 僕全然自分の意見言ってないよ!」

「「じゃあ、どっち?」」

 千歳の一言で女性陣が声を揃えて千歳に尋ねる。

 迂闊、千歳。

 ツッコミに専念してしまい墓穴を掘ってしまった。

 八つの目が千歳を襲う。

「え、えーっと」

「どっちもいいとかほざくのは駄目だぞ、千歳。どっちかにしろよ」

「緋毬の言う通りですわ。男らしく決めてほしいですわ」

 頬に冷や汗がたらりと流れ落ちる。

「だね。自分の意見を言ってないと不満が出るんだから、どちらがいいか内心決まっているんだよね」

「嗚呼、千歳様のご意見でつぶあん、こしあん戦争の結末が決まります」

「え、えっと、その……」

 どちらに転んでも禍根が残るこの戦い。

 千歳の戦いは今始まったばかりだ!(続かない)

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