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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
102/129

102話 大きさを犠牲にすることで甘さを濃縮したのです

 今日も今日とて部活の日。

 場所は校舎裏。

 そこに五人が集結していた。

「そろそろ出来たか」

 緋毬が細長い木の棒を取り出し、焚き火に入れガサガサと何かを探す。

「結構時間かかりましたわね」

 セルミナが髪をかき上げ、そう言った。

「時間をかけるほど後の楽しみは増幅するものだよ、セルミナ君。それに、結構片付いたじゃないか」

「ですね。一時間頑張って掃除しましたもんね。綺麗になりました」

 本日のけんぽう部の活動内容は学校の掃除。

 竹箒を片手に校庭、中庭をせっせと綺麗にしていたのだ。

「まぁ、明日には新しい落ち葉で台無しになるけどな……ってあった」

 緋毬がボヤきながらもお目当ての物を見つけたようだ。

 棒を焚き火から掻き出し拳大ほどの大きさの物体を引きずり出していく。その物体はアルミホイルに包まれていた。

「まず一個。どんどん取り出していくから先食っとけ」

「はい」

 アリアはアルミホイルを剥がし、取った先に包まれていた新聞紙も剥がす。すると、紫色の、中身を割れば黄金色の、お芋が顔を出した。

 そう、集めた落ち葉を燃料にして焼き芋を作っていたのだ。

「美味しそうですわ!」

 真っ先に食いついたのはセルミナ。

「では、セルミナ様からどうぞ」  

 アリアは微笑ましいものを見るように優しく表情でセルミナにお芋を渡す。

「あつつ、ですわ」

 軍手越しでも熱が伝わってくる。お芋でお手玉をしながら、セルミナは金色に食らいつく。

「美味しいですわ! 甘いですの! 甘いのですわぁぁぁ!」

「喜んでもらえて嬉しいよ。うん、美味しいね。しっとりしながらも甘く爽やかだね」

 御影もお芋を手にして喜びの声を上げる。

「おぉ、マジで美味いな。すげぇ甘いんだけど。これ、もしかしなくても良いやつじゃないか?」

 そして、最後に緋毬が自分の分を食べて、感想を言う。

 問うた先はアリア。アリアは緋毬の言葉に頷く。

「名を紅薩摩の蜜重ね。大きさを犠牲にするかわりに、お芋の甘さに全栄養を費やした一品。とあるシンデレラもこの芋を喉に詰まらせながらも、食して死ぬことに一生の悔いなしと叫んだ逸話があります」

「絶対嘘だよね、その逸話!? 色々おかしいよ!」

「あとは、薩長同盟を結んだのもこのお芋があったからだと言われています。当時犬猿の仲だった薩摩藩と長州藩を紅薩摩の蜜重ねがとりもって同盟を結ばせたのです」

「それお芋じゃないよ! 坂本龍馬だよ!? 逸話がどれも嘘だ!」

「いいじゃありませんの、千歳。それだけ美味しいということですわ! それにこれだけの美味しさですもの誇張したい気持ちもわかりますわ」

「うぅ……確かに美味しいけど」

 首をすくめ、釈然としない千歳。それでもお芋を食べるのは止まらない。紅薩摩の蜜重ねの魔力に彼も虜になったのだ。

「しかし、しっとりしてるけどお芋はお芋だね。ちょっと水分が欲しくなってきたよ」

「そう言うと思いまして飲み物を用意しておきます」

 そう言って、アリアは何処からとも無く缶飲料を出していく。

「流石アリア、用意がいい……って色々あるな」

 取り出したものは一種類ではなく牛乳、紅茶、ココア、りんごジュース、お茶、コーヒーと種類豊富だ。

「何が一番お芋にあうかアリアにはわからなかったので」

 頭を下げながらアリアは言う。気にしなくていいと緋毬は首を振り、飲み物を吟味し始める。

「さて、どれを飲むかな」

「迷うね。どれも合いそうで困るよ。お芋の甘さに口直し出来るお茶関係か、マリアージュ的存在の牛乳で攻めるか」

「でも、りんごジュースは合わないと思いますわ」

 空気を読まないことに定評があるセルミナ。誰かが飲むりんごジュースを貶しながら自身はミルクティーを手に取る。

「でも、セルミナさん。お芋とりんごジュースは合いますよ。りんごジュースでお芋を煮る料理もありますし」

 千歳はそう言ってりんごジュースを手に取る。

「ですわ!?」

 ええっと驚くセルミナ。

「わたしも一度食ったことがあるけど、意外に合うぞ。さっぱりとして美味いんだよな。口直し的な前菜料理でイケる」

「信じられませんわ。これは一度食べなくてはなりませんわ。アリア!」

「はい、明日作って持ってきます」

「人のこと言えんが、ナチュラルに他人のメイドに頼むってすげぇな」

「だってわたくし、料理が作れませんですもの!」

「開き直るのがまた凄いな」

「はは、セルミナ君らしいね。微笑ましく思えるのは彼女の人徳だね」

 アリアのマスターである千歳はこの話題にどう思っているのやら。

 緋毬が千歳を見ると、千歳はジュースを手に固まっていた。両目を見開きマジマジとりんごジュースを見入っていた。どうやら話を聞いてなかったようだ。

「千歳?」

 名を呼ぶと、千歳はゆっくりと緋毬に顔を向け、 

「このりんごジュースも凄く美味しい!」

 と、目を輝かせて言った。どうやら感動していたようだ

「千歳様。そのりんごジュースは名を黄金こがね弘前の蜜重ね。かの薩長同盟をとりもったといわれる逸話があります」

「その逸話、紅薩摩の蜜重ねと被ってるよ!」

 ワイワイガヤガヤ、こうしてけんぽう部は秋の味覚を楽しんだのである。


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