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けんぽう部  作者: 九重 遥
秋から冬へ
101/129

101話 吸血鬼様の次は御影様ですか

 今日も今日とて部活の日。

 場所は物理実験室。

「珍しい組み合わせになったね」。

 御影は目線はチラチラと時計に寄せながらも、アリアに対して言った。

「はい」

 対して、アリア。こちらは真正面に御影に見つめ返答する。

 本日、緋毬はゲームの発売日のため不本意ながらも欠席。セルミナは生活費の振り込みが今日なのですわオホホホと優雅に笑いながらも、部活後の時間に銀行からお金を下ろすと手数料がかかるという切実な理由のため欠席。そして。千歳は担任の手伝いに呼ばれ遅刻、あと20分はかかると連絡が。

 今この場所には御影とアリアしかいなかった。

 御影の目線が時計からアリアの顔に戻ったその瞬間、アリアは言った。

「さて、やりましょうか」

 アリアは拳を握りしめ、脇を締め、目線を真っ直ぐ御影に向ける。

「ちょ、ちょ、ちょ、何でファイティングポーズ!?」

「いつか、アリアと御影様はやりあう運命だと信じてました」

「話についていけないんだけど!?」

 御影が乗ってこないことがわかると、アリアは溜息をつきながらも構えを解く。

「やらないのですか?」

「何で!? やる理由がないよ!」

「身に覚えがないと?」

「何で不思議そうな顔をするんだい!?」

「良くご自身の格好を見てください。さすれば分かるはずです」

「自分の格好……?」

 ポンポンと自分のネクタイ、胸、お腹、スカートを順番に叩いて確かめる。

 うん、特に変なことはない。しいて言えば、制服が冬服となったぐらいだが、衣替えからもう一週間は過ぎている。ならば、関係ないはずだ。

「特に変な所は……」

 との声に、アリアは被せるように

「頭です。ヘッドです。オンザヘッドです」

 言った。

「頭……あっ」

 自然過ぎて気がつかなかった。頭が揺れると動く一房の髪束。

 それは……。

「御影様は本日三つ編みでらっしゃいます」

「え、えと、駄目なのかな?」

 三つ編みをしたら問題なのかと、アリアの険しい目を見て御影は控えめに聞く。

「大問題です。秋の間はツインテール。派生があっても、ツインテールの域から出ないと油断していたら、この始末。アリアは自身の油断から決別せねばなりません」

「この始末って……酷いよ。私が髪型を変えるのは駄目なのかい?」

 先程とは同じなようで同じではない質問。

 その答え如何で、御影とアリアの仲に亀裂が入りそうなのだが。

 アリアはためらいもなく頷いて、答えた。

「だって、御影様が三つ編みに変えたのは千歳様に見せるためでしょう?」

「えっ……」

 御影はアリアの言葉に静止する。口を大きく開け、ぽかんとアリアを見続ける。良く見れば首元からうっすらと赤く色づき始めてきた。

「さっきから、時計の時間が気になっていたご様子。物理実験室に来るのは千歳様ただ一人。そして、千歳様は遅れて来る。以上のことから導き出される答えは……」

「ストップ! アリア君、誤解しているよ、誤解!」

 誤解、と首を傾げるアリアに、御影は人差し指をピンと差し告げる。

「た、確かに三つ編みは千歳君に見せるためだよ。ああ、そうさ、それは認めよう。だ、だけど恋愛的な意味はないんだ。ほら、魔術のことを黙っていたから悪かったなぁって思ってね。そうしたら思い出したんだ。千歳君が私の三つ編み姿を見たいっ言ってたて。そりゃ、私もやるかどうか迷ったよ。いや、これは普通なことで、見たいって言われたからしてきたけど、想像してたのより微妙とか思われたら嫌だという普通の、普通な理由で。せっかくするんだから喜んで貰いたいというのは当たり前のことだよね。だから、だから、彼を特別とか特別視とかするんじゃなくて。えと、その、そうだ! 姉として、千歳君の姉代わりとして気になったんだ!」

「よし、御影様。やりましょう」

「何でまたファイティングポーズとるの!?」

「不覚にもアリア。ちょっと御影様を愛おしく思ってしまいました」

「何で!?」

「あと、千歳様は御影様の髪型を見て褒めてくださると思います」

「ホント!?」

 顔を輝かせて聞いてくる御影。だが、すぐに我に返りゴホンと咳をして真面目な顔を作る。

「本当かい、アリア君?」

「今更取り繕われても」

「姉代わり! 姉代わりだから!」

 ジトーっとアリアは御影を見るが、御影は冷や汗を垂らすだけで反応しない。まぁ、いいでしょうとアリアは追求を辞める。ほっと胸を撫で下ろす御影。

「しかし、髪型を変えてアピールしたからアリア君は怒っているのかい?」

「いえ、それはいいのですが」

「いいの!?」

 驚愕を露わに御影は言う。アリアは無表情で頷く。

「はい。それに関しては特に」

「ええっ!? じゃあ何で?」

「相対的にアリアの個性が薄れるからです。今回もサプライズで教室内では普通でした。そして、髪型を変えて部室に来てみれば御影様が。ああ、我慢ならないのです、生かしてはおけねぇとアリアの中の太宰が言っておるのです」

「ええっ!?」

「アリアの髪型も三つ編みにしたら被せるように御影様も。これは宣戦布告とアリアは受け取っております」

「そうだ! アリア君も三つ編みだ、一緒だ! 自分のことで手一杯で気がつかなかった!」

「ファイッ!」

 何処かで、カーンと鐘が鳴ったような気がした。

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