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王と王妃の結婚の話  作者: さなみさぎめか
二人の結婚
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14

 ついに言ってしまった。

 ギルバートは目の前で言葉を失うエミリを自分でも驚くほど冷静に見ていた。


 自分の贈ったドレスを着たエミリがとても愛らしかった。いつもより身体を密着させると、みるみる頬が赤くなって、それもまた可愛い。ギルバートに身体を預けるエミリが、本当に自分を好いてくれているような錯覚さえした。

 けれど、ドレス姿を褒めたら表情を固くする。


 それでも、ギルバートはエミリを諦めきれない。


「ああ、そう言えば、君はドレス姿を褒められて嬉しかったといったか」

 エミリが逃げないのを確認して、距離を少しずつ詰めていく。

「……、はい、あの、私は何か……?」

 状況が分かってきたのか、エミリは真っ青になってギルバートを見上げた。

「ドレスの贈り主に褒められて嬉しさを返す、と言うことがどういうことか、知らぬわけではあるまい?」

 そう言って、ギルバートは素早くエミリの腕を引き、抱き寄せた。

 ビクリと身体を震わすエミリを無視して、額に口付ける。

「こうなることを、承諾したのだな?」

 返事を待たず、頬にキスをする、次に、反対の頬。もう一度額。そして、触れるだけの唇へのキス。

 本当は、犯してしまいたい。

 他の男を想いながら自分のそばにいるエミリを、無理矢理自分のものにしてしまいたかった。

 何度もエミリにキスを落とし、胸に疼く思いを思い出す。

 ちゅ、と、音を立てて唇にキスをした後、ギルバートは少しだけエミリから離れた。

「けれど、私と君がこうなることを望まない者がいるのだろう?」

「え……、そ、それは」

 呆然と、されるがままになっていたエミリは、かすれた声で疑問を口にする。

「君が、大切に抱きながら眠る手紙の送り主だよ?」

「て、が、み」

「辛い時には、あの手紙を思い出すのだろう」

 全部知っているのだという目で、エミリを見下ろした。

「教えてくれないか? あの手紙の差出人の本当の名前を」

 結局、トマスは手紙の主を突き止めることはできなかったようだ。今日まで報告はない。だが、何も知らない恋敵に全て負けるのだけは悔しかった。せめて名前だけでもと、ギルバートはエミリの返答を待つ。

 しばしの沈黙の後、エミリはおずおずと口を開いた。


「あの、メアリ、です」

「ほう、メアリ……、まるで女のような名前だな?」

「はい、姉は女性ですから……」

「ふぅん、姉のメアリ……、メアリ?」

 え、なんだって?

 と、間抜けに声を出すのだけをようやくこらえる。


「メア……、メアリって、いや、違う。Mと言う男の差出人の話をしているんだぞ?!」

「?……、あの、私宛の手紙で差出人がMとなっているのは、姉のメアリだけですが……」

「だが、あんな簡素な封筒が、侯爵家からの手紙だと?!」

 エミリは不思議な表情で、小首を傾げた。

「実家は、とても貧しくて……。事務用品は、一番安いものをと決めておりましたので……」

 突然ギルバートはオロオロと慌て始めたのだが、エミリにはそれが何故だかわからないのだ。


「君は……、手紙を送り合う恋人がいるんじゃないのか……?」

 部屋に入った時とは段違いに勢いをなくしたギルバートの声。

「えっ」

 しかし、ギルバートの言葉にエミリは唇を噛み締めて眉をひそめた。

「そんなわけ、ないじゃないですか。私は、ずっとギルバート様だけを……。けれど、あなたには他に想い人がいるって。他に恋人がいるのは、あなたの方でしょう?! 何故、私を惑わすようなことをされるのですか? 酷いです。こんな言いがかりまで……!」

 一度、あふれだした言葉は止まらなかった。

 ぽかんと口を開けて固まってしまったギルバートをよそに、エミリは更にまくし立てる。

「そんなに、私が鬱陶しかったですか。それほど、私のことをいじめて楽しいですか。私の反応はおかしかったですか。私が逃げれないと知って、何をしてもいいと思われましたか?!」

 あふれた涙を見られようと、エミリは下を向かなかった。

 まっすぐギルバートを睨み上げる。

 その視線に、ギルバートは完全に射抜かれた。

 可愛いと思っていた。そうだ、エミリは可愛い。自分を追いかけるエミリは、本当に可愛かった。けれど、それだけではない。この真っ直ぐな瞳は、美しく強い意志を持っている。

 ギルバートは、知らずゴクリと喉を鳴らした。

「離して下さい。自分の部屋に戻ります」

 ギルバートに抱きしめられて目を白黒させていたエミリは、今はもう迷う様子はない。はっきりとギルバートの腕を押し返す。

「いや、それは……、できない」

「なんですって?」

 一方、ギルバートは腕に力を込めて、エミリを抱きしめた。


「他の者などいない。君だけだ、愛しいエミリ」

 ギルバートは、エミリの視線をまっすぐ受け止め、はっきりとその意志を示した。

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