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アデン大戦記 ―今日も俺たちは死にかけている―  作者: 霧原零時(orすっとぼけん太)
第九章 いつだってアデンの空は蒼かった
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第2話

血盟ニュルンベルグの風華夢フーカムは、グルーディオの城下にいた西部軍のモンゾーラに撤退を命じると、その足でネオフリーダムのアジトへ向かった。

その突然の訪問に、出迎えたブルーベルやパルたちとの間に一触即発の緊張が走ったが、デュランが間に入って場を収めた。


話を聞いたパルたちは誤解が解け、最後に風華夢は深く頭を下げて謝罪し、今後の敵対行為はないことを約束した。


シエンとミロイは、すっかり日が暮れてから戻ってきた。

サザーランドのジンたちは、自分たちのアジトへ戻った。


意識のないハルトは、ニュルンベルグ兵が荷車に乗せて運んできてくれた。

リオナは、兵にハルトを運ばせると、羅観王への報告のためにシェヴェリーン城へ戻った。

寝床に運ばれたハルトには、いまも妻のメリサとリクトが付き添っている。



◇◇◇


――――二時間後。


龍神鬼との壮絶な戦いを終えたレイジとビクライが、エルナを両脇で支えるようにして帰ってきた。

それに気づいたセシリアが、アジトの門から飛び出してきた。


セシリアは、ずっと外でレイジの帰還を待っていた。


「レイジ!」


駆け寄ると、レイジの首に抱きつく。

レイジはそれを右腕でしっかりと受け止めた。


「うわ」

レイジが支えを放棄したせいで、エルナの体重がビクライひとりにのしかかり、思わず声が漏れた。



「もう、心配したんだから……」


セシリアの目から涙があふれた。

レイジは黙って、腰に回した腕に力をこめた。


――ギュッと。


「おまえ、少し痩せたな」


レイジがセシリアの顔を覗き込む。

セシリアは何か言いかけたが、ためらった。


「どうした?」


「レイジ……頭、アフロ(それ)に変えたの?」


「あ、いや。これは……」


横にいるビクライを見たが、ビクライは慌てて目を逸らした。


「まあ、色々話すことはあるけど、とりあえず、水をくれ」


レイジはアジトの中へ歩いていった。



ラウンジの椅子に腰を下ろし、パブロから水を受け取ると、一気に飲み干す。

次に渡されたタオルで顔を拭いた。

真っ白なタオルに、黒く煤けた顔の跡が残った。


「レイジさん」


ラウンジの入り口に、メリサとリクトが立っていた。

レイジはタオルをパブロに返すと、立ち上がった。


「ご無沙汰しています。今回のこと、夫が本当に申し訳ありませんでした」


メリサが頭を下げる。


レイジは首を横に振り、優しく言った。


「一度も間違わずに生きていける奴なんていない。ハルトは、ずっとおれたちの仲間さ」


「ありがとうございます」


メリサはさらに深く頭を下げた。


「さすが、盟主けいけんしゃが言うと、言葉が重い」


そこへ通りかかったパルが言う。


「ほとんど間違って、生きてる奴もいるしな」


後ろからシエンが続けた。

レイジは一瞬首をひねったが、


「お、シエン。ハルトを救い出したんだって?」


「わたしじゃないよ。ジンたちが助けてくれた」


「なぁ~んだ、おまえじゃないのか。シエン、たまには活躍しろよ」


レイジが言うと、リクトの前に跪いた。

横のメリサが『違います』と言おうとしたが、シエンが首を振って止めた。


「リクト、大きくなったなぁ」


レイジがリクトを抱き上げた。


そこへブルーベルがすごい剣幕でやってきた。


「レイジ!」


レイジはリクトを降ろして振り返った。


「単独行動は絶対にするなって、あれだけ言われたのに、なにやってんのよ!」


「はい」


直立不動のレイジ。


「はいじゃないわよ。姉さんを心配させて……」


「はい!」


シエンとパルは目配せをして、立ち去るタイミングを探っていた。


「まあ、そう怒るな」


パブロが間に入った時に、ミロイが中庭から走ってきた。


「兄やん、ちょっといい」


ミロイが外を指差す。


「なんだよ、慌ただしいな」


言いつつ、レイジは心の中で『GOOD JOBよくやった』と呟いていた。


ブルーベルはまだ収まらなかったが、身体を引いてレイジを道を開けた。


レイジは先ほどの死闘のことをまだ何も話せていなかった。

ビクライは、深手を負ったエルナを寝床に運んだきり、出てきていない。


外に出ると、白髪の少し痩せた男が立っていた。

ミロイが、自分を救ってくれたことも含めて、横にいる風華夢を紹介した。


「なんで、こんな外にいるんだ?」


「風華夢さんが、ここでいいと」


風華夢が微笑んだ。


「あんた、ニュルンベルグの四天王だったのか」


「はい」


「あのとき、おれを殺りに……」


「はい」


「おれは背中を向けて無防備だっただろ。なんで殺らなかった?」


「……」


風華夢は下を向いている。


「ん?」


「……いえませぬ」


「はぁ?」


「わたしには友がおりませぬ。バニラ殿から、レイジ殿の周りにいるお仲間たちの話を聞きました。わたしは――」


その途中で、レイジが風華夢の両肩にドンッと手を置いた。


「えっ、えええ!?」


一分の隙も見せなかった風華夢が無防備な姿を見せ、ミロイが驚いた。


「まあ、いいや」


レイジが微笑んだ――その時、重要なことを思い出した。


(ニュルンベルグといえば、こいつ、龍神鬼の仲間だよな……けっこう仲良しだったりして……。あちゃ~、悪いことしちまったかも。……汗)


急に不安な顔になるレイジ。


(でも正直に話さないと……)


と、その時。寝床から戻ってきた(何も知らない)ビクライが歩いてくるのが見えた。


「ビク!」


呼ばれたビクライが走ってきた。


「ビク、これからボクには重要な盟主の用事があるんで、この方に、さっきの黄昏山地での出来事を話してあげなさい!」


ビクライは目をぱちくり。

(この人は誰なんだろう……?)


風華夢が静かに会釈した。


「レイジ!ここにいたのか」


デュランが外に出てきた。


「デュラン、戻ってたのか。……あ、ああ、例の件だよな」


レイジが片目を瞑った。


「いや、レイジに、お土産が……」


「いいから、いいから」


レイジはデュランの肩に手を回し、強引に連れていった。


少しして裏から「にげぇぇぇ~!」とレイジの声が響いた。


そのあと。


ビクライの話を聞いた風華夢は、いつも冷静な表情を崩さぬ彼にしては珍しく、はっきりと動揺していた。



「あれ、レイジはどこ行った?」


セシリアが走ってきた。


「今度はなに?」


ビクライが顔を向ける。


「ルピタの意識が戻ったよ」


セシリアが、満面の笑みで答えた。

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