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進捗報告

「じゃあ、僕達も席に着こう」


 という兄の発言により、私達も近くの椅子に腰を下ろす。

これで全員着席した訳だが……一体、何が始まるのだろうか。

『やっぱり、アレ関係かな?』と首を傾げる中、父とアレン小公爵が互いに頷き合った。

かと思えば、おもむろに席を立つ。


「これは後ほどレーヴェン殿下にもお伝えするが」


 そう前置きしてから、父はこちらを……いや、ルーシーさんを見た。


「聖女候補殿より承った、アイテムの収集及び四天王の討伐────全て完了した」


「急かす訳じゃないが、あとはお前達の分だけってことになる」


「「!!」」


 想定より遥かに早い進捗具合に、私とルーシーさんは衝撃を受けた。

兄やリエート卿はもう既に知らされていたのか、あまり驚いた様子はない。

ただ、やはり表情は硬かった。

魔王との戦いがより現実味を帯びてきて、不安と緊張に苛まれているのかもしれない。


「出来ることなら手助けしてやりたいが、聖女候補殿の話を聞く限り静観するのが一番だと思われる」


「だから基本ノータッチを貫くが、何か力になれることがあれば言ってくれ」


「もちろん、遠慮はナシよ?私達は気を使われるより、頼られる方が嬉しいんだから」


 朗らかに微笑む母は、『いつでも連絡してきなさい』と言い聞かせる。

ちゃんと頼れる存在が居るんだよ、と示すように。

人一倍責任感の強いメンバーが揃ってしまったため、子供達だけで抱え込まないか心配なのだろう。

気遣わしげな視線をこちらに向ける母の横で、アレン小公爵は再度席に着く。


「まあ、これで報告っつーか話は終わり。結界、もう解いてもいいぞ」


 『ありがとな』と言って笑うアレン小公爵に、私は一つ頷いた。

パンッと手を叩いて結界を解除し、少しだけ肩の力を抜く。

────と、ここでルーシーさんが席を立った。


「お話、ありがとうございました。そろそろ時間ですので、お先に失礼します」


 イベント開始時刻のことを気にしているのか、ルーシーさんは早々に踵を返す。

父達の進捗具合を聞いて焦ったのか、それとも単に気合いが入っているのか、彼女は足早に生徒会室を出ていった。

一応、まだ時間に余裕はあるというのに。


「なあ、今回の任務はルーシーに一任するんだったよな?」


 パタンと閉まった扉を見つめ、リエート卿は頬杖をつく。

どこか心配そうな雰囲気を漂わせる彼に、私はそっと眉尻を下げた。


「はい。未来予知によると、ルーシーさん一人で任務をこなしていたようなので。下手に介入するのは、危険と判断しました。幸い、危害を加えられるような場面はないそうですし」


「じゃあ、俺達は本当に何も出来ないなぁ」


「そうですね……こうなったら、普通に学園祭を楽しむしかないと思います」


 『ルーシーさんもそれを望んでいますし』と言うと、リエート卿は小さく頷いた。

歯痒い気持ちを押し殺すように軽く伸びをして、立ち上がる。

と同時に、目を剥いた。


「あっ……リディアの個人発表のやつ、もうすぐかも」


「「「!!」」」


 ガバッと勢いよく掛け時計に視線を向け、私の家族は慌てて扉へ向かう。

それはもう鬼気迫る勢いで。

普段おっとりしている母さえも目を光らせ、素早く廊下に出た。

かと思えば、直ぐにどこかへ行ってしまう。


「あー……確か、個人発表のオークションは一年生の作品から順番に競売に掛けられるんだっけ?」


 あっという間に居なくなってしまったグレンジャー公爵家の面々を前に、アレン小公爵は苦笑する。

その隣で、リエート卿も微妙な表情を浮かべた。


「夫人や公爵はまだ分かるけど、何でニクスまで焦ってんだよ。あいつ、既に同じものを持っているじゃん」


 先日大量にプレゼントしたブレスレットを思い浮かべ、リエート卿はやれやれと(かぶり)を振った。

かと思えば、愉快げに目を細める。


「今回のオークションの最高値は、これで決まりだな」


「なんなら、俺達も便乗するか?」


 まさかの悪ノリに転じたアレン小公爵に、私は思わず肩を震わせた。

だって、グレンジャー公爵家とクライン公爵家が競い合ったら、間違いなくとんでもない値段になるから。

『0が一つ多いどころの騒ぎじゃない……』と青ざめ、私は首を横に振る。


「本当にただのブレスレットなので、勘弁してください」


「ははっ。安心してくれ。冗談だ。俺の狙いはリエートの作品だけだからな」


 『そのために温存しておかないと』と言い、アレン小公爵はキラリと目を光らせた。

獲物を狙う狩人のように真剣な彼に、リエート卿は小さく肩を竦める。

多分個人的にやめてほしいんだろうが、もう何を言っても無駄だと悟っているようだ。

『勝手にしてくれ』とでも言うように一つ息を吐き、リエート卿は頭の後ろに手を回す。


「んじゃ、俺達は適当にそこら辺ブラブラしようぜ」


「ただここで公爵達の帰りを待っているのも、退屈だもんな」


 リエート卿の提案に理解を示し、アレン小公爵は『さあ、行こう』と促してくる。

その視線の先には、どう考えても私しかおらず……。


「えっ?あの、私もご一緒してよろしいんですか?せっかくの兄弟水入らずですのに」


 『お邪魔では?』と心配する私に、リエート卿とアレン小公爵は顔を見合わせた。

かと思えば、プッと吹き出す。


「あんだけ家族ぐるみの付き合いをしておいて、今更そんなの気にすんなよ」


「それに弟とは、また明日にでも二人で回ればいいんだし」


 『てか、四日間ずっと二人きりにされても困る』と冗談めかしに言い、アレン小公爵は目を細めた。

『気にしなくていい』と言葉や態度で表す彼を前に、リエート卿は長テーブルに寄り掛かる。


「大体、ここでリディアを放置したら間違いなくニクス達に怒られるって」


「ついでにウチの両親からも」


「リディアのこと、めちゃくちゃ気に入っているからなぁ」


 しみじみとした様子で呟き、リエート卿はどこか遠い目をする。

『もはや、あれ自分の娘扱いだよ』と語りつつ、身を起こした。

と同時に、こちらへ手を差し伸べる。


「てことで、一緒に行こうぜ」


 いつものように明るく笑って、リエート卿はエスコートを申し出た。

『楽しい思い出を作ろう』と述べる彼に促され、私は手を重ねる。

ここまで言ってもらって、断るのはさすがに失礼かと思い。

何より、私も彼らと過ごしたかった。


 お兄様達が戻ってくるまでの間だけ、兄弟水入らずにお邪魔させてもらおう。


 などと考えながら、私はリエート卿やアレン小公爵と共に生徒会室を後にした。

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