表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/210

自警団の成長

村も秋が本格化してきた季節。

少しずつ涼しくなり始めた事もあり、海賊の話も気にはなっていた。

とはいえ以前の元海賊の老人曰く冬になると海賊の活動は静かになるらしい。

寒さの前では海に出るなどというのは危険行為そのものなのだとか。


「あ、エルネスト、何かあったのかしら」


「おう、嬢ちゃん、さっき自警団の奴が村に入り込んでた海賊を捕まえてな」


「本当なの?とりあえずその人に会わせてもらっていいかしら」


どうやら警備をしていた自警団の一人が村に偵察に来ていた海賊を捕らえたらしい。


オルライトはその海賊と面会する事にした。


「あなたが自警団の人が捕まえたっていう海賊?女の人だったのね」


「てめぇが領主か!さっさとこいつを解きやがれ!」


「そうはいかないわ、どうせ解放したら親分に報告に行くんでしょうから」


「くそっ!自警団があんな強いとか聞いてねぇ!なんなんだあれ、騎士じゃねぇかよ!」


「そんなに強くなってたのね、この短期間で強くなったものだわ」


とりあえずその海賊にいくつか質問をする事に。

きちんと答えれば命までは取らないと約束する。


その上で質問を開始する。


「さて、まずあなたの海賊団は村への上陸は企てていたのかしら?」


「そうだよ、でもなかなか機会が見つからなかったんだ、自警団のせいでな」


「では次、あなた達はもし上陸が成功していたら略奪や襲撃をするつもりだった?」


「海賊なんてそれしか出来ねぇだろ!今さら真っ当に生きられるほど器用じゃねぇんだ!」


「そう、なら一つ提案よ、村で働いてみようと思わない?」


オルライトの提案はかつて盗賊達を捕らえた時と同じもの。

労働力や村の警備など、使えるものはなんでも使い利用しようという考えだ。


それに対しての返事は。


「海賊って言うからには海の知識があるのでしょう?村でそれを活かしてみない?」


「お前、正気で言ってんのか?もし村で働きますって言って背後から撃つかもしれないぞ?」


「撃てるものならいつでも撃ってきていいわよ?少なくとも撃たれてやるつもりはないもの」


「お前、貴族の女にしてはとんだ食わせもんだな、なら親分に報告する、駄目か?」


「…そうね、なら手土産を持たせるからそれを持って報告に行ってきて」


万が一の事を考えて手土産を持たせるオルライト。

それは村で産業として売り出す予定のドーナツだった。


砂糖は高価なものとはいえ、オルライトの財力なら手に入れるのは容易いからだ。


「とりあえず一つ食べてみなさい」


「…毒を盛ってないよな?」


「なんなら私が先に食べてもいいわよ」


「分かったよ…なんだこれ、まさか砂糖を使ってんのか」


「そうよ、それを持って親分に伝えてきて、村はあなた達を労働力として受け入れると」


オルライトはあくまでも労働力として海賊を囲い込もうという考えである。

とはいえ海賊にも事情があるのは察している。


それだけは聞いておく事に。


「それと、あなた達はなぜ海賊になったの?」


「…あたし達は昔異国の地で売られたんだ、その時の輸送船が襲われてな」


「その輸送船はどうなったの?少なくとも海軍が来るはずよね」


「その時一緒に捕まってた貴族の女が、先頭に立って海賊と戦った、んで気に入られてな」


「つまり襲った海賊に勇敢に立ち向かった女達を気に入った海賊に拾われたの?」


どうやら異国で売られた女達は海賊と戦い、その海賊に気に入られたのだという。

だがその海賊団はまた別の戦いで壊滅、そのまま海賊団を引き継いだのだと。


その海賊達は自分達を解放しようとしたが、それを拒み最期を見届けたのだとか。


「つまりあなた達は自分達の意思で海賊になる事を選んだっていうの?」


「そうだよ、売られた身であったあたし達は解放されても行く場所がない、ならそれしかない」


「それでその海賊団の海賊旗を受け継ぎ、女海賊団が出来たという事なのね」


「海賊なんて真っ当じゃねぇのは分かってる、でもそれがあたし達なりの恩返しなんだ」


「そう、事情は理解したわ、解放するから親分に私の提案を伝えてきて」


そのままオルライトは海賊を拘束していた縄を切る。

その女海賊に手土産のドーナツを持たせて伝えるべき言葉を言う。


冬が近いこの季節に交渉すれば少なくともこっちが有利になるとも踏んだのだろう。


「もし働く気があるのならこれを領主館の衛兵に見せてね」


「…分かった、話がまとまるまで手出しはしないようにも伝える、じゃあな」


「さて、あとはどうなるか、待つしかないわね」


捕らえた海賊はそのまま海へと返されていった。

オルライトは優しい人ではあるが、同時にかなりしたたかでもある。


利用出来るものはなんでも利用する。


対価をきちんと払えば多くの人は真っ当に働くと知っているのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ