山を爆破しまして
先日の調査結果に基づき山を崩せるほどの爆薬を依頼したオルライト。
数日でそれは完成し、実際にそれにより山崩しが行われた。
見事なまでの轟音が響いたその日、山は崩れそこに新たな土地が出来た。
そしてそこに新たな施設や住居が建っていく事となる。
「本当に見事なまでに綺麗に崩れたわね」
「僕達とダークエルフ達の合作だからね、威力も安全性もバッチリさ」
「ベルって家の事もあるだけに、研究職にもそれが活かされてるわよね」
ベルの家は建築一族の家である。
研究職に進んでもなお建築に使われる技術が活かされているようだ。
「それにしても領主代行とはいえ、土地を好きに開拓していいっていうのもねぇ」
「元々この辺りは海沿いという事もあって住んでる人は少なかったのもあるしね」
「でもすぐ近くに伝承の樹があるんだからもう少し栄えててもよかった気がするんだけど」
「逆なんじゃないかな?伝承の樹があるからこそ発展しなかったのかもよ」
「そんなものなのかしら、なんともよく分からない話だわ」
近くに伝承の樹があるからこそ栄えなかったのかもしれないというベルの意見。
そんな領地を好きにしていいとまで言ってきた今回の仕事。
それはつまりオルライトの手腕を見るのと同時に国の発展も考えていたのか。
「なんにせよ土地が増えていくからには建てられるものはなんでも建てないとね」
「以前から来るようになったフユっていう子が持ってくる知識なんかは面白いしね」
「でもなんで異世界の人がここに迷い込んだのかしら、不思議な話だわ」
「そういえば彼女が見つかる直前に大きな地震があったよね」
「ええ、確かにこの村は地震がたまに観測されてるけど、まさかそれのせい?」
冬夕がこっちの世界に迷い込む少し前に大きな地震があったのは覚えている。
まさかそれがきっかけで冬夕はこちらの世界に迷い込んだのかとも考えてしまう。
伝承の樹がその地震と冬夕がこっちに来てしまった事に関係したりしているのか。
「まあ冬夕が来るようになってから何かと楽しいから私は別にいいんだけれども」
「オルライトって意外と彼女の事を気に入ってるよね」
「彼女は自分の世界だと裕福ではないけど、貧しくもない感じの家らしいのよね」
「つまり中流家庭か、でも物理的な持ち込みがほぼ出来ない辺り何かからくりがあるのかな」
「そうなのよね、彼女の持ってるすまほっていうのに転送魔法がかかってるんだけど」
冬夕がこちらの世界に飛ばされる際は転送用のスマホ以外はほぼ持ち込めない。
記憶したものなどは持ってこられるが、一部以外の物理的な持ち込みが出来ないのだ。
それもあり学生カバンやそれに入っている道具類程度しか持ち込めないようである。
「彼女がこちらに転送される際に学校で使ってるものは持ち込めているみたいなのよね」
「つまりペンや手帳、運動着なんかは持ち込めるって事なのかな」
「それでも他に物理的な持ち込みをしようとしても、そうすると転送されないらしいのよ」
「不思議な話ではあるね、そもそもまずなんでこっちに迷い込んだのかからになるけど」
「伝承の樹が関係してたりするのかしら」
なんにせよオルライトが来てから多少不可解な事は起きている。
それでも村はきちんと発展しているし、人も移住してきている。
利用可能なものはなんでも利用するのはオルライトのしたたかさか。
「うーん、私は確かに結婚したくないからこそこの仕事を受けたんだけど」
「国もほとんど手を付けなかったこの土地を今になって好きにしていいっていうのもね」
「確かに割と田舎だから、大きく栄えてないのは分からなくはないんだけれど」
「とはいえローゼンブルク領は研究都市がある程度には、研究者が多い領地なんだよね」
「そういう施設が多い領地もあるものね」
つまり今回の仕事は国の開発事業にアッシュ家が乗っかった形になるのか。
オルライトの婚約解消を条件に今回の仕事を利用したのかもしれない。
真偽は分からないままではあるが、条件として提示したからにはやり遂げる覚悟である。
「とりあえず仕事に戻るわ、何かあったらまた力を貸してね」
「よほどの無茶でないならね」
「お互いその辺は分かってるものね」
この村の開発事業そのものがオルライトの婚約解消に利用されたのか。
国がそういう計画をしているというのはオルライトも聞いていない。
だが今となってはこの仕事にも意義を感じている。
婚約を解消出来るならその辺の細かい事はどうでもいいのである。




