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とある移住者

海賊の報告が入った事で村の警備を固めていく事になった。

オルライトは近いうちに聖宮騎士団との交渉に向かうべく準備を進める。

村の守りを固めるにはやはり実戦経験がある人の力が欲しいのだ。

そんな中移住してきた住民の中にどこか不思議な雰囲気を感じる老人を見つける。


「あの、少しいいかしら」


「ん?お嬢ちゃん、噂に聞く領主様かい、若いって聞いてたが想像より若いな」


「もうっ、それよりあなたにただの老人とは違う空気みたいなのを感じたのよ」


オルライトがその老人から感じ取った独特の空気。


それはかつて荒れていた人間の空気とでもいうのか。


「あなたは昔は何か凄い人だった、というのは考えすぎかしら」


「お嬢ちゃんは意外と鋭いもんだね、まあこれでも昔は海賊やってたんだぜ」


「海賊って本当なの?」


「ああ、とはいえ俺のいた海賊団は壊滅、俺だけがなんの因果か生き残っちまってな」


「壊滅って、何があったのかしら」


その老人はかつては海賊をしていたという。

だがその海賊団は壊滅し、彼はその海賊団のただ一人の生き残りなのだと。


過去に何があったのか、失礼を承知でそれを聞いてみる事にした。


「海賊になったって時点ですでに世捨て人だったっていう事?」


「俺も昔は国でそれなりの地位にいた元軍人だ、家族もいた」


「それなのに海賊になったって、つまり何か諦めるような事があったの?」


「娘がいてな、でもその娘は流行病で亡くなった、嫁も後を追うように、な」


「そんな事が…悪い事を聞いてしまったわね」


そうした経験から彼は絶望しそのまま海賊に身を落としたという。

それからは海の荒くれ者として一時は名を馳せていた。


だが宝の噂を聞いてそこに向かう中、魔の海域と呼ばれる海域で船が沈んだのだと。


「海賊として宝を探していたという事でいいの?」


「宝も探してたさ、でもな、宝なんてもんは多くは金になんかなりゃしねぇのさ」


「宝がお金にならないって、どういう意味なの?」


「そうだな、嬢ちゃんは宝って聞いてまず何を思い浮かべる?」


「それはやっぱり金銀財宝、宝石や金塊、そういうものかしら」


オルライトが言ったそれはそれこそありがちな回答ではある。

それに対して老人が返した答えはそれとはかけ離れたもの。


宝の定義そのものでもあった。


「違う、のかしら?」


「宝ってのはな、本人が宝だと思ったものが宝になるんだ、例え価値のないもんでもな」


「つまり宝っていうのはその人がこれは自分にとっての宝だと思えば宝だという事?」


「そうだ、俺も宝の噂を聞いていくつか見つけたが、どれも宝とは思えないもんばかりだった」


「それがつまり宝とはその人にとっての大切なものこそが宝である、という事ね」


その老人も宝の噂を聞いてそれを何度か見つけているという。

だが見つけたものはお世辞にも宝には見えないものばかりだったと。


それは宝というものは他人から見たらガラクタでしかない、そういう事なのかもしれない。


「でもそういう答えに行き着くのは宝を実際に見てきたからなのよね」


「まあな、その時悟ったもんだ、俺にとっての宝は妻であり娘だったんだなって」


「それでも今さら(おか)には戻れなかった、そして魔の海域で沈没という事なのね」


「そういう事だ、そんな中俺だけが生き残っちまったのは皮肉な話だぜ」


「そうした結果海賊は廃業して過去や素性も隠して隠居、この村に来たのね」


この村に来たのは海沿いの村だからというのはあるのだろう。

海賊から足を洗っても海への未練がどこかにあるという事なのかもしれない。


かつて一度は全てに絶望した男が死ぬにはいい場所だろう、そう思ったのか。


「壮絶な人生を送ってきたのね、本当に私なんて恵まれてるっていうか」


「お嬢ちゃん、時間のある時ってあるか?」


「時間のある時?そうね、事務仕事は午前中に終わらせるから昼過ぎからなら」


「そうか、なら少し見せたいもんがある、空いてる時にまた声をかけてくれないか」


「見せたいもの?船を使うのかしら、まあいいけど」


老人はオルライトに見せたいものがあるという。

村にいて時間のある時ならいつでもいいから声をかけてくれとだけ言ってきた。


恐らく海に出るのだろうと感じた事もあり、簡単な船も借りる事にした。


「私はまた村の様子を見に行くわね、揉め事とかは起こさないでね」


「分かってる、今はそこまで荒くもないしな」


「ならいいの、それじゃね」


元海賊だという移住者の老人。

オルライトは彼から聞いた話が嘘だとは感じられなかった。


見せたいものがあるという事もあり、時間の空いている時にまた会いに行く事にした。


一度は全てを諦めた男は海で何を見て知ったのだろうか。

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