金型を使って作るもの
冬本番の寒さが吹き抜ける冬の村。
そんな中オルライトがドワーフにあるものを作れないかと頼み込む。
それはパン作りにおいて新たな挑戦とも言えるもの。
ちなみにこの世界では白パンはそれなりにいい値段がするらしい。
「少しいいかしら、作ってもらいたいものがあるんだけど」
「オルライト様、相変わらず突然来ますね、それで何を作るんです」
「こういうのを作って欲しいんだけど」
紙に描かれていたのは食パン作りに使う金型。
つまり食パンを作ろうという事である。
「出来るかしら?」
「一応出来ますけど、この金属の箱は何に使うんですか?」
「食パンっていうパンを焼くのに使うの、この前フユから聞いたものなんだけど」
「食パンですか、つまり成形して作る感じのパンっていう事ですかね」
「ええ、そんな感じね、パンって言うと基本的に保存食の黒パンで白パンは高級品だし」
この世界において白パンは高級品である。
とはいえ昔に比べれば安くなっているとも聞いている。
そんな白パンの食パンを作ろうと金型を作って欲しいと来たようだ。
「村でも食パンというか白パンはもっと広まってもいいと思うのよね」
「そもそも白パンは保存が効きませんからねぇ、高価な理由はそこにあるんで」
「そうなのよね、黒パンは保存食だから日持ちするっていう話だし」
「それに黒パンってそのまま食うもんでもないですしね」
「でも白パンはスープに浸したりして食べると美味しいって言ってたわね」
シチューをパンにディップして食べるという食べ方。
それはシチューに限らず汁物には大体出来る食べ方でもある。
この世界において白パンが高価なのは日持ちしないというのも大きいという。
「白パンはもっと広まってもいいとは思うんだけど、いい小麦を使うから厳しいのかしら」
「どうなんでしょうね、白パン自体は等級の低い小麦でも作れると思いますよ」
「そうなると一般的に売られてる白パンより味は落ちそうなのよね」
「白パンを広めたいならまずは平民でも買える程度の値段になってからじゃないですかね」
「だとしたら村で作る白パンは一般的に流通してるものより質を落とさなきゃいけないのかしら」
一般的に流通している白パンは質がいいからこそ高いものでもある。
そこに日持ちしないという事が加わり高級な食べ物として認知されている。
村で作るとしたらそれより質が落ちるのは仕方なくもなるだろうとの事だ。
「白パンは高価なものではあるけど、食パンっていうのは大衆向けとして売り出したいのよね」
「大衆向けの白パンですか、だとしたら質の低下は避けられないのではないですかね」
「そうなのよね、でもいい小麦を使うにしても、小麦の価格次第なのよ」
「とはいえ食パンっていうのは白パンなんですよ?」
「そうだとは言っていたわよ」
食パンは白パンの一種であるという事。
金型を使った成形パンでもあるので、量産には向いているパンではある。
まずは作れるようになってから考えるのもまた大切だ。
「黒パンも嫌いじゃないんだけど、あれは保存食だから普段から食べるものでもないのよね」
「でも大衆向けの白パンが出来れば、食文化は豊かにはなるでしょうね」
「そうなのよね、あと食パンは基本的に焼いたりパン料理に使う事が多いらしいわ」
「食パン自体はそのまま食べるものでもないんですね」
「そのままでも美味しいけど、使い道も豊富らしいわよ」
食パンがあればサンドイッチやホットサンドなんかも作れるようになるかもしれない。
この世界における白パンはロールパンやデニッシュが主なものだ。
なので食パンはパンの世界に新風を吹き込む事にもなる。
「とりあえずその金型の製作を頼むわね」
「ええ、でもこの鉄の箱でパンを焼くっていう事なんですよね?」
「そうらしいわ、パン生地を型に入れて焼くとその箱の形にパンが焼けるらしいの」
「その結果四角いパンになるっていう事なんですね」
「そうみたいよ、焼いて食べると美味しいって言ってたわ」
食パンはトーストにして食べると美味しいもの。
とはいえトースターのようなものは当然ない。
トーストにする方法もまた考えねばいけないという事か。
「あとは小麦の調達かしらね、小麦の品質なんかも考えないと」
「でも新しいパンを生み出すっていうのは面白そうですね、期待してますよ」
「ええ、任せておいて、まずは金型をお願いね」
「白パンが平民にも普及するっていうのは一種の変革ですからね」
「村発祥のものなんかも増やしていきたいしね」
オルライトもそうした村から何かを生み出すという事に力を入れる。
冬夕の世界にあるものも言葉で聞いて再現してきた実績もある。
村にあるもので再現してしまう辺り、その凄さもまた窺えるという事か。
「まずは試作品が出来たら教えてね」
「ええ、この程度なら数日で出来ると思いますんで」
「分かったわ、期待してるわね」
そんな食パンの金型作り。
オルライトは白パンをもっと普及させたいとも考えている様子。
白パンが高価なのは日持ちせずいい小麦を使っているからである。
大衆向けの白パン開発は上手くいくのだろうか。




