海賊の越冬
すっかり冬本番になり寒風が身に沁みる季節となった。
そんな中村の人達も各自冬の過ごし方をしている様子。
各自の冬の過ごし方をしている中で、冬の楽しみも見つけている人もいる。
そんなオルライトが興味を惹いたのは海賊達の冬の越し方らしい。
「あら、シルヴィラ、何をしているの?」
「おや、オルライト様」
「それって魚よね?魚をどうしているの」
海賊達の親分であるシルヴィラが何かしている様子。
どうやら魚を干しているようだが。
「魚の干物を作っていたのかしら」
「そうだよ、海賊流の越冬のしかたってやつだね」
「なるほど、海賊でも冬の海には出ないって事なのかしら」
「出ないってわけではないね、でも冬の海は危険も多いから出る頻度は落ちるのさ」
「へぇ、そんなものなのね」
シルヴィラ曰く冬の海に落ちようものならその冷たい水で凍死する事もあるという。
死に方において最も苦しみながら死ぬのは溺死だとも言う。
それだけ冬の海の冷たい水温は恐ろしいものなのだと。
「でも魚の干物なんて作れたのね」
「海賊は基本的に食事は自給自足だからね、魚の獲り方なんかにも詳しいしね」
「でも魚の干物って私は好きなのよね、焼いて食べるとまた美味しいのよ」
「ただ保存食っていうのは保存が効かなきゃ意味がないからね、その分塩気も強いのさ」
「確かに干し肉や魚の干物なんかはしょっぱいわよね」
保存食は保存が効かなければ意味がないという。
だからこそ塩をたくさん使うのだとか。
保存食とは塩漬けにする事が基本だからなのだとも。
「それでこの魚は海賊の人達が獲ってきたの?」
「いや、漁村側の人たちに分けてもらったんだ、それでせっかくだからと思ってね」
「それで海賊って冬は主に何を食べてたのかしら」
「過去に作った保存食とか、街で買った食べ物とかかな、お金はあったしね」
「海賊も冬の海の怖さは理解しているって事なのかしらね」
海賊の越冬は基本的に溜め込んだお金を使って過ごしていたという。
とはいえ保存食なんかも作れるので、食べるのには困らなかったとか。
なお海賊と言いながらも漁業の知識もあるようである。
「海賊も苦労してるって事でいいのかしら」
「他の海賊団なんかは海戦の際に冬の海に落ちて死んだ奴もいるしね」
「それはまたなんというか、怖い話ね」
「でも海賊ってのは基本的にはゴロツキだよ、私達を労働力にしようなんて変わり者だね」
「あら、海賊だからってなんの役にも立たないとは私は思ってないわよ」
オルライトは利用出来るものはなんでも利用する性格でもある。
とはいえ奴隷のように使うという事もなく、しっかりと渡すものは渡す事もある。
だからこそみんなしっかりと付いてきてくれるのである。
「それで海賊って娯楽とかはなかったのかしら」
「娯楽ねぇ、物好きな奴は街の賭博場に行ってる奴もいたよ」
「それでもそういう人もいたのね」
「とはいえ海賊は基本的に冬は休業だよ、冬の寒さには勝てないからね」
「冬の海の怖さを知ってるからこそ、冬は極力海に出ないようにするのね」
海賊なりの越冬の方法はあるという事か。
寒い日はそれこそ隠れ家で暖まる事も多かったという。
街に行く事はあまりなく、物好きが賭博場に行く程度だとか。
「それでこの魚の干物って美味しいのかしら」
「美味しいよ、よければ一匹食べるかい?去年作ったものならあるしね」
「いいのかしら、ならいただくわ」
「はいよ、今焼いてやるから少し待ってな」
「ええ、お願いね、楽しみだわ」
シルヴィラが去年作ったという干物を一匹焼いてくれた。
塩漬けの魚なので、焼くと塩の香りが漂い始める。
いい具合に焼けてきたところでいただく事に。
「うん、これは美味しいわね、塩気もいい具合で食べやすいわ」
「気に入ってくれたのなら何よりだね」
「でも海賊が魚の調理にも長けているなんて、海で生きてきたからなのかしら」
「それはあるね、買うより作った方が安いっていうのもあったし」
「魚は海ならたくさん捕れるものね」
シルヴィラが言うには海で生きていると肉より魚を食べる事が多くなるとか。
その関係で魚の調理も覚えたという。
干物の作り方なんかもその過程で覚えたという事なのだろう。
「美味しかったわ、ありがとう」
「別にいいって事さ、こんな私達を雇ってくれた事にも感謝してるしね」
「ええ、海賊の越冬の話とかも聞けて面白いものが聞けたわ」
オルライトなりに賊が賊になった理由などにも興味は示すようではある。
それは賊がどんなに国が支援を作ろうとも生まれてしまう理由でもある。
海賊は海で生きてきたからこそ冬の海の怖さも身に沁みて知っているのかもしれない。
極寒の海に落ちて死んだ海賊もいる、それは冬の海がそれだけ冷たいという事なのだろう。




