異国の細工品
すっかり冬本番となり寒さも身に沁みるようになってきた。
そんな中村によく来る行商人からまた何か買わされた様子のオルライト。
何を買ったのかといえば異国の細工品だという。
その行商人はすっかりオルライトをいい客として見ているようだ。
「また妙なものを買わされたけど、なんなのかしらこれ」
「あら、面白いものを持っているわね、オルライト」
「ファリム、これがなんだか分かるの?」
ファリムはそれが何か分かるというようではある。
なんなのかよく分からないので聞いてみる事に。
「行商の人は異国の細工品って言ってたんだけど」
「これは寄木細工っていう東方の国の細工品ね、ちょっと貸してくれるかしら」
「ええ、でもどうするのかしら」
「ここをこうして、こうするとね」
「開いた…これ、箱だったのね」
ファリムがその寄木細工をチョチョイとやるとそれが開き箱だという事が分かる。
これは東方の国で作られている細工品なのだとファリムは言う。
それなりにいい値段がするもので、からくり箱のようなものなのだとか。
「でも面白いわねこれ、こんなからくりを仕込んであるなんて」
「寄木細工ってそういうものなのよ、面白いでしょ」
「東方の国、こんなものを作れるなんて凄いわね」
「東方の国には面白い細工品なんかも多いわよ」
「ふーん、世界の広さを感じさせるものね」
ファリムが言うには東方の国には独自の文化が根づいているという。
ちなみに近隣の領地には東方から入ってきた文化を持つところもあったりする。
村で仕入れている醤油などは東方から入ってきたものなのだとも。
「でもファリムってそういう事も知ってたのね」
「昔は何かと旅とかしてた事もあるだけよ」
「それで知ってたっていう事なのね」
「それにしてもその行商人はどこから仕入れてくるのかしらね」
「村によく来るって事は、私をいいお客として見られてるって事なのかしら」
行商人は珍しいものを仕入れては村にやってくる。
それはつまりオルライトが買ってくれるという事を理解しているのか。
珍しいものを仕入れてくるルートについても気になる話ではあるが。
「それにしてもこの寄木細工ってよく出来てるものねぇ」
「東方の国にはそういう職人がたくさんいるっていう事なのよね」
「でも東方の国まで行けるって事は、それだけ伝もあるっていう事になるわよね」
「商人っていうのは独自のネットワークを持っているものなのよね」
「だから珍しいものも仕入れられるっていう事なのね、貴族の貿易とはまた違うと思うし」
貴族には商売をしている家もそれなりにある。
だが貴族の商売は基本的に国で消費するものを仕入れるのが基本だ。
それもあり嗜好品を扱うのは貴族とは別の商人である事が多い。
「こういうのは貴族が扱うのは珍しいし、あの行商人は貴族ではなさそうかしら」
「貴族は基本的に国に寄与するのが役目ではあるから、恐らくはそうだと思うわよ」
「商人は国から様々な権利を与えられる職業でもあるものね」
「それにしてもきちんと買ってあげる辺りはお人好しよね、オルライトは」
「貴族がお金を使わないと国は回らないもの」
オルライト曰く貴族がお金を使う事は国への貢献でもあるという。
なのでオルライトは私財からどんどんお金を出しているのもあるとか。
行商人から私財で何かを買うのは別に何も問題はないという事なのだろう。
「私はあくまでも貴族としての役目を果たしているだけだもの」
「貴族がお金を使うっていうのはそれだけ大切っていう認識なのね」
「税金だって貴族がしっかり納税すれば解決する事も多いのよね」
「オルライトが私財からどんどんお金を出す理由ってそこなのね」
「幸いお金には困ってないのもあるしね」
オルライトは個人の資産だけでも一生遊んで暮らせるぐらいは持っている。
それでも国のためにいろいろやるのは貴族としての責任感か。
村の発展のために私財を投じるのも、行商人から即決で物を買うのもそういう事である。
「でもファリムが教えてくれたおかげでこれが何かは分かったわ」
「面白いものを売りに来るものよね、その行商人は」
「やっぱり独自の仕入れルートやネットワークがあるんでしょうね」
「商人ってそういうものよ、伝やコネを作るのは大切よ」
「人脈の大切さっていうのを思い知らされるものねぇ」
行商人はそれだけ人脈や伝やコネを持っているという事か。
商人という仕事は人の繋がりが大切だというのを再認識する。
オルライトもきちんと買ってあげようと思ったようだ。
「また何か分からない事は教えてよね」
「必要とあればいつでも教えてあげるわよ」
「頼りにしてるわね、ファリム」
そんな行商人から買った東方の寄木細工。
まさにからくり箱と呼べるそれは面白いものだった。
ファリムはかつて旅などもしていたというが、謎は相変わらず多い。
お金を使う事の大切さもオルライトは理解している。




